宇宙(そら)生まれの僕と氷の指揮官 〜地底の呼び声とアース・アンティング〜

@itoichukai

第1話 地の底の光

 ――その日、地底探査隊〈アンダーライン7〉は、標高−3200メートルの岩盤層で異常な反応を検出した。地熱でも鉱脈でもない。地球上では観測されたことのない、規則的な電磁波パターン。計器の針が震え、空気が低く唸った。


「……聞こえるか? この下だ。まるで“呼吸”してるみたいだ」


 隊員の一人がヘルメット越しにつぶやく。ライトの先、暗闇の裂け目の奥で、岩肌が微かに光っていた。人工的な線条が脈打つように明滅している。


「自然じゃないな」「掘り進めるぞ」


 ドリルが回転を始め、重たい音が響く。やがて、岩壁の一部が崩れ落ちた。 現れたのは――鏡のように滑らかな金属壁だった。だが、それはどの金属とも違う。触れると、冷たいのに、柔らかい。まるで生き物の肌のように、指先が吸い込まれる。


「これ……機械か? それとも――」


 そのとき、壁の中心に光が灯った。輪のように広がり、静かに開いていく。中から現れたのは、白い衣をまとった女。透き通るような肌。瞳は深海のように澄んでいる。誰も声を出せなかった。彼女は微笑むと、両手を差し伸べた。


「来て……」


 隊員が震える足を踏み入れた瞬間、強烈な光が洞窟全体を包んだ。映像記録はそこで途切れている。回収されたカメラには、焦げ跡のようなノイズだけが残されていた。


 三日後――地底探査隊〈アンダーライン7〉は、全員消息を絶った。ただ、ネット上には一枚の画像が流出していた。 白衣のような服を着た女性が、光の中で微笑んでいる写真。投稿タイトルには、こう書かれていた。




 《地の底に“天国”を見た》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る