1984
1983年の暮、オーウェル『1984』は
池袋芳林堂書店に平積みにされていた
ぼくはそれを年内に読まないと年は越せないと思った
世紀末はやってこない
ぼくらは『終わりのない日常』読んでいた
ロサンゼルスオリンピックのTV音声の中で
巨木の伐採のバイトをしていた
敷地圏争いの境界の木だった
小さな争いは日常茶飯事でもぼくらは気にしなかった
バイトが終わるとジャズ喫茶巡りだった。
新宿のDIGはあったのか
DUGはあったけど渋谷は「ジニアス」
お気に入りは神保町の「響」と「コンボ」だった
上野の「イトウ」にも行ったし
なんなら横浜の「ちぐさ」や「ダウンビート」も
男女男の三人関係がずっと続くと思っていた
1989年の「天皇崩御」「ベルリンの壁崩壊」「天安門事件」時代は大きく変わっていた
しかしぼくらは潰れたジャズ喫茶の下
カラオケスナックでJの中森明菜やテレサ・テンを聞いていた
アル中になったYはいつも酔いつぶれていた
彼は絶望していたのだ
慰謝料の金で飲み、それ以上の借金を重ねていたYだった
こうしてバブル時代は過ぎていく
ミレニアムの思い出もないままに
父の遺産とバブル女と
どこか狂っていたと後から思ったのは
ヘネシーもナポレオンもをただのウィスキーだと思って飲んでいた
すべてが不動産屋の旦那のお歳暮かお中元
一九四二年の冬であった
「そして銃を狙ったお互いの姿を嘲りながら
ひとりずつ夜の街から消えていった」
と鮎川信夫が詩を書いた。僕達はどうそれを受け取ればいいのだろう。
すでに敵は外の世界へ去っていった。それは本当だろうか?
TVの中の戦争は続いている。戦争アニメだって好きだ。
ネットでは戦争待望論もある。中国は生意気だ。
そして、日本の総理大臣が戦争オタクとなったのだ。
そして2024年の冬を迎えようとしていた
未来都市の向こうの観覧車は光り輝き
濡れた恋人たちを運んでいく曇天
雨風を凌ぐビルは
ゾンビ・タウン
疲労した足を引きずりながら
動く歩道を歩こうとすると
ゾンビの恋人が道を塞ぐ
泥の川は海にそそぎ
無数の 水母 くらげ が窒息しそうに群れていく
しかし、夜になればライトが灯され
闇は消されていく
僕たちは都会の胃袋をさまよいながら
君に夢のコトバを呟いていた
1989年の「天皇崩御」「ベルリンの壁崩壊」「天安門事件」
時代は大きく変わっていた
しかしぼくらは潰れたジャズ喫茶の下の
カラオケスナックで中森明菜やテレサ・テンを聞いていた
アル中になったYはいつも酔いつぶれていた
彼は絶望していたのだ
慰謝料の金で飲み、それ以上の借金を重ねていたYだった
こうしてバブル時代は過ぎていく
Aよ 僕らは君の叫びを忘れていたのだろうか?
僕たちに君の高さが必要なのだろうか?
あなたは遠くへ行けなかった
大木が立ちはだかる その先には人気のない墓地がある
大木を切り倒せというのが父の命令
日陰になって道を塞ぐからみんなのためにお前が働くのだ。
大木を切るのは父の役目
切り株の根を掘り
それを切っていくのはぼくの役目
夢を見ようとTVはオリンピックだ
根切り作業だったら金メダルものだ
強敵は中国やロシアの木こりたちか
韓国選手の雄叫びは柔道だった
僕は疲れて昼寝をしていた
サボるなと父の声
根無し草のぼくに与えられた
ただ一つの仕事
クレーン車で引きずり出すまで
根切り作業
切り株はトラックで運ばれていく
あなたはその部屋にいた。囲っているなんて騙したんだ
ブロック塀を高く重ねていく父がいる
そこはあなたの墓場
そこの窓から入りなさい
窓はまだ塞がれていないから
どうせ僕を人質に取るつもりの
鬼母だ だから父が閉じ込めたのか
大木の梢が囁いていたとき
落葉がこの部屋に不審を知らせた
わたしはただ座って見守っていた
樹が切られていく音
引きずり出される音
を聞きながら
それをお前に語ろうと思うのだ
2024年10月16日
生き延びてきた僕の精神に
忘却のときが流れ彼女の顔が浮き沈みする
美しかった姉さん!
いまでは暗渠から広い海に漂って
水母くらげ の餌となっているかしら
「お前が母をたぶらかした男の息子だな」と
突然、声が降りてきた
「母さんを返せ!お前は死ね!」
繰り返されるイタチごっこのようなセリフ。
でも、それはわれ知らぬこと
そのとき修羅雪のように寒気がしてあらわれたのも
姉さん!
二人の姉が睨み合う
「家 うち の舎弟に手を出したらあたしが許さないから」
「お前があの男の長女か、姉弟揃ってアホ面だね」
「言っとくけどあたしは父無し子なんでね、親姉弟は義理人情の世界で生きているのさ」
「そんなの私に取ってはどうでもいいんだよ、義理だとか人情だとか、その上に愛があるんじゃないのか?」
「てめえの母親が育児放棄したからって、てめえは今日まで育ってきているじゃないか?筋違いんなんだよ、恨みの晴らし方が」
「うるさい、キチガイ女が、お前は関係ないだろう。これは母と弟と私の関係なんだ」
と言って刃物で切りかかってくるが、修羅雪の姉さんはぱっと切り捨てた
姉さん!
「どっちの姉さんのことを言っているんだお前は?馬鹿なお前の初恋は終わったんだよ」
そんな、姉さんなんて大嫌いだ!
寝ていた女
目覚めたときぼくは姉さんとベッドを共にしていた
姉さんの白い肌に血が付着していた
姉さんは処女だったのか?
ヤバいことになったもんだ
とにかく姉さんを起こさないと
姉さんが目覚めた
真っ白な裸に目が眩む。
「姉さん、今日はもうおしまいにしよう」
「何言ってだ、お前。このままじゃ逃げられないじゃないか」
ぼくはぼんやり思い出した
姉さんはもうひとりの姉さんを斬り殺して
ぼくは気絶したのだ
その血はもうひとりの姉さんの血だった
近親相姦なら死刑になることはないが
人殺しは姉さんは死刑
共犯のぼくは無期懲役
「どうしよう」
とぼくが怖気づいていると
「逃げるんだよ」
と姉さんがこともなくいう
姉さんはホテルのガウンに着替えて
ぼくの服を投げてよこす
ぼくもすっぽんぽんじゃないか?
ぼくたちはむすばれたのだろうか?
共犯者になっているのは間違いなさそうだ
「いい、イメージするのよ」
姉さんは語気を強めて言う
「お前の好きな映画のラストシーンは何?」
『明日に向かって撃て!』
「『俺達に明日がない』じゃなくて良かった
まだ希望が見えるもの
ここを出たらとにかく逃げるのよ
これはお前の映画 イメージ の中なんだから」
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