第11話 諦観1 side:シェルダン


 今朝、早馬で彼女から連絡があった。


『大切なお話があります。正午にご両親と必ずお越しください』


 そのような内容の手紙だ。

 そういえば、最近アレットと会っていなかった。

 前侯爵の葬儀以降、クロディーヌとの逢瀬を重ねていたから…


 ただ、両親も同伴という事に違和感を覚えた。


 式が延期となった事は既に聞いているし…いったいどんな話だろう。

 そう思いながらアルブルグ家に伺い、アレットに告げられたのは…



「皆様、お忙しい中、お越し下さりありがとうございます。本日私とパドリアス子爵令息であるシェルダン様は婚約を破棄する事になりましたので、ご報告申し上げます。理由は…あなた自身が良くご存じのはずよね? シェルダン」



 突然の事だった。

 アレットは冷めた目で僕を見つめている。


 それに『理由』って…ま、まさか!

 セリルが言ったのか?! あいつ…!!


「ア、アレット…? どういう意味だい? ぼ、僕には何の事だか…っ」


 知らぬ存ぜぬを押し通そうっ

 セリルが何もかも暴露しても、証拠はない。

 見間違いだと、否定し続ければいいっ


 きっとアレットは納得してくれるはずだ。

 だって、彼女は僕を愛しているのだから…!


 なのにアレットはいつの間に調べたのか、僕とクロディーヌとの密会写真をテーブルにぶちまけた。


 それを見たアレットの伯父であるエンディミオン侯爵が怒鳴りながらクロディーヌの頬を殴り始めた。

 何度も…何度も!


 僕と両親はその気迫に圧倒され、口をつぐむしかなかった。

 元より、侯爵家の当主に異を唱える事などできるはずもないっ

 そしてアレットは婚約破棄と慰謝料を要求した。


「証拠は十分にあると思うわ? シェルダン。よってあなたと婚約破棄を申し立てます。もちろんあなたの有責だがら慰謝料を請求させていただくわ。事前に弁護士に算出してもらった金額よ」


 渡された書類に記載されている数字を見て、驚愕したのは僕だけではない。

 両親も言葉を失った。


 婚約破棄となれば、爵位を持てなくなる。

 子爵家の次男の僕が一生かかっても払える金額ではなかった。

 それに子爵家とは言え、パドリアス領は小さい。

 支払えたとしても、何十年もかかるだろう。


 第一、後継者である兄が黙っていないだろう。

 婚約者の母親との不貞を理由に婚約破棄された弟のために、莫大な慰謝料を払うなんて…


 その法外な金額を前に固まっていると、アレットがある条件を飲めば減額すると言い出した。


 それはクロディーヌと結婚する事、そして今後クロディーヌの事に関してアルブルク家は一切関知しない事を了承する旨の念書に署名捺印する事だった。


 クロディーヌと結婚?!

 そんな事を受け入れたら、パドリアス子爵家は醜聞にまみれる。


 婚約を破棄されたのに、その原因が元婚約者の母親との不貞。

 さらにその母親と結婚するなんて…モラルを問われるに違いない。


 クロディーヌも僕との結婚を強く拒絶している、それもそうだろう。

 贅沢しか知らないクロディーヌが、爵位を持たない僕との結婚生活に耐えられなくなるのは目に見えていた。


 僕だって…一回りも年上で、子供も産んでいる…そんな女を妻に持つなんて御免だ!


 けど…その条件を飲まなければパドリアス子爵家は破滅する!

 何よりも侯爵家からの要求を拒否する事などできるはずもない!!


 騒いでいたクロディーヌがアレットの指示で部屋から追い出されると、僕は目の前に突き付けられた婚約破棄承諾書と念書に署名捺印せざるを得なかった。

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