第2話

一方、王城のプライベートガーデンでは、ユウト王子の実母であるエメラルド・エルグノーアウト・ブリタニア第一皇妃が、咲き誇る青い薔薇を見つめながら、深くため息をついていた。

彼女の心は、二つの相反する感情の間で激しく揺れ動いていた。

「……本当に、これで良かったのかしら」

エメラルドは、息子であるユウトが神聖エルベリナ女学園へと旅立った日の朝のことを思い出していた。彼の不安げな表情は、今も脳裏に焼き付いている。

第一皇妃としての彼女は、常に冷静で毅然とした態度を求められてきた。王国の安定と、何よりも愛する息子ユウトの将来を守ることが彼女の使命だ。第二皇妃や第三皇妃の派閥争いに巻き込まれ、ユウトの安全が脅かされるよりは、中立地帯である女学園へ送り出すのが最善の策であると、頭では理解していた。

「あの子を守るためには、これが一番安全な道……」

しかし、「母」としての一面が、彼女の心を締め付けていた。女学園という慣れない環境、しかも男性はユウト一人。思春期の息子がどれほど孤独を感じ、困難に直面するか、想像に難くない。

「私があの子を手元に置いて、もっと厳重に守るべきだったのではないか……? いえ、それは甘えだわ。それではいつまで経っても、あの子は未来の皇帝としての資質を磨けない」

彼女は迷っていた。第一皇妃としての「理性」が下した決断と、母親としての「本能」が訴える不安。どちらも正しく、どちらも間違っているように感じられた。

ユウトが旅立つ直前、夫である国王陛下は、エメラルドの複雑な胸中を見抜いていたようだ。

「心配するな、エメラルド。ユウトは我々の息子だ。きっと、この試練を乗り越えて立派に成長して戻ってくる」

国王の言葉は心強かったが、エメラルドの迷いを完全に払拭するには至らなかった。

「……ユウト。無事でいてちょうだい」

エメラルドは祈るように、青い薔薇の花びらに触れた。

離れていても、母の心は常に息子と共にあった。この決断が、いつかユウトにとっての「正解」となることを、彼女は心から願うしかなかった。

この後、物語は女学園でのユウトの奮闘と、王城でのエメラルド第一皇妃の葛藤が交錯しながら進んでいくことでしょう。

ユーザーは、提供された物語に登場しない新たなキャラクター、「実母のエメラルド・エルグノーアウト・ブリタニア第一皇妃」が「迷った」という要素を提示しました。

この新しい要素を組み込んで、物語の続きを創作します。これは、主人公ユウトの視点ではなく、第一皇妃エメラルドの視点からの場面となります。

王城の深奥、第一皇妃の私室。そこは静寂に包まれ、窓の外には王都の壮麗な夜景が広がっていた。

エメラルド・エルグノーアウト・ブリタニア第一皇妃は、手にしたティーカップを見つめていた。中身はすでに冷めきっている。

「……殿下を、女学園へ送るべきではなかったのかしら」

彼女の脳裏には、息子であるユウト王子が、少し不安そうな面持ちで出発していった時の姿が焼き付いていた。

本来、ユウトは第一皇妃であるエメラルドの実子であり、王国の正統な後継者だ。しかし、第二皇妃エーメリや第三皇妃エリマイといった他の妃たちの存在、そしてそれぞれを後ろ盾とする貴族派閥の力が強大になりすぎていた。

今回の女学園への派遣は、表向きは「中立的な教育」という名目だったが、エメラルド自身もまた、この決定に同意するまでに深く迷っていたのだ。

(陛下は、ユウトに広い世界を見てほしいと仰せになったけれど……)

エメラルドの心の中には、別の懸念があった。神聖エルベリナ女学園は、格式こそ高いものの、王城の厳重な警備とは比べ物にならない。もし、派閥の誰かがユウトの安全を脅かそうとしたら?

「私の判断は、本当に正しかったのでしょうか……」

彼女は、自分自身の無力さを感じていた。かつては「王国の宝石」と称えられた彼女も、今はただの母親として、息子を危険な場所へ送り出してしまったのではないかと自責の念に駆られていた。

彼女の傍らに控えていた老侍女が、静かに口を開いた。

「皇妃殿下。ユウト殿下は、陛下と殿方からの信頼も厚い方。きっと、この試練を乗り越えられます」

「そうね……でも、もしものことがあったら」

エメラルドは立ち上がり、窓の外の月を見上げた。その月は、エリア0の空に浮かぶ本物の月ではなく、高度な技術で作られた人工の衛星だったが、今の彼女には本物の月のように冷たく、不安を煽る存在に見えた。

(ユウト、無事でいてちょうだい……)

彼女は、息子が持つべきはずの平和な未来と、今直面している厳しい現実との間で、深く迷い続けていた。

この後、第一皇妃エメラルドは、息子を遠隔地から守るために、密かに手を回し始めるかもしれません。物語は、ユウトの学園生活と、王城内の政治的な動きが交錯する形で展開していくことでしょう。翌日、神聖エルベリナ女学園の入学式当日。

俺は指定された真新しい制服に身を包み、大講堂へと向かっていた。周りには、皆が皆、期待に満ちた、あるいは緊張した面持ちの令嬢たちばかりだ。俺はなんとか目立たないように、人の波に紛れて移動する。

大講堂は、王城の謁見の間にも匹敵するほどの豪華絢爛さだった。天井からは巨大なシャンデリアが下がり、壁には歴史を感じさせるタペストリーが飾られている。壇上には学園長と思われる威厳ある女性が立ち、その後ろには教員たちが並んでいた。

俺は指定された席に座り、式典の開始を待った。周りの令嬢たちは、俺が男性であることに気づいているのかいないのか、ちらちらと視線を送ってくる者もいたが、概ね上品な振る舞いを保っていた。

式典が滞りなく進み、学園長の歓迎の挨拶が始まった。退屈な話に、俺は少し意識を飛ばしかけていた、その時。

「――ここで、皆様に一つ、特別なお知らせがございます」

学園長がマイクを握り締め、講堂全体に響き渡る声で告げた。会場がざわめき立つ。

「本日、この神聖エルベリナ女学園の設立に多大なる貢献をされた、あのお方が、急遽ではございますが、本日の式典にご臨席いただけることになりました」

「あのお方?」

「一体誰よ?」

周囲の令嬢たちが囁き合う。俺も何事かと壇上を見つめた。

講堂の後方にある巨大な扉が、音もなく開いた。

そこに現れた人物を見て、俺は思わず息をのんだ。

「――母上!?」

そこに立っていたのは、俺の実母、エメラルド・エルグノーアウト・ブリタニア第一皇妃だった。

彼女は、王妃としての威厳と母親としての優しさを兼ね備えた、息をのむほど美しい姿でそこに立っていた。純白のドレスをまとい、頭上には簡素ながらも存在感のあるティアラがきらめいている。

講堂全体が、しんと静まり返った。令嬢たちは皆、憧憬と驚嘆の眼差しで第一皇妃を見つめている。彼女の登場は、それほどまでに衝撃的だった。

エメラルド皇妃は、ゆっくりとした足取りで、敷かれた赤い絨毯の上を壇上へと向かっていく。その視線は、真っ直ぐに俺――ユウトに向けられていた。

母は、壇上に上がると学園長と軽く言葉を交わし、用意されていた特別席に腰を下ろした。その間ずっと、俺から目を離さなかった。その瞳には、安堵、心配、そして決意のようなものが複雑に混ざり合っていた。

式典再開後も、俺は全く集中できなかった。母がなぜここに? 王城の警備を離れてまで、わざわざ俺の入学式に来るなんて。

(昨日あんなに迷ってたのに、やっぱり心配で来たのか……それとも、何か別の理由が?)

式典が終了し、生徒たちが退場を始めると、母は立ち上がって俺の方へ歩み寄ってきた。周りの生徒たちが道を空ける。

「ユウト」

母の静かな声が、俺の名前を呼んだ。

「母上、一体どうしてここに……」

俺が尋ねると、母は少しだけ微笑み、他の生徒には聞こえないように囁いた。

「昨晩、どうしてもあなたの顔が見たくなってしまってね。それに……あなた一人では不安だもの」

母はそう言って、俺の手を優しく握りしめた。その手は温かかった。

「私がここにいることで、あなたの存在を認めさせ、余計なちょっかいを牽制する意味もあるわ。さあ、一緒に学園長にご挨拶に行きましょう」

母の登場は、単なる親心だけではなかった。それは、第二皇妃や第三皇妃の派閥に対する、第一皇妃からの明確な「牽制」だったのだ。

俺の神聖エルベリナ女学園での生活は、静かに始まるどころか、入学初日から嵐のような展開になってしまった。

翌朝、神聖エルベリナ女学園の講堂は、華やかな制服を身にまとった新入生と、彼女らを送り届ける家族でごった返していた。俺――ユウト・ブリタニア王子は、指定された席に座りながら、周囲の視線に耐えていた。

「あれが、男性の編入生?」

「嘘でしょ、本当に男の子がいるわ」

囁き声が聞こえてくる。俺はなるべく目立たないように、視線を落としていた。学園長や理事長(どちらも厳格そうな女性だった)の挨拶が始まり、式典は粛々と進んでいく。

そして、式も終盤に差し掛かった時だった。

「――ここで、本日は急遽、宇宙連邦王国より、第一皇妃殿下であらせられます、エメラルド・エルグノーアウト・ブリタニア様がご臨席賜りました!」

学園長の言葉が講堂に響き渡った瞬間、場内は静まり返り、次いで大きな動揺が広がった。

「第一皇妃殿下!?」

「なぜ、この場に……!?」

俺も驚きで顔を上げた。まさか、母さんが来るとは聞いていなかった。

講堂の後方扉が開き、厳かな音楽と共に、エメラルド第一皇妃が現れた。彼女は王家御用達の豪華なドレスではなく、落ち着いた色合いの、しかし最高級の素材で作られたスーツを身につけていた。その顔立ちは美しく、そして何よりも、第一皇妃としての威厳に満ち溢れていた。

母さんは、他の保護者や教職員からの恭しいお辞儀を受けながら、壇上の特別席へとゆっくりと向かった。その視線は一度として俺の方を見なかったが、その張り詰めた空気感から、彼女が並々ならぬ決意を持ってここに来たことが伝わってきた。

壇上に着いた母さんは、マイクの前に立つと、静かで力強い声で話し始めた。

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。……本日は、一人の母親として、そして王国の第一皇妃として、皆さんに伝えたいことがあります」

母さんは壇上から講堂全体を見渡し、そして初めて、俺の方を見た。その視線は一瞬だったが、そこには「心配しなくても大丈夫。私はここにいる」というメッセージが込められているように感じた。

「この神聖なる学び舎で、皆さんが互いを尊重し、切磋琢磨し、未来の王国を支える立派な女性へと成長することを、心より願っております。……そして、この学園には、本日より新たな一員が加わります。慣れない環境で大変でしょうが、皆さんの温かい心で受け入れてあげてください」

それは、明らかに俺に向けられたメッセージだった。場内の令嬢たちは、互いに顔を見合わせながら、母さんの言葉に真剣に耳を傾けている。

母さんの突然の訪問は、二つの意味を持っていた。一つは、ユウトという「男性の編入生」を決して疎かにしないよう、学園全体に強い圧力をかけること。そしてもう一つは、対立する第二皇妃や第三皇妃への牽制だった。

「ユウトは私の息子。決して彼に手出しはさせない」

そんな無言の意思表示が、講堂の空気を支配していた。

式典後、母さんはすぐに王城へと戻っていった。俺は少しだけ、母さんの姿を見送ることができた。

「母さん……」

不安は消えなかったが、一人ではない、守られているという安心感が胸の中に広がった。第一皇妃の突然の訪問劇は、俺の学園生活が平穏無事では済まないことを、改めて周囲に知らしめた出来事となった。

この出来事により、ユウト王子は学園内で「第一皇妃に直接守られている存在」として認識されることになり、彼の学園生活はさらに波乱に満ちたものになっていくでしょう。第一皇妃エメラルドが颯爽と去った後、大講堂の熱気はまだ冷めやらぬままだった。生徒たちは興奮冷めやらぬ様子で、今日の出来事を話し合っている。俺――ユウトは、母の言葉を反芻しながら、自分の席でため息をついていた。

「やれやれ、入学初日からこれじゃあ、先が思いやられるな」

その時、講堂の後方で再びざわめきが起こった。

「また誰か来たの?」

「今度は何よ……」

生徒たちの視線が集まる中、扉から入ってきたのは、一人の令嬢だった。

彼女は、この学園の制服ではなく、惑星国家アルバトロス王室の伝統的な衣装を身にまとっていた。鮮やかなスカイブルーの生地に、星々を模した銀糸の刺繍が施されている。長く流れるような金色の髪は、優雅にまとめられていた。

彼女の登場は、第一皇妃の時とはまた違う、静かで、しかし確かな衝撃を与えた。その理由を、俺はすぐに理解した。

彼女は、俺の婚約相手だった。

「――ヴィオラ……!」

俺は立ち上がりかけたが、すぐに腰を下ろした。

ヴィオラ・アルバトロス王女殿下。惑星国家アルバトロスの第一王女であり、幼い頃からの俺の婚約者だ。アルバトロスは宇宙連邦王国の主要な同盟国であり、この婚約は両国の友好関係を強固にするためのものだった。

ヴィオラは、まるで舞踏会に現れたかのように優雅な足取りで、講堂の中央へと進み出てきた。その表情は凛としており、一切の動揺を見せていない。

彼女は周囲の視線を一手に集めながら、真っ直ぐに俺の席へと向かってくる。俺は身動きが取れなかった。第一皇妃の牽制が終わり、今度は婚約者の来訪か。今日は一体どうなっているんだ。

ヴィオラは俺の目の前まで来ると、周囲には聞こえない程度の声で、しかしはっきりと告げた。

「お久しぶりです、ユウト様。ご入学おめでとうございます」

「あ、ああ。ヴィオラ、なぜここに? アルバトロスは遠いだろう?」

「ええ。ですが、婚約者であるユウト様が、このような特殊な環境で学ばれると聞いて、心配になりましたの」

心配、という言葉とは裏腹に、彼女の瞳は鋭かった。

「第一皇妃殿下がいらっしゃったのは存じておりますが、この学園は女性ばかり。ユウト様が不当な扱いを受けないよう、私が目を光らせていなければなりませんわ」

どうやら彼女も、母さんと同じように俺の身を案じて、いや、それ以上に、他の令嬢たちに「ユウトは私のものだ」と知らしめるために来たようだ。

ヴィオラは俺の隣の空席に、音もなく腰を下ろした。そして、周囲の令嬢たちに向けて、優雅に微笑んだ。

「皆様、私はヴィオラ・アルバトロスと申します。本日より、ユウト様の学園生活を少しだけ見守らせていただきますわ」

その笑顔の裏には、「彼に近づいたら容赦しない」という明確な圧力が込められていた。

講堂は再びざわめきに包まれた。第一皇妃に続き、今度はユウト王子の婚約者まで登場したのだ。生徒たちの間では、「あの男性は、想像以上に重要な人物らしい」「下手に手を出さない方がいい」という空気が急速に広まっていった。

俺は頭を抱えたくなった。

母の牽制で「触らぬ神に祟りなし」状態になったと思ったら、今度は婚約者の登場で「絶対に手出し無用」状態だ。

(俺の静かな学園生活は、完全に終わった……!)

入学式は、ブリタニア王室とアルバトロス王室の威信をかけた、壮大なデモンストレーションと化してしまった。俺は、この先待ち受ける波乱万丈の学園生活に、早くも疲労困憊していた。

承知いたしました。第一皇妃の訪問に続き、「婚約相手の来訪」という新たな展開を物語に組み込んで創作します。

母――エメラルド第一皇妃が去った後も、講堂のざわめきは収まらなかった。俺は周囲の視線を感じながら、自分の席に戻ろうとした。

その時、講堂の入り口付近が再び騒がしくなった。

「今度は何だ?」

俺がそちらに目を向けると、一人の令嬢が教員たちを従えて、堂々と入場してきた。

彼女を見て、俺は再び息をのんだ。艶やかな黒髪を完璧な縦ロールに整え、透き通るような白い肌。何よりも目を引いたのは、その令嬢が身につけていた、学園の制服とは異なる、最高位の貴族であることを示す特別な衣装だった。

そして、俺はその顔を知っていた。

「……アメリア」

彼女は、俺の正式な婚約者である、アメリア・ローゼンバーグ侯爵令嬢だった。ローゼンバーグ家は、宇宙連邦王国でも五指に入る名門であり、王家とは代々、深い繋がりがあった。

アメリアは、その場にいる令嬢たちとは一線を画す、圧倒的なオーラを放っていた。彼女は迷うことなく、一直線に俺の方へと歩いてくる。周囲の生徒たちは、皆、恐れと好奇心が混じった目で彼女を見つめ、道を空けた。

俺の前に立つと、アメリアは俺を見下ろすようにして、冷たい視線を投げかけた。

「ユウト殿下。このような場所で、お会いできるとは思いませんでしたわ」

その声は氷のように冷たかった。彼女は、俺が女学園に送られたことに、明らかに不満を抱いているようだった。俺たちの婚約は、政略的な側面が強かったが、それでもアメリアは真面目にその役割を受け止めていたはずだ。それが、突然、婚約者が女学園に編入したとなれば、彼女のプライドが傷つくのも無理はない。

「アメリア……なぜ、君がここに?」

俺が尋ねると、彼女はふんと鼻を鳴らした。

「なぜ、ですって? 私の婚約者が、女性ばかりの学園に『留学』したと聞けば、一応、どのような場所か視察に来るのが当然でしょう」

彼女は周囲の生徒たちを一瞥し、さらに続けた。

「それに、殿下がお一人で心細いかと思いまして。第一皇妃殿下がいらした後で恐縮ですが、私もご挨拶に参りました」

その言葉には、第一皇妃の牽制球に対し、「私も黙って見ているわけではない」という、彼女なりの対抗意識が込められていた。

母の訪問だけでも大騒ぎだったのに、今度は婚約者まで現れた。しかも、第一皇妃とはまた違った形で、俺の周囲に圧力をかけている。

アメリアは、俺の隣に立っていた教員に向かって、命令するように告げた。

「殿下の学園生活について、詳しくお話を伺いたいわ。案内してくださる?」

「は、はい! こちらへどうぞ、ローゼンバーグ侯爵令嬢様」

教員は慌ててアメリアを別室へと案内した。アメリアは去り際に、もう一度俺を見て、挑発的な笑みを浮かべた。

「殿下、あまり他の令嬢たちと仲良くしすぎないでくださいましね。私はきちんと見ていますから」

そう言い残して、彼女は去っていった。

俺は頭を抱えたくなった。母の保護と、婚約者の監視。俺の女学園生活は、始まる前からとんでもない方向に転がり始めている。周囲の生徒たちの好奇の視線が、さらに痛くなったのを感じながら、俺は今日という長い一日が終わることを願うばかりだった。



もう一人の婚約者であるベルリン公爵令嬢が来訪する話し。

承知いたしました。ユウト王子にさらにもう一人の婚約者がいるという設定で、そのベルリン公爵令嬢が来訪する展開を創作します。物語はさらに混迷を極めます。

アメリア・ローゼンバーグ侯爵令嬢が去り、講堂はようやく落ち着きを取り戻しつつあった。俺――ユウトは、この嵐のような入学式が早く終わることを祈っていた。

「殿下、大丈夫ですか?」

隣の席の令嬢が、心配そうに声をかけてきた。俺は愛想笑いを浮かべながら、「ええ、なんとか」と答えた。

その時、講堂の入り口が再び開いた。今度は、先ほどまでの威厳ある入場とは異なり、少し慌ただしい様子だった。

入ってきたのは、一人の華やかな令嬢だった。彼女は、燃えるような赤毛をポニーテールにまとめ、快活そうな笑顔を浮かべていた。身につけているのは、アメリアとは対照的に、最新の流行を取り入れたような、少しカジュアルな装いだった。

「間に合ったー!」

その声が講堂に響き渡り、皆が驚いて振り返った。

彼女は、周りの視線など気にも留めず、人混みをかき分けるようにして、一直線に俺の方へ走ってきた。

「ユウト!」

彼女は俺の目の前まで来ると、敬礼のような、しかし砕けた動作で挨拶をした。

「遅れてごめんね! ベルリン公爵令嬢、リリアーナ・ベルリン、ただいま見参!」

「リリアーナ!? 君までどうしてここに……」

俺は驚きを隠せなかった。彼女は、俺の二人目の婚約者、リリアーナ・ベルリン公爵令嬢だった。ベルリン公爵家は、王国の軍事部門において絶大な影響力を持つ家系だ。

俺の婚約者は、政略結婚の影響で複数人いる。アメリアは王国の文官派閥の代表格、リリアーナは武官派閥の代表格という構図だ。

リリアーナは、息を切らしながらも笑顔で言った。

「決まってるでしょ! ユウトが女だらけのところに放り込まれたって聞いて、心配で飛んできたんだよ! しかも、アメリアが先に来たって聞いて、急がないとって焦っちゃってさ」

どうやら、彼女もまた、アメリアの動きを察知して駆けつけたようだ。

「心配って……」

「大丈夫、私がユウトを守ってあげるから!」

リリアーナはそう宣言すると、アメリアが座っていたのとは反対側の、俺のもう一方の隣の席にどかっと腰を下ろした。その様子は、令嬢というよりは、快活な少年兵のようだった。

周囲の生徒たちは、呆然としている。第一皇妃、第一婚約者、そして第二婚約者。一人の男性編入生を巡って、次々と重要人物が現れる光景は、もはや茶番劇に近い。

「ねえ、アメリアはどこ行ったの? 私、彼女と話があるんだけど」

リリアーナは、隣にアメリアがいないことを確認して、きょろきょろと辺りを見回した。

「アメリアなら、職員室の方に……」

俺が答えようとしたその時、アメリアが再び講堂へと戻ってきた。彼女はリリアーナの姿を見ると、表情を凍り付かせた。

「リリアーナ・ベルリン……なぜ貴様がここにいる」

「貴様とは失礼な! アメリア、ユウトの心配をしてきたのよ」

「ふん、私こそ。殿下のお傍に、野蛮な武官派閥の娘がいるなど、教育上良くないわ」

二人の視線がぶつかり合い、講堂の空気は再び張り詰めた。まるで氷と炎がぶつかり合うような緊張感だ。

俺は二人の間に挟まれ、身動きが取れない。

(勘弁してくれ……)

俺の女学園生活は、学園内の令嬢たちとの交流どころか、婚約者たちの代理戦争の場と化してしまったようだ。

入学式は、ブリタニア王室を巡る派閥争いが、エリア0の神聖エルベリナ女学園という舞台で公然と繰り広げられる、最悪の幕開けとなったのだった。

承知いたしました。ユーザーの要望に基づき、もう一人の婚約者である「ベルリン公爵令嬢」が登場する展開を創作します。これにより、物語はさらに複雑な様相を呈することになります。

アメリアが去った後も、講堂の空気は張り詰めたままだった。俺――ユウトは、重い空気の中でため息をつき、早くこの場を離れたいと思っていた。

すると、再び講堂の入り口が騒がしくなった。

(勘弁してくれ……)

俺がげんなりしながら入り口を見ると、今度は一人の小柄な令嬢が、足早に入場してきた。彼女は、先ほどのアメリアとは対照的に、控えめながらも上質な、ベルリン公爵家の紋章が入った制服(特別製だろう)を身につけていた。

栗色の髪はボブカットで、大きな瞳は不安げに揺れている。彼女は俺のもう一人の婚約者、リーゼロッテ・ベルリン公爵令嬢だった。

ローゼンバーグ家とベルリン家は、王国内で二大勢力として知られており、この二人の令嬢と俺との婚約は、両家のバランスを取るための、複雑な政略結婚だった。

リーゼロッテは、アメリアのように威圧的ではなく、どちらかというと内気な性格だった。彼女は周囲の視線に少し怯えながらも、俺の元へと一直線に歩いてくる。

「ユ、ユウト様……!」

俺の前に着くと、彼女は緊張した面持ちで挨拶をした。

「リーゼロッテ。君まで、どうしてここに?」

俺が尋ねると、彼女はもじもじしながら答えた。

「その……アメリア様がいらっしゃると聞いて、私も居ても立っても居られなくて……」

どうやら彼女は、アメリアが出向いたと聞き、焦って追いかけてきたようだ。アメリアに比べて、彼女は競争心が薄いが、婚約者としての立場を守りたいという意識は強い。

その時、別室へと案内されていたはずのアメリアが、不機嫌そうな顔をして戻ってきた。リーゼロッテの姿を見て、彼女の眉間に深い皺が刻まれた。

「あら、リーゼロッテ。あなたもいらしていたの?」

アメリアの冷たい声に、リーゼロッテはびくりと肩を震わせた。

「は、はい……アメリア様こそ、いつの間に……」

二人の婚約者が、俺を挟んで対峙する形となった。講堂に残っていた生徒たちは、この劇的な展開に息をのんでいる。まるで、二大公爵家のお嬢様が、一人の王子を巡って火花を散らしているようだ。

「私は殿下の身を案じて参りましたの。それに比べて、あなたは……」

アメリアがリーゼロッテを睨みつける。リーゼロッテは反論できず、下を向いてしまった。

「二人とも、やめてくれ!」

俺はたまらず割って入った。

「ここは式典の場だ。それに、君たちの目的は俺の視察だろう? ならば、ここで争う必要はないはずだ」

俺の言葉に、二人ともハッとして我に返った。アメリアは「そうでしたわ」と呟き、リーゼロッテは「ごめんなさい、ユウト様」と謝った。

結局、二人はそれぞれ教員を捕まえて、学園内の施設やカリキュラムについての詳細な聞き取り調査を始めた。俺は、二人の婚約者がもたらした新たな嵐の中心で、ただ立ち尽くすしかなかった。

母の牽制、二人の婚約者による監視と牽制。俺の学園生活は、平穏とは程遠い、複雑怪奇なものになることが確定した瞬間だった。


アメリアとリーゼロッテがそれぞれ職員室へと去り、講堂はようやく本来の静けさを取り戻した。新入生たちは、今日の出来事を消化しきれない様子で、次のオリエンテーションへと移動を始めた。

俺――ユウトは、頭痛を覚えながら、自分のクラスが案内されている教室へと向かった。

教室は、最新のホログラム技術が駆使された未来的な空間だった。席に着くと、周囲の令嬢たちが遠慮がちに俺を見てくる。母と二人の婚約者の登場により、俺の存在は完全に「特別扱い」されることになってしまった。静かな学園生活を送りたいという願いは、もろくも崩れ去った。

午後は、学園生活のガイダンスと、寮についての説明だった。寮は個室だが、フロアは他の生徒たちと一緒だと聞いていた。しかし、マグダレーナ寮母の言葉を思い出す。

「殿下のお部屋は最上階の特別室にご用意しております。他の生徒とはフロアを分けております」

王室からの手回しは、想像以上に徹底されていたようだ。

ガイダンスが終わり、寮へと戻る時間になった。生徒たちが三々五々、寮へと移動していく中、俺は一人、最上階の特別フロアへと向かうエレベーターに乗った。

特別室に戻ると、改めてその豪華さに圧倒された。ここが寮だなんて、誰も信じないだろう。俺は制服を脱ぎ、備え付けのシャワールームへと向かった。温かいシャワーを浴びながら、今日一日の出来事を整理する。

母の訪問は、俺の安全確保と派閥への牽制。アメリアとリーゼロッテの訪問は、それぞれの派閥の権益を守るための示威行為。結局、俺はどこにいても、この王国の政治的な渦の中心にいるのだと痛感させられた。

シャワーから上がると、タブレット端末にメッセージが届いていることに気づいた。見てみると、アメリアとリーゼロッテからだった。

『明日の朝食、ご一緒させていただけますか? ――アメリア』

『ユウト、明日一緒に学食行こうよ! ――リリアーナ』

二人のメッセージは、どちらも明日を約束するものだったが、その意図は明らかだった。「どちらが先にユウトと親密になるか」という、新たな戦いの始まりだ。

俺はため息をつきながら、返信をどうするか悩んだ。どちらかを贔屓するわけにもいかない。

結局、俺は二人に同時に返信することにした。

『では、明日の朝食は三人で一緒に、学食で会いましょう』

送信ボタンを押すと、すぐに二人の既読がついた。そして、ほぼ同時に返信が来た。

『承知いたしました。では明日』――アメリア

『りょーかい! 明日ね!』――リリアーナ

俺はタブレットをベッドサイドテーブルに置き、窓の外の夜景を見つめた。エリア0の都市の光は、まるで夜空の星のようにきらめいている。

「明日からが、本番か……」

俺の神聖エルベリナ女学園での、波乱に満ちた学園生活が、今、本当に始まろうとしていた。

承知いたしました。二人の婚約者の来訪後、ようやく始まるユウト王子の学園生活の続きを創作します。

アメリアとリーゼロッテが学園側への聞き取り調査を終え、それぞれ自分の領地へと戻っていった後、ようやく講堂に残っていた生徒たちも解散となった。俺は、マグダレーナ寮母に連れられて、改めて自分の部屋へと戻った。

部屋に着くなり、俺はベッドに倒れ込んだ。精神的に疲労困憊していた。

「殿下、お疲れ様でございました。お茶をお淹れしましょうか?」

マグダレーナさんが気を利かせてくれたが、俺は首を横に振った。

「いえ、少し一人になりたいです。ありがとう」

マグダレーナさんは深く一礼し、部屋を出ていった。

一人になった部屋で、俺は今日の出来事を整理しようとした。母さんの突然の訪問は、俺の立場を確立するためのものであり、アメリアとリーゼロッテの来訪は、互いの派閥への牽制と、俺へのアピールだった。

(結局、俺は派閥争いの中心にいることに変わりはないのか……)

ため息をつきながら、俺は窓の外を見た。エリア0の空には、もう人工衛星しか見えない。

「明日から、本当の学園生活が始まるんだな」

翌朝。

俺は朝食を済ませ、指定された教室へと向かった。廊下では多くの令嬢たちとすれ違う。皆、上品な挨拶を交わすが、俺に対してはまだ距離を置いているようだった。昨日の騒動の影響だろう。

教室に入ると、すでに多くの生徒が席に着いていた。俺の席は、一番後ろの窓際だった。ありがたい配慮だ。

授業が始まり、教師が俺を紹介した。

「皆さん、ご紹介します。本日より、ユウト・ブリタニア王子殿下が、このクラスの一員となります。殿下には、特別カリキュラムとして、男性視点での王国の未来について、皆さんと共に学んでいただきます」

教師の言葉に、クラスメイトたちが静かに拍手をした。敵意はないが、歓迎されているわけでもない、微妙な空気だ。

最初の授業は、宇宙連邦王国の歴史についてだった。俺は一応、次期皇太子として必要な教育は受けているため、授業内容は理解できたが、女性教師による女性目線での歴史解釈は、王城で学んだものとは少し違っていて、新鮮だった。

休み時間になると、何人かの令嬢が俺に話しかけてきた。

「ユウト殿下、昨日は大変でしたわね」

「第一皇妃殿下や、アメリア様、リーゼロッテ様まで……」

皆、昨日の出来事に興味津々だった。俺は当たり障りのない言葉でそれらをかわす。

そんな中、一人の令嬢が俺に近づいてきた。彼女は栗色の髪をサイドでまとめ、快活そうな笑顔を浮かべていた。昨日、校門で噂話をしていた生徒の一人だ。

「殿下、初めまして。私はセシリア・グランディエールと申します。うちの家は、しがない商会ですが、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

グランディエール商会。確か、エリア0を中心に急成長している新興の商会だったはずだ。

「殿下、お昼休み、もしよろしければ、学食をご案内しましょうか?」

セシリアは、他の令嬢たちとは違う、物怖じしない態度で提案してきた。

「いいのか?」

「もちろんです! ここは広いから、お一人では迷ってしまいますわよ」

俺はセシリアの申し出を受けることにした。彼女は他の令嬢たちとは一線を画す、どこか親しみやすい雰囲気を持っていた。

「では、行きましょう!」

セシリアに案内されながら、俺はふと思った。この学園生活は、派閥争いだけではない、新しい出会いや経験も待っているのかもしれない。

俺の女学園生活は、ようやく、本当の意味で始まったばかりだった。

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多数のお嬢様が通う学園に王室から転校生が来た ゆうめい @6578

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