自動人形のバラッド(シナリオ)

東條零

第1話 スラム街。石畳の路地。

  スラム街。石畳の路地。

  雨がシトシト降っている。

  アパルトマンの玄関ステップの前に座り込む中性的な少年(ミシェリ)。

  何も映さない瞳。こちらをぼうっと見ている。

  ミシェリの前に男が倒れている。

  石畳の上に俯せに倒れている男の頭部から血が流れて広がり雨に混ざる。


キィス(モノローグ、以下M)「そいつは、まるで落ちてるように座っていた……」


キィス(M)「雨に溶ける銀の髪と、血の通っていないような白い頬。色彩を失った街に、真っ赤な靴だけが、妙に印象的だった……」


  ミシェリ、女の子座りでぺたんと座っている。

  足首までの、赤い、変わったスニーカー。



タイトル『自動人形のバラッド』



  キィス、倒れている男の頸動脈に手を触れる。


キィス「駄目だな……」

キィス「(ミシェリに)おい、ぼうず、こいつの連れか?」


  ミシェリ、倒れている男の脈を取る。


ミシェリ「死亡、確認。待、機命令無効。リセッ、ト開始」


キィス「はぁ?」


  ミシェリ、うつむく。ブゥンと唸るような音。


ミシェリ「リ、セット完了。再起動コマ、ンドを、入力してください」


キィス「自動人形……? まるで生きてるみたいだぜ」


ミシェリ「入力、された、リコ、マンドが違います」


キィス 「よしてくれ。俺は、自動人形のご主人様になんぞ、なる気はないぜ」


  キィス、ミシェリに背を向けて歩き出す。


ミシェリ「(キィスについて歩き出す)リコマンド、が、違います……」


キィス「(立ち止まる)おいおい……待てよ。冗談だろう?」




  移動トランスポーター(救急車みたいな)のジャンク屋。

  若いエンジニア崩れ(ラジ)が営業している。

  人型ロボット用の部品が散らばる車内。

  ラジがミシェリを診ている。


キィス「どうだ? ラジ」

ラジ「ふうん。ほら、キィス、ここ、見ろよ(ミシェリの左こめかみを指す)」


キィス「あぁん?(見る)」


  針で刺したような傷がある。


ラジ「殺し屋に狙われたんだろうな」

キィス「殺し屋? 死んでたのは、こいつのご主人様のほうだぜ?」


ラジ「庇ったんだろう?」

キィス「護衛用の自動人形には見えないぞ?」

ラジ「だから装甲も弱い。簡単に傷がつく。有機ボディだから、もう傷自体はふさがりかけてるが、機械部分のどこかが壊れている筈だ」


キィス「で?」

ラジ「しがないジャンク屋ふぜいには、直せない最新型ってことだな(肩をすくめる)」


キィス「ふん。じゃあ、ここに置いていく。好きに処分してくれ(立ち上がる)」


ミシェリ「(続いて立ち上がる)リ、コマンドを、入力してください」


キィス「(頭を抱え)なんなんだ? こいつは……」


ラジ「(笑う)言っただろう? 壊れてるんだよ。こいつは、リセット直後に目にしたあんたを主人だと思っている。卵から孵った雛状態だな。だが、自動人形としてのセキュリティは働いているってわけだ」


キィス「一生、俺につきまとうってのか?」

ラジ「どうしても嫌なら方法はある」

キィス「俺には、人形のペットを飼う趣味はないね」


ラジ「じゃあ、方法を教えよう。リコマンドを見つけだし、こいつに主人として命令することさ。二度と俺の前に現れるな、ってな」


キィス「……マジかよ……?」


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