第30話 ギルラントとマルセリナ
~ギルラント視点~
ギルラント・ロードは、機嫌がよかった。
退屈凌ぎにはじめた魔剣競技会も、参加メンバーが顔なじみになってきて、マンネリ化していたところだった。
そんな折、家族連れの男が参加申し込みをしているのを見かけた。
最初は、世間知らずの田舎者が興味本位で参加しているのだと思った。
柄の悪い連中に絡まれているのを見た時も、助けるつもりはなかった。世間知らずには、いい洗礼になるとすら思っていたからだ。
しかしその男は、自分よりも屈強な男たちをいともあっさり倒した。
(レド・フェルダンか……)
あの男は受付をすませるまでは、ぼんやりとした目つきで覇気すら感じられなかった。
しかし、男たちと対峙した瞬間、その目が獣のような鋭い眼光に変わった。
思い出すと、ゾクッとする。
あれは幾度もの修羅場を駆け抜けた人間の目だ。
その気になれば躊躇なく相手を殺す冷徹さが備わっていた。
最後の一人がナイフを持ってレド・フェルダンに襲いかかってきた時、気づけば身体が動いていた。
あの男なら、こちらが手を出さなくてもナイフを持った相手を倒していただろう。
それでも助けたのは、自分の存在をあの男に知らしめたかったから。
決勝で戦うことになるであろう相手に、自己紹介したくなったのだ。
今、部下にはレド・フェルダンのことを調べさせている。
魔剣競技会の申し込み書には彼の所属ギルドも書いてあるから、冒険者としての彼の経歴くらいは調べられるだろう。
明日の魔剣競技会について後援者たちと話し合いを終えたギルラントは、姉のいる劇場の控え室へと向かった。
「あら、ご機嫌ね。ギル」
鼻歌まじりで劇場の控え室に入ると、ソファーに座り、優雅に紅茶を飲んでいる双子の姉の姿があった。
ギルラントはマルセリナの向かいの席に腰掛けた。
「明日の試合が楽しみだからさ」
「試合って明日の魔剣競技会でしょ? あんたも飽きないわね。私はパスするわ。だって、毎回同じ人たちと戦っているし、あんたが優勝するに決まってるんだもの」
マルセリナは退屈そうな溜め息交じりに言った。
だがギルラントはそんな姉に意味深な笑みを浮かべる。
「ところが今回はいつもと違う展開になりそうなんだ」
「あら? 新規の参加者がいるの?」
「ああ……しかも久々に戦い甲斐のある、すごい奴だ」
双子の弟の弾んだ声に、マルセリナは紅茶を一口飲んでから、興味深そうに弟の横顔を見た。
弟の表情は嬉々としたもので、新たな獲物を見つけた獣を思わせた。
「あなたがそんな顔をするなんて、よほど強い人が参加するみたいね。どんな人?」
マルセリナが興味深そうにそう問いかけた時、ドアをノックする音が聞こえた。
ギルラントはニヤッと笑う。
「ちょうど、今日の参加者希望のリストを持ってきてくれたみたいだ。Aランク以上の冒険者であれば、エモール支部から何らかの情報がウチに入っている可能性はある」
ギルラントは情報屋として、全国各地の冒険者ギルドに登録されたAランク以上の冒険者たちの情報を収集していた。
部屋に入ってきたのは、参加受付を担当していた青年だった。
彼は淡々とした口調で、手に持っている資料を見ながら報告を始める。
「本日の参加希望者は一名。Aランク冒険者のレド・フェルダンのみです」
「Aランク冒険者? どこがすごい奴なのよ」
報告を聞いて、あからさまにがっかりするマルセリナ。
しかしギルラントは、そんな双子の姉の反応にニヤニヤとする。
「マルセリナも肩書きで人間を判断するようになっちまったのか?」
「あら? じゃあ、そのレドって男、ただのAランクじゃないってこと?」
「報告を続けてくれ」
ギルラントに促され、青年は頷いてから報告を続ける。
「レド・フェルダンは、エルヴェノム領のエモール町にある冒険者ギルドでAランクの資格を取得しています。一人でゴールデンボアを退治したようですね」
「ゴールデンボア? あの魔物、ランクはAだけど、一人で倒せる代物じゃないじゃないじゃない。少なくとも補助魔術が使う人がいないと……」
驚くマルセリナに、報告を聞いていたギルラントは思い出したように手をポンと打った。
「そういえば、王国騎士団に一人でゴールデンボアを何度も捕獲している化け物がいるって話を聞いたことがあるな。あいつ、名前なんだったっけ?」
「今はそんなのどうでもいいじゃない。下手したらSランクの冒険者でも手こずる魔物を一人で倒すなんて……エモールみたいな田舎町で燻ってる場合じゃないわよ」
「だから王都に来たんだろ。あの身のこなしといい……隙のなさといい……多分、兵士か傭兵……もしかしたら騎士かもしれないな」
「ふーん?」
「しかも、幾度も修羅場を経験してるぜ、ありゃ。はっきり言って、目がやばかったからな」
「あなたにそんなこと言わせるなんて相当ね……いいわ。今回は魔剣競技会を見に行くことにするわ。久しぶりに、あなたが楽しそうに戦う姿が見られそうだから」
マルセリナは紅茶を軽く持ち上げ、乾杯のポーズをとるのだった。
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