第27話 鉄道の旅
ギルラント・ロードとマルセリナ・ロード。
ロード家は社交界など表の世界には滅多に姿を見せないが、国王陛下からの信頼は厚く、絶対的な権力を持つ一族だ。
彼らはあらゆる情報や資金を提供し、主人公イライジャを陰から支えてきた。
マルセリナは劇場のオーナーである一方、女優として王族や貴族たちを魅了する存在でもある。
ギルラントはオークションハウスのオーナーでありながら、Sクラスの冒険家だ。
二人は情報屋としての顔も持っていた。
確か、あのオークションハウスは匿名での出品も可能だったはずだ。ただし、そのためにはオーナーとの直接交渉が必要になる。
小説だと、好戦的なギルラントは、姉が経営する円形劇場で魔術と剣技を競う魔剣闘技会を常に開催し、自らも出場していた。
主人公イライジャは闇組織の情報を得るため、ギルラントを訪ねる。
しかし、イライジャを闇組織に関わらせたくないマルセリナは、情報提供に反対した。
そこでギルラントは提案する。
「魔剣闘技会で俺に勝ったら、何でも言うことを聞いてやることにしてんだ。俺に勝てたら、教えてやる」
イライジャは魔剣闘技会に出場し、ギルラントとの戦いに勝利する。
そして、めでたく闇組織の情報を手に入れたのだった。
主人公のようにうまくいくかどうかは分からないが、俺も魔剣闘技会に参加してみるか。
ギルラントに勝てれば、俺の願いを聞き入れてくれるかもしれない。
まぁ、上手くいかなかったとしても、王都への旅行だと思えばいい。
ヴィオルはまだ王都に行ったことがないんじゃないだろうか。
賑やかな町並みも見せたいし、王城も見せてやりたい。
真っ白な壁と翡翠色の屋根が美しいセレスティア城は、まるで童話に出てくるようなお城だ。
それに、魔道列車にも乗ってみたい。
エモールの町には王都へと続く鉄道がある。魔力を燃料として動く魔道列車は東の大陸にある大国ハーディン王国が開発、実用化したものだ。
海を隔てた隣国であるセレスティア王国は鉄道開発に協力していたこともあり、ハーディン王国に次いで実用化が決まった。
列車には各駅停車と特急がある。
特急なら、王都へは半日もしないうちに到着できる。
俺はエモール駅に立ち寄り、特急の指定席を予約することにした。
◇◆◇
三日後――
エモール駅。
赤煉瓦の駅舎のエントランスに足を踏み入れると、目の前に広々としたホールが広がる。
行き交う人々、ベンチに座る人々。出店でパンや果物、お弁当を買う人たちもいる。
「二番ホームがセレス行きだ」
セレスティア王国の王都の名はセレスという。
俺とリリ、ヴィオルは二番線ホームへ急いだ。
馬車でエモールの町まで来たのは良かったが、ギルドの厩舎に馬車を預ける手続きに手間取ってしまった。
出発時間ぎりぎりだ。
俺はヴィオルを背負い、リリの歩調に合わせながらも急いだ。
ピィィ――――ッ!!
出発の笛が鳴ったと同時に、俺たちは列車に飛び込んだ。ぎりぎり間に合った。
やれやれと息を吐きながら、俺たちは最後尾の車両を目指して歩く。
あー、これが異世界の列車『セレスエクスプレス』かぁ。
魔力で走っているせいか、意外と静かだ。
ちなみに列車は三両編成。先頭が自由席、真ん中が指定席、一番後ろが個室車両だ。
せっかく乗るのだから、やっぱり個室がいいに決まっている。
予約していた個室の戸を開けると、そこにはソファーとテーブルが設置され、窓からは エモールの町並みが見えた。
「すごい、すごい、すごぉぉぉい!」
予想以上にヴィオルが興奮し、目を輝かせながら窓の外を見ている。
ああ、やっぱり奮発して個室にして良かったぜ。
王都へは、俺とリリ、ヴィオルの三人で行くことになった。
エドガーとベルタ、それからラピスは留守番をしてもらうことに。
ラピスはエドガーやベルタにもすぐに懐いて、我が家の番犬となっていた。
特にエドガーは、ラピスを猟犬にすると言って、狩りの際には共に出かけるようになっていた。
二人と一匹には、王都の土産を買って帰ろうと思う。
さっそくリリがテーブルの上に朝食のセットを用意してくれる。
キッシュ、フルーツサラダにロール状になったサンドイッチ。それからデザートにはクッキーやカップケーキまである。
駅でもお弁当は売っていたけれど、やっぱりリリの料理が最高だ。
「おいしいねえ、パパ」
「ああ、美味いな。ヴィオル、どんどん食べろよ」
「うん」
俺の言葉に嬉しそうに頷くヴィオル。
本当に親馬鹿かもしれんが、天使のように可愛いんだ、これが。
王都セレスまでは、まだしばらく時間がある。のんびりと鉄道の旅を楽しむことにしよう。
鉄道の旅は思いのほか快適で、俺はソファーの上で横になって眠っていた。
カタンコトンという音、心地よい振動、ふかふかのソファーが否応なく眠気を誘う。
俺の意識はだんだん遠のいていった。
◇◆◇
『佳村、悪いけど契約書の確認と修正、やっといてくれない? 俺、この後、大事な用事があってさ』
……ん?
あれ? ここは会社のオフィスか。
やっと他の奴から頼まれた仕事を終えたと思ったら、今度は絵野が契約書の束を押しつけてきた。
……こいつ、相当仕事ため込んでいたな。
今まで俺はどうしてこんな奴の言うことをホイホイ聞いていたんだろう?
自分自身が嫌になる。
こんな奴に親しみを覚えていたなんて。
俺は鋭い眼差しを絵野に向け、凍り付くような声で一言告げた。
「目障りだ、消えろ」
その瞬間、ハッと目を覚ました。
見慣れない天井だ。クリーム色をした天井に、楕円形の照光魔石がはめ込まれていて、部屋全体を照らしている――そうだ、まだ鉄道の中だった。
ゆっくりと起き上がり、額を押さえる。
……なんつう夢だよ。
忘れかけていた頃に、前世の夢を見るとは。
でも、無情なレドークだったら、理不尽に仕事を押しつけてくるような奴がいたら、同じように言っていたかもしれない。
あの時の俺も、少しくらいはレドークの爪の垢でも煎じて飲んでおけば良かったんだと思う。
まぁ、嫌な前世のことは、とっとと忘れるに限る。
今は優雅な鉄道の旅を楽しみたい。
「パパーッ! 見て!!」
その時ヴィオルが声をかけてきた。
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