第6話 プランとノープラン
「あぁ、マジで疲れた……」
リュックを床に下ろし、疲弊した身体をひとまずベッドに預ける。
仮に一組に
そう思うと、アレは本当に奇跡的な再会だったんだな……。まさかあの美知瑠さんが二度目の一年生をやっていて、しかもたまたま同じクラスになれたんだからな。
もしかして、ドラマでありがちな『運命の相手』ってやつだったりするのか?
「……なんて、そう上手くはいかねぇだろうなぁ」
美知瑠さんは単に二留したくないだけで、実際の恋愛には全く興味なさそうだし。というか、美知瑠さんって何かに興味を持つことがあるのだろうか? 今朝手を振り合った時は少し驚いていたが、どんなできごとや趣味に対しても、基本的にはあのクールな表情を保っている気がするな。まあ、そんな美知瑠さんに惚れたわけだが。
「そうだ、なんか案が来てるかな?」
ポケットからスマホを取り出し、美知瑠さんからメッセージが送られているかどうか確認。しかしトーク画面は、昨晩送った『おやすみ』から更新されていなかった。
「う〜ん、どう送ろうか迷ってるのか?」
まあ、メッセージを考えるだけで頭がくらくらするって言ってたもんな。彼女に負担をかけないためにも、ここは俺から話を振っていった方がいいな。
『美知瑠さん! 日曜は何時頃に集合しましょうか?』
まずは当日の集合時間から決めていこう。朝早くからがっつりとデートするのか、それとも午後から少し会うだけなのか。美知瑠さんの都合次第で、どこに行くかも決めやすくなってくると思う。とにかく彼女からの返事を待とう。
スマホをベッドに置いて、俺はひとまず課題に取りかかる。入学してまだ二日目というのに、授業を受けるたびに細々したものが積み重なってしまったのだ。
どの教科でも『次の授業までにやってこい』と釘を刺されたので、先生方に怒られないためにもやるしかないのだ。学生の本分は疑似恋愛ではなく勉強だからな。
「っしゃ、まず一個終わり〜……」
現代文の課題を終えたところで、ベッドから軽快な通知音が流れる。俺はすかさず椅子をくるりと回し、柔らかな
通知欄からアプリを開くと、新規メッセージが一件だけ来ていた。
『九時に学校前でどうでしょうか? 道に迷わなくて済むので』
美知瑠さんはなんと集合時間だけでなく、場所も指定してくれた。いや、確かに学校なら迷うことはないけども! こういうのって駅前あたりが定番じゃないのか?
ほら、駅前にある銅像やらオブジェで待ち合わせをして、相手からの『おまたせ、待った〜?』に『今来たところです』って返す流れ。ドラマでありがちなやつ!
しかしせっかく美知瑠さんが提案してくれたので、ここは学校前に集合で。なにもデートそのものには支障がないしな。『今来たところです』も一応できるし。
『分かりました。美知瑠さんは学校近くで行きたい場所とかあります?』
『では映画館に行きましょうか。ちょうど恋愛映画をやっているらしいので、カップルやラブラブについて勉強するチャンスですよ』
美知瑠さんからこれまた意外な提案。無表情でハートマークを作る美知瑠さんが頭の中で鮮明に浮かぶ。普段は彼女についてのイメージは全然湧かないのに、今回ばかりは容易に想像がつく。
あの人なら絶対やる。なんなら『カップル』と『ラブラブ』とで二回分やる。
しかし美知瑠さん、恋愛映画が上映されていることなんてよく知っていたな。
実は映画好きだったりするのか? あの表情でスクリーンに集中する美知瑠さん、確かにめっちゃ似合いそうだけども。
それか、今こうしてメッセージをやりとりしている間に調べてくれたのか? この短時間で……いや、あのフリック入力の速さなら余裕でできそうだな。
『じゃあ映画を見て、近くの喫茶店でお昼にしましょうか。その後はどうします?』
『そうですね……午後からは予定を決めず、その場の気分でデートをしませんか? ただ予定通りにデートをこなしても、ラブラブできるかどうか不安でして……』
なんと、美知瑠さんから『午後はノープランでいこう』との提案。ロクにカップルっぽいメッセージすら送り合えない俺たちからすれば、かなりハードルが高い試みなんじゃないか? やる前から嫌な予感しかしないんだけど?
しかしそれが彼女のご要望とあらば、彼氏役である俺は従うまでだ。美知瑠さんには
『じゃあそうしますか。日曜日、楽しみにしてます!』
俺は最後にそう送り返し、今度は英語の課題にとりかかるのだった。
俺たちはその後何度かの『おやすみ』を往復し、ついにデート当日を迎えた。
現在時刻は午前八時二分、視界には咲月高校を捉えている。集合時間のおよそ一時間前ではあるが、美知瑠さんとデートしたい気持ちが先行して、ついつい早めに向かってしまった。とはいえ、これで確実に『今来たところです』ができるぞ!
学校までの最後の上り坂を早足で駆けていくと、そこにはなぜか一時間後に会うはずの彼女が立っていたのだった。
いや、いくらなんでも早すぎるだろ! 人のこと言えないけども!
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