第9話 朝の体操、そしてお買い物

 朝。

 運動不足解消のために、俺はトレーニングを始めることにした。

 まずはラ〇オ体操第一。心の中であの曲を思い出しながら、屈伸や頭を前後に曲げる運動をする。


「あ……あの、朝から何をしているのですか?」


 庭に出て体操している俺を見て、不思議に思ったのだろう。

 なぜか顔を赤くしながら尋ねてくるリリに、俺は親指を立てて答えた。


「運動前の準備体操だ」

「ジュンビタイソウ、ですか?」


 そういえば、この世界ではあまり準備体操という概念はなかったかもしれない。

 騎士団の訓練前も、なんとなく手足を伸ばしたり跳躍したりはしていたが、体操という感覚ではなかったな。


「リリもやってみるか?」

「私でもできるのですか?」

「もちろん。小さな子供でもやっている体操だ。俺の動きを真似すればいい」

「その……私も服を脱いだ方がいいですか?」

「え……!?」


 もじもじしながら質問するリリに、俺はハッと自分の格好に気づく。

 やべ……今の俺、上半身が裸だった。

 慌ててブンブンと首を横に振る。


「い、いや! 俺はこれから激しい運動をするし、暑がりだから上を脱いでるだけで。リリは準備体操だけだから、脱ぐ必要はないよ」

「そ、そうなのですね。では、このままの格好で体操してみたいと思います」


 リリも自分の勘違いが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして焦った口調で言った。

 ううう……恥ずかしそうに頬を両手で押さえる仕草も可愛いな。

 小説を読んでいた頃から好きなキャラだったけれど、こうして改めて見ると、想像していたよりも遥かに可愛い。

 俺は一度深呼吸をして、ドキドキする心臓を落ち着かせることにした。



 俺とリリが両手を伸ばす運動をしていたところ、元々着ていた服に着替えたヴィオルが外に出てきた。

 服はリリが洗濯し、風魔術で乾かしてくれたので、かなり綺麗になっている。

 不思議そうにこちらを見ているヴィオルに、俺は笑顔で声をかけた。


「ヴィオル、お前もやってみるか?」

「う、うん」


 こうして俺、リリ、ヴィオルの三人は並んで朝の体操をすることになった。

 俺の動きを見ながら、一生懸命手足を動かしているヴィオルが可愛い。

 リリもじっと俺を見て、同じように手足を動かしている。


「何だか身体がすっきりした感じがします。私は朝食の準備をしてまいります。ヴィオル様はどうしますか?」

「僕……ここにいる」


 リリは頷いて、朝ご飯の準備のために台所へ向かった。

 俺はトレーニングの続きを始める。

 まずは腕立て伏せだ。

 両手を地面につけ、片方の手は腰に。足を広げて、片手腕立て伏せを始める。

 ヴィオルもそれを真似しようとするが、ぷるぷると身体が震え、くしゃっと体勢が崩れてしまった。


「ヴィオル、まずは両手でやってみよう。膝をついてもいいから」


 俺は一度四つん這いになり、両手で腕立て伏せをしてみせる。

 ヴィオルはそれを真似て、一生懸命腕立て伏せを始めた。

 俺も再び片手腕立て伏せに戻る。

 しばらく運動していなかったから、やっぱり身体が重いな。

 それから丸太を背負ってスクワットを始める。

 その横で、ヴィオルが膝を屈伸させている。

 一生懸命な姿が、また可愛い。


「ヴィオル、無理はするなよ。疲れたら休んでいいから」

「う……うん」


 俺の声かけに、ヴィオルは嬉しそうに頬を紅潮させた。

 もう一度言うが、一生懸命な姿が可愛い。

 これが父性ってやつなのだろうか。

 俺、前世では結局結婚もせず、子供もいなかったからよく分からないけれど。

 黒髪に黒色の瞳は俺と同じだし、顔も甥っ子だから俺に似ている。

 何だか、本当に俺の息子みたいな気がしてきた。

 懸命に俺の真似をするその姿を見て、俺もまた嬉しくなって、トレーニングが楽しく感じられるのだった。


 ◇◆◇


 エモールの町。

 フェルフォレストから最も近い大きな町だ。

 俺、リリ、そしてヴィオルは馬車に乗ってこの町へやってきた。

 こいつは実家にあった古い馬車で、二頭の馬は老馬、塗装がはげた木製の車体、紋章版も色あせている。傍から見たら貴族の馬車とは思わないだろうな。

 馭者はいないので、操縦は俺が担当する。

 馬車は預かり所があるので、そこに預けることができる。

 ここから先は徒歩だ。

 さっそく近くの服屋に立ち寄ることにした。

 大きな店構えで、中に入るとドレスなどの正装から平服まで、さまざまな種類の服が棚に並んでいる。

 俺とリリは子供服のコーナーへ向かう。

 そして試着室で、ヴィオルにいろいろな服を着せてみる。


「チュニック、可愛いな」

「正装服も可愛いです」

「おお、魔術使いのフードも可愛いぞ!」

「レドーク様、ご覧ください! 寝間着も可愛いです!」

「本当だ!」


 どれを着せても可愛いものだから、着せ替え人形のように次々と試してしまった。

 そして試着した服は、結局すべて購入してしまった。

 我ながら、親馬鹿だ。

 ヴィオルには、一番着心地が良くて動きやすいシャツとズボンを着せることにした。

 新しい服に戸惑うヴィオル。


「ヴィオル、よく似合ってるよ」

「ホント? ……僕、変じゃない?」

「もちろんだよ。今のヴィオルは、世界で一番可愛いぞ」

「……っっ」


 親指を立てて片目を閉じる俺に、頬を紅潮させ、顔を綻ばせるヴィオル。

 実の親から、そんなふうに言ってもらえたことがなかったんだろうな。

 でも、お世辞なんかじゃない。ヴィオルは本当に可愛い。

 前世の日本だったら、子供服のモデルになってもおかしくないくらいだ。

 今は痩せすぎていて、少し不健康な印象はあるけれど、それでも可愛さは損なわれていない。

 多くの女性読者を惹きつけた美形の悪役だけあって、この頃からその片鱗を見せていた。


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