第22話 退魔師の家系
白い部屋。
ホテルの医務室。
蜜柑は椅子に座る。
腕の傷がズキズキと痛む。
冴子が黙々と包帯を巻いていた。
その手際は完璧だった。
ベッドにはルシエラが眠る。
穏やかな寝息。
さっきまでの化け物が嘘のようだ。
魔力を使い果たし。
蜜柑の「愛」で浄化され。
今はただの無防備な少女だった。
シンとした部屋。
消毒液の匂い。
冴子のミントの香り。
蜜柑は口を開いた。
「……あの」
冴子は手を止めない。
冷たい声が響いた。
「……私の家系は」
蜜柑は顔を上げた。
「氷室家は、退魔の一族だ」
蜜柑は息を呑んだ。
「……退魔師」
「そうだ」
冴子は包帯を結んだ。
「古来より、この国に紛れる『魔』を監視し、時に、封じてきた」
「……」
「君の才能は、光だ」
冴子は言った。
「光は、虫を、呼ぶ」
「虫……」
「専門学校でも、君に近づこうとする者は多かった。害がある者は私が極秘裏に排除していた」
「……」
「あのサキュバスもそうだ。君の才能(情熱)に寄生する魔だ」
冴子は蜜柑を真っ直ぐに見た。
その氷の瞳はもう怒っていなかった。
深い疲労と。ほんの少しの後悔。
「私は、ただ……」
冴子は、目をそらした。
「君を、守りたかっただけなんだ」
蜜柑の胸が痛んだ。
冴子の不器用な「善意」。
それが、すべてを、こじらせた。
「……ありがとうございます」
蜜柑は静かに言った。
「でも。先輩のやり方は、間違ってます」
「……何が」
「あなたは、私を、守るために。ルシエラさんを、わざと、飢えさせた」
「……」
「あの人を、暴走させた」
「……」
「私たち二人とも、殺すつもりだったんですか」
冴子は、目を伏せた。
「……そうだ」
その声は、小さかった。
「あの化け物を、君の目の前で、暴走させる」
「君に、絶望させる」
「君を、あの魔物の『
冴子の拳が白く握られていた。
「コンテストも、そのためだった」
「……」
「あれは、口実だ。君を、あの魔物から、物理的に、引き剥がすための」
「……先輩」
「私は、君の才能に、嫉妒していた」
「……」
「私にはない『炎』。それを、あんな化け物の、餌なんかにさせたくなかった」
「私の、ラボで、完璧に、管理したかった」
「……それは、私のエゴだ」
冴子は頭を下げた。
蜜柑は、立ち上がった。
眠るルシエラの頬を撫でた。
その肌は、温かかった。
「……先輩」
「……」
「ありがとうございます。あなたの気持ちはわかりました」
「……蜜柑」
「でも」
蜜柑は、振り返った。
その瞳は、もう、迷っていなかった。
「私は、彼女といます」
冴子は、息を吐いた。
その息は、もう白くなかった。
彼女の纏う絶対零度の空気は消えていた。
冴子は、静かに眠るルシエラを見た。
その無防備な寝顔。
「……それで」
冴子の声は、もう氷ではなかった。
「……そいつ、どうするんだ」
「え?」
「そいつは、君の『愛』が、ないと、生きられないんだろう」
「……はい」
「だが、君も、ボロボロだ」
冴子は、蜜柑の腕の包帯を見た。 店の惨状も思い出す。
「……君は、どうしたい?」
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