ヘタレじゃないもん。

久米橋花純@旧れんげ

ヘタレ、って違うし。

「やーい。ヘタレ~、消極的〜。」

そうやって、からかってくる。別に私、ヘタレじゃないし。

「違うって。ちゃんと、アピってる! ……つもりだって。」

自分なりにアピールしてるんだけどな。

「まあまあ、由衣ゆいもそんなこと言わないの。春乃はるのだって、がんばってるんだから、ね?」

そうやって私を庇護してくれるのが、聡美さとみ

「聡美は春乃に甘いのよ。私だって、こんなきついこと言いたくないけどさ、応援してるんだからね!」

「わかってるって。ありがとね、由衣。」

「別に……。」

見てわかる通り、由衣はツンデレだ。別に、私のこと応援してくれてるのはわかってるからいいんだけどね。

「あ、」

由衣が小さな声を発した。ギリギリ聞こえたけど。なんだろうと思い、ふと後ろを向くとそこには、優真ゆまがいた。

「……。」

あちらもこちらに気づいたようだが、なぜか全員黙っている。普段うるさい、由衣でさえ。

「……おはよ、優真。」

最初に声をあげたのは、私だったんだ。自分でも驚いた。

「……あ、はい……。」

と消え入りそうな声で言ったのは、ほかの誰でもなく、優真だった。そりゃ、あいさつはまだしてくれないけど、答えてくれるだけうれしいと思ってしまう私もいる。

「やった~。今日のノルマ達成♪」

「よかった~。見ててハラハラしてたんだよね。」

え、なにノルマって? え、なに見ててハラハラって。二人とも、私をハメた?

「二人して、私をハメたのね!?」

「別にはめてないし。」

「だって、最初にあいさつしたのがたまたま春乃だっただけじゃんねぇ?」

ニヤニヤと顔を見合わせる二人。別に、話せたからいいけど。

いや、普通、これが日常だと思うじゃん? あの日から、急に、変わったの。



「……おはよ。」

彼が急に、私に声をかけてきたことがきっかけだった。最初、私に言ったんじゃなくて、周りに、仲のいい男子がいるのかと思って、少しきょろきょろしてしまった。「春、乃……。」

彼は消え入りそうな声で、私の名前を呼んだ。

「……え、あ、おはよ、優真。」

そういえば、よく見るとこの教室、私と優真しかいなかった。二人きりってこと?

そんなことより、え、今、優真、私のこと、名前で呼んだ? 普段、誰の名前も呼ばない、のに? え、待って。パニックパニック。どういうこと? え、春乃っていう、お姉ちゃんか妹でも、いるの?

「……いつも、なんで、こんなに、早いの……?」

「え?」

いつも、早い理由? カクヨムやりたいのと……。ただ、優真が……いや、なんでもないな。

「私は……、誰もいない場所で、ゆっくり小説書くのが、好きなの。」

「そうなんだ……。」

興味を持ってくれたのかな。普段だったら、絶対、話しかけないシチュエーションなのに。

「そういう優真はどうしてなの?」

「人が、多いの、いやだから……。早めに、来ないと、やだ。」

「あ、そうなんだ。」

沈黙が流れる。な、なんか顔が熱いような、熱くないような?

「そういえばさ、修学旅行の班さ、どうなるんだろうね。」

「……確かに。」

「誰が一緒がいいとか、あるの?」

「ん~、でも、仲のいい人とかが、いいよ。」

「それは、さとるとか、ってこと?」

「そう、だね。なんか、話せないと無理かも。」

「女子は? どうするの? 話せる人いる?」

「……春、乃、とか……?」

え、なになになになになになに。待って待って。本当に、え? は? ん? もういいや。考えるのを放棄しよう。

「私も、優真と、一緒が、いいなぁ。」

びっくりした。私からこんな言葉が出るなんて。だって、由衣にヘタレとか言われてたもん。好きな人と話せない、ってバカにされてたし。私ってこんなに積極的だっけな?

「……!? それ、ほんと……?」

勢いで言っちゃったけど。

「うん。だって、私……。」

どうしよう。今、絶好のチャンスだけど。急に言われても、気持ち悪いよね。

「優真のこと、好き……。」

あああ。言っちゃった。でももう引き返すことなんかできないんだよね。ぎゅっと目をつぶって声を待つ。

「それ、本当だよね? 嘘じゃないって、ちゃんと言えるよね……?」

本当だけど、どうしてそんなに怖がっているの……?

「本当。この場で嘘つく必要なんて、ないし。」

「俺も、好きだよ。」

?? 誰のことが? 自分のことが? え、でもそんなナルシストじゃないよね。

「え、だれが?」

「……は、春乃の、ことが。」

…………? ???????? え待って待って。本当に訳が分からないよ。春乃ってだれ? え、同姓同名? 

「????」

「え、待って。理解できなかったの?」

「いや理解も何も、それ私に言う言葉じゃないんじゃないの?」

「いやだって、春乃のことが。好きなんだよ……?」

え、これ夢じゃないよね? これで夢オチとか本当に嫌なんだけど。

「そ、そうなの? え、ほんと?」

「ほんと。」

「……しんじ、られない。」

でも、私はこの言葉を信じたい。

「じゃあ、もう一回言うね。春乃のことがすきです。……つ、付き、合って……?」

もう一回言われたら、信じるしかない、よね……!

「……っ、こちら、こそっ!」

こうして私の日常が消えた。……いい意味でだけどね。



「「はぁぁぁ!? 付き、合ったぁぁ!?」」

うるさい。やっぱり周りがいないときでよかった。

「え、待って。え、優真、いつ告ったの。てか、お前、好きな人、いたの!?」

別に好きな人くらいいたっていいじゃん。

「朝。たまたま二人だったから、話してただけだし。」

「え、そこから告白するん?」

「いろいろあっただけ。」

「え、名前呼べないのに? 付き合えんの? お前がイケメンだからか。うらやましいよな、イケメンは。」

「智もイケメンだろ、な、優真。」

別に、イケメンとか関係ないと思うんだけど。

「そうなんじゃない?」

「ちなみに、だれ?」

そういえば、この人たちは仲よかったはずだよね、あっちと。

「あ、優真は名前呼べないか。じゃあ、当ててやるよ。」

あきは誰だと思う?」

「いやー、知らん。……いやでも、由衣とかそこらへんじゃね?」

「ああ! 確かに! 優真ってなんか由衣とは話せてるよね。」

「だって、幼馴染だもん。そりゃ話せるよ。ちっちゃいころから一緒なんだから。」

「「……はあ!?」」

あれ、言ってなかったっけ。別にずっと一緒にいれば名前くらい呼べるし。アイツは兄弟みたいなもんだし。

「いやいや、聞いてないそれ。」

「じゃあ、由衣のことは名前で呼べんの?」

「呼べるよ。人前じゃ呼ばないけど。」

「……。」

黙ってしまった。そんなに俺が由衣と仲良いの、嫌なのか。ン? ナンデダ? モシカシテコノヒトハ、ユイノコトガスキナノカ?

「で、それはどうでもいいから、だれなの?」

話を変えた。どれだけ好きなんだよ~。

「由衣と仲がいいってことは、春乃とかじゃない?」

「……正解。」

「あ、まあでも納得かもしんない。」

別に、コイツらばれても何も問題ないし、仲イイから報告しときたかっただけなんだよなぁ。

「にしても、女子とあんなに話せない優真に俺より先に彼女かぁ。なんかめっちゃ悔しいな。」

「なんだよ、それ。」

「なになに智。そんなこと言うってことは、好きな人でもいるのか〜?」

あらら。無駄なこと言わない方が、身のためだと思うんだけど。

「う、うるさいっ、暉! お前には関係ない!」

「誰が好きなの? もしかして、春乃、ではないか。じゃあ、由衣とかなんじゃないの?」

「……っ!」

「図星じゃ~ン。由衣かぁ。どう思う? 優真。」

「いいんじゃないの。付き合いそうだよね。」

さっさと由衣には彼氏ができて、頼れる相手を作ってほしいなぁ。

「優真、それ本当だよな?」

「保証はしないけど。別にいけると思うよ。」

「俺が、由衣のこと好きって広めんなよ!」

「私が、なにを広めるって?」

わぁ。びっくりした。なんだ由衣か。一番びっくりしたのは絶対俺じゃないけど。

「わぁあ、ゆ、由衣……。な、なんでもない!」

「ちょっと、あとで話聞かせてね、智。……で、優真。あんた、付き合ったなら早く言いなさい! 私はお互いの相談聞いてたんだからね!」

なんで話の矛先が俺に向くんだよ。

「ごめん。」

「ねえ、由衣。先行かないでって言ったじゃん~~。」

俺が謝った途端、向こうから春乃が駆けてくる。

「あ、」

そう小さく発した声はみんなに届いていたらしい。

「……邪魔者は、退散するか。」

由衣の言葉にみんな乗って、どこかに行ってしまった。

「……。」

お互い黙りっぱなしだ。二人きりなんて、朝ぶりだから緊張しないはずなんだけど、付き合った実感がまだないから、すごいドキドキする。

「優真、私さ、智と由衣って、付き合いそうだと思うんだよね。優真はどう思う?」

「俺も……、そう思うけど、なんで急に……?」

「さっきまで、由衣が智のこと好きなんだろうな~、っていう感じの話をしてて。ツンデレだから、なんか嫌いっぽく言ってるけど、はっきり言ってあれ好きなんだろうな、って思った。で、智もなんか満更でもなさそうだから。」

「……確かに、ね。あそこが、もし、付き合ったらさ……、」

言葉を切ってしまう。いくら心で思っていても、やっぱり口にするのは難しい。

「だ、ダブルデート、しよ……?」

「……! もちろん!」

やっと、一つ夢がかないそう。これ、兄に言ったら、驚愕されそうだな。

(お前、女子のことが苦手で、消極的で、陰キャで、ヘタレだったのに、彼女できたのか!?)って。

由衣の恋模様もすごい荒れてきそうだし。

まあ、智が由衣に告白してどうにかなってしまうのは、また別のお話。



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