3話 運命のスキル、登場。


〜前回までのあらすじ〜


夢世界で出会ったコーギー犬のナギが、この夢世界に時間を戻す方法が家にあるという。

ナギの家に向かうとそこにはゴブリン3人組が家を荒らしていた。

このゴブリンズ達は一体何者で、俺は時間を戻す方法を知ることはできるのだろうか?




「俺の家でお前ら何してんだ!!」


ナギはそう言いながら姿勢を低くして唸り臨戦態勢だ。


「おいナギ、なんだその口の聞き方は?え?俺達仲間だろうが。」


デブゴブリンが低い声で言った。多分こいつがリーダーなんだろう。


「ナギさん、魔法の指輪はどこですか?あなたが持っていると聞きましてね。」


ノッポゴブリンがゆっくり近づきながら言った。

こういう丁寧口調のヤツのほうがちょっと怖い気がする。


『知らんな。知っててもなんでお前らに言わなきゃならないんだ?』


「ナギよ。ちょっと物入りでなぁ。どうやらあの指輪高く売れるらしいんやわ。なぁこういう時はお互い様やろが、な?」


デブゴブリンが腰の革袋を撫でながら、ドスンと近くの椅子に腰掛けた。


「さっさと出せよコラ!」


チビゴブリンが棍棒をナギに振り下ろす!


!!

ナギ、素早い動きで避ける。

ナギ、チビゴブリンの背後に回ってチビゴブリンの左足をナギが噛みに行った!


「フン!」

後ろからノッポゴブリン、持っている長い杖をナギの背中に振り下ろす。


『ギャン!』


ノッポゴブリンの杖がナギの背中を強打。

そのまま床に押さえつけられた。


短く高い痛そうな鳴き声を上げてナギ。

その拍子にナギの背負っていたリュックの中身がいくつか散らばった。


「ナギっ!」

俺は気がつけば眼の前にいたチビゴブリンを押しのけナギに駆け寄っていた。


「いてぇなぁ。何だよお前。誰だよ。」


チビゴブリンが俺の前に立ち睨んできた。



やっぱりそうだ。こういう粋がった奴は嫌いだ。


「誰かしらんけど、関係ない奴は大人しぃしとけや。」


デブゴブリンが俺の顔を覗き込みながら、据わった目で静かに俺に圧をかけてきた。

ゲームだと序盤のザコキャラなのに、リアルだと学校の不良より怖い。



野球ばっかりやってきたから喧嘩もしたことない。

ただ心の底からムカついている。

直感だがコイツらは嫌いだ。

いつもの世界にいた嫌いなタイプの人間そのものだ。



「どうせコイツはこの後何もできない雑魚タイプですよ。顔見たらわかる。」


ノッポゴブリンがナギのリュックからこぼれたものを拾ってチェックしながら、面倒くさそうに言った。


「なぁナギよ。はよ指輪出した方がええんちゃうか?ワシも痛い目にあわせとうないんや。」


デブゴブリンはそう言いながら腰の革袋をニヤニヤしながら撫でていた。

ノッポゴブリンに棒で追いつけられたままのナギ。

苦しそうにうつ伏せになったままデブゴブリンを睨んでいる。



「ナギ、大丈夫か?」


俺はナギに駆け寄った。


ナギは前足で俺の頭にしがみつきささやいた。


『コースケ、俺のリュックの中に箱がある。それをこっそり取れ。』


俺はナギを心配し体をさすっているフリをしながら、リュックの隙間に手を入れた。

指先が固い物に指が触れた!


『見つけたら、その箱の指輪をつけて逃げろ。』


「これってまさかあいつらが探している指輪じゃないのか?」


『お前の話を聞いたときこれは運命だと思ったよ。その指輪をワシが拾ったのはお前に渡すためだったんだろうな。もう時間がない。お前が逃げた後スキを見てワシも逃げる。後でな!』


ナギはそう言った後体を横にひねって押さえている棒を避け、デブゴブリンに突進!


『行け!コースケ!』


デブゴブリンにタックルを決めたナギはそう俺に言った。


「何してんだ!この犬が!」

チビゴブリンとノッポゴブリンがナギを捕まえようとした。



一瞬。俺は迷った。


助けたいと思った。

でも助けられる自信もない。


ナギは体を張って俺を逃がしてくれた。

じゃその行為を無駄にしちゃいけない。

これは生き延びるためのナギの犠牲フライだ。


ーーーそうだ俺は走らなきゃ。



俺は入口のドアにタックルして外に出た。

これでゴブリンズが俺を追いかけてきたら、ナギも逃げるチャンスがあるはず。


「追わんでええ!」


外に出た俺にも聞こえる大きな声でデブゴブリンは言った。


「関係ない虫が一匹出ただけや。ほっとけ。それより指輪や。」


俺は外に出たものの、動けなかった。

怖さじゃない。もちろんナギをおいて逃げた罪悪感もある。



「俺はまた間違えたのか?この世界でも。」



自分のせいでまた誰かが苦しむのは嫌だ。

ーーーあの光景はもう見たくない。


とりあえずこの指輪を渡せばナギは解放されるかもしれない。

俺はそう思って箱を開け指輪を取り出そうとした。

その時、箱から古びた紙がはらりと落ちた。


紙には複雑な文字が見えた。

ただぼんやりと文字は変化していき、俺はそれを読むことができた。



「必中の指輪?」


その紙にはこう書いてあった。



〜必中の指輪〜

この指輪を身に着けし者は「必中」のスキルを身につけることができる。

「必中」スキル:狙ったところに必ず命中させることができる。



頭の中にナギの事がよぎった


『この指輪をワシが拾ったのはお前に渡すため』

『これは運命だったんだ』


俺はピッチャーで試合で暴投した後悔の話をきいてくれたナギ。



たしかにそうだ。

このスキルはピッチャーしていた俺なら使いこなせる。


ただ、あの試合以来ボールを投げるどころか握ってもいない。

デッドボールした時の恐怖心が残っていても俺はちゃんと投げられるのか?

嫌いだからといってアイツらに全力で投げつけることはできるのか?



『キャンキャン!!』


明らかにナギの鳴き声だ。

咄嗟に近くにあった小石を掴んで俺はまた家の中に駆け込んだ。



本当にムカつく光景だった。

デブゴブリンが傷だらけのナギを踏みつけ、それを他のゴブリン達が笑って見ていた。

さっきまで一緒に話したり笑ったりしていたナギのひどい姿は、正直ショックで戸惑ってしまった。



ナギを救えるのは俺だけだ。

でもそれ以上の不安がまとわりついてくる。

”また大事なところでしくじるんじゃないだろうか?”って。


また俺は足がすくんでしまった…。



「どうしたのボク?また戻ってきちゃったの?バカだよね。」


「まぁ大事な時に逃げちゃうクズが、戻ってきてもどうすんの?負け犬が。」


「どうせ今までも全力で勝負なんかしたことなんだろうね。ビビリ野郎が。」



ゴブリン達が笑いながら俺をバカにしてきた。

ノッポゴブリンとチビゴブリンが俺を指さしながら大口開けた大笑いしている。



一瞬。

頭の中に嫌な映像が流れ込んできた。


あの試合後の場面。

仲間のがっかりした顔。

慰めてくれるけど引きつっている顔。

チラチラ見ながらヒソヒソ話している奴。

そして、そいつらみんなが俺を指さし笑い罵る映像。


そして今、眼の前で笑っているバケモノたち。



はぁぁああああああああああぁ!?


誰が”負け犬”だ?

誰が”全力で勝負したことがない”だぁ?

俺の事何も知らないくせに!!

何が”俺は投げられるのか?”だぁ?

何が”俺はまたしくじるんじゃないか?”だぁ?


知るかバカ!


つまんねぇこと考えてる時間なんかねぇ。

悩むより先に全力で投げ込めばいいじゃねーか!


あぁ、もう無理。

こいつらマジ許さねぇ。

うじうじしている俺のことも許さねぇ。

どうせ夢の世界なんだろ?やりたいようにやってやる!




ドカンッ!!

気がつけば俺は近くの椅子を蹴り飛ばしていた。


「プレイボール。さぁ始めようか。」


俺は小石を強く握りしめながら言い放った。

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