そうだ、寝取っち魔王!〜ダンジョンマスターの魔王に転生した俺、死ぬのは嫌なので勇者パーティのヒロイン全員を寝取ります〜

駄作ハル

プロローグ

第1話 異世界転生のご褒美

 背中に伝わるひやりとした固い感触で俺は意識を取り戻した。

 

 目を開けると、そこは神殿のように広大な空間だった。


 遥か高くにある天井は暗闇に溶け、巨大な竜の骨を模した梁がいくつも渡されている。

 吊るされたシャンデリアが放つ青白い光を磨き上げられた黒曜石の床が鈍く反射していた。


 どうやら俺は玉座のようなものに座っているらしい。

 夥しい数の骸骨で装飾された、禍々しくも荘厳な、まさに魔王の椅子とでも言うべきそれに。


「……ここは?」


 無意識に漏れた声は聞き覚えのない、それでいてよく響く荘厳な重低音だった。


 すると今度は玉座の足元から蜜のように甘い声がした。


「お目覚めですか、我が主、魔王ヴァエル=ヴィネ=フォルネウス陛下」


 視線を落とすと、一人の女が恭しくひざまずいている。


 豊満な胸元とくびれた腰のラインを惜しげもなく晒す扇情的な黒衣。背中から生えた濡羽色の翼。

 非現実的なまでの美貌を持つ彼女――サキュバスが、恍惚とした表情で俺を見上げていた。


(ヴァエル? 魔王? ……サキュバスだと?)


 混乱する頭の中で、聞き覚えのある単語が反響する。


 そうだ、俺がやり込んだRPG『バビロンズ・ゲート』のラスボスの名前がヴァエル。

 そしてその腹心たる秘書官がサキュバスのアザゼルだった。


「……名を名乗るがよい」


 内心の動揺を押し殺し、威厳を込めて問う。

 

 サキュバスはうっとりと目を細め、胸に手を当てた。


「陛下の忠実なる僕、秘書官のアザゼルにございます」


 やはりだ。どうやら俺はゲームの魔王に転生してしまったらしい。


 俺はゆっくりと玉座から立ち上がると、広間の隅に置かれた巨大な姿見へと歩み寄った。


 そこに映し出された姿に息を呑む。


 雪のように白い長髪。見る者を射抜くような深紅の瞳。

 額からは獰猛な山羊を思わせる二本の黒い角が天を衝くように伸びている。


 それは紛れもなく魔王ヴァエルの姿だった。


「ほう……」


 感嘆の声を漏らし、己の手を見つめる。


 試しに近くにあった黒曜石の置物を掴み、軽く力を込めてみた。

 ミシッ、と嫌な音がしたかと思えば、次の瞬間には何の抵抗もなく砕け散り黒い砂となって指の間からこぼれ落ちていく。


(なんだこのパワー!? これは正真正銘ゲームの世界なのか……)


 社畜ゲーマーだった頃の興奮が蘇る。

 誰もが一度はゲームの世界で生きてみたいと願ったことがあるだろう。まさかそれが叶うとは。


 悪役だというのは疑問であったが、俺は幸いにも悪役というものが好きだ。

 

 この『バビロンズ・ゲート』というゲームにおいても、勇者のノンデリな一面と魔王はただダンジョンの奥底で目覚めただけなのに討伐されるというストーリーから、悪役に対する同情の声が多かった。

 

 ――まあそれはヴァエルのキャラデザが超絶イケメンであり、女性人気が高かったという理由もあるが。


 そんなことを考えつつ、すっかり役にハマった俺は、今度は手のひらを広間の壁に向けて意識を集中させた。


 体内の奥底から熱いエネルギーが奔流となって湧き上がってくるのを感じる。

 俺はそれを無言のまま解き放った。


 ――ゴウッ! と凄まじい轟音と共に漆黒の破壊の波動が俺の手から放たれた。

 着弾した城の壁は悲鳴を上げる間もなく吹き飛び巨大な風穴を穿つ。いかなる魔法にも破壊耐性を持つダンジョンの外壁だというのにあまりにも呆気ない。


(す、すげぇ……! これが魔王の力か!)


「あぁっ……! 陛下……! なんという素晴らしい魔力……!」


 背後から熱に浮かされたような声が聞こえた。


 振り返るとアザゼルが頬を上気させ、潤んだ瞳で俺を見つめている。

 俺が放った魔力の余波にあてられたのか、その肢体は甘美な熱を帯びて微かに震えていた。


「ああ、これこそが我が主……! (封印の余波による不安定な時期をついに終え、その本性たる破壊の衝動を解放なさった! そしてその最初の御業の目撃者にこの私を選んでくださるとは! なんと、なんと慈悲深く、そして……なんと強烈なお誘い……!)」


 アザゼルはその恍惚とした表情の下で歓喜に打ち震えていた。


「どうしたのだアザゼル……」

 

 俺は単に「すごいパワーだ!」と無邪気に力試しをしただけだったが、腹心のサキュバスはこれを壮大に勘違いしているようだ。


 魔王が側近たるサキュバスの前でその魔力を解放し、力の健在ぶりを誇示すること。――それはサキュバスにとって、これ以上ない求愛のシグナルだったのである。


「陛下……」


 アザゼルはもはやその熱を隠そうともせず、俺の足元に跪いたままその白い喉を晒す。


「その溢れ出す強大な魔力の奔流……。どうかこのアザゼルの内に注ぎ、お鎮めくださいませ……」


 懇願するように差し出された白い腕。その誘うような仕草と潤んだ瞳。


 このサキュバスが何を求めているのか、一人の男として理解できないはずもなかった。

 断る理由なんてあるわけもない。


 その誘惑に俺は魔王らしく口の端を吊り上げた。


「よかろう。その忠誠、貴様の身体で示してみせよ」


 ◇


 その夜、俺は魔王としての最初の快楽を知った。


 寝室の天蓋付きベッドの上で、アザゼルの肌は月明かりに照らされ極上の絹のように輝いていた。


 俺がその肌に指を這わせると、彼女は「ひゃぅ……」と甘い悲鳴を漏らす。


「ああ……! 陛下の溢れんばかりの魔力が……っ!」


 アザゼルの肌見れば、俺の指が触れた箇所がまるで火傷をしたかのように淡く赤みを帯びている。

 だがそれは苦痛ではなくむしろ強烈な快感を引き起こしているようだった。


 俺の魔王としての力が、彼女のサキュバスとしての本能を直接刺激している。


 理屈はわからないが、とんでもなくエロい状況であることだけは確かだった。


「もっとだ、アザゼル。俺の力を受け入れてみせろ」


「はい……っ! 陛下のすべてを、この身に……!」


 官能的な音色を奏でる彼女の唇を塞ぎ、俺は魔王としての本能を解放する。


 人間だった頃の脆弱な肉体とは違う。底知れない体力と魔力が俺の欲望をどこまでも肯定した。


 俺が魔力を高めれば高めるほど、アザゼルはより甘く、より淫らな声を上げ、その肢体をくねらせて俺に応える。

 

 魔力を吸い、快楽に変換し、そしてその快楽で俺をさらに煽る。

 まさに無限の快楽機関だった。


 ……どれほどの時間が経ったのか。


 幾度目かの絶頂と共に俺が最大級の魔力を彼女の奥深くに注ぎ込むと、アザゼルは「ああっ……!」と甲高い嬌声を上げ、白目を剥いて恍惚のまま意識を失った。


 俺の腕の中でぐったりと脱力し、満足しきった寝息を立てる絶世の美女。


 魔王の力、広大なダンジョン、そして忠実で美しい腹心。


 俺は彼女の濡羽色の髪を撫でながら、心の底から願った。


(最高だ……。こんな毎日が永遠に続けばいいのに)



――――――――――

あとがき


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