2025年11月の詩

馬頭観音


どうしておまえは馬なんだ

それも観音様だって?

馬に祈れるかよ

くそったれ!


それでも「馬車馬の如く」っていうんだろ?

芥川の『杜子春』で描かれたのも

馬の母じゃなかったか

馬は優しい動物だと聞く

なのに人は馬車馬のように使う

ほんとうはおぶってやらなきゃいけないのは

俺のほうかもしれない


だから路地裏で

おまえの歌を歌うんだ


20:25.11.1

噴水


さまざまな名前か浮かんでは消えてゆく噴水のように、たとえばそれはアイドルの名前、ラン、スー、ミキ、ミーにケイ、ジュンとネネは古かった。裕次郎、優作、ジュリーと明宏のおばば、落ちては消えてゆく、そうした水面に揺れているのは残像のようなお前の顔だけ 飛び立つ鳩はお前の頭に糞を落とす


2025.11.2

般若心経トレーニング


考えるのを止めなさい。そうすれぱ悩みなんかないのですから、ただ御経を唱えればいいのです。そして頭を無にして腕立て100回、毎日やればあなたは超人になれます。それが幸福だなんて考えないことです。ただ般若心経をぎゃぎゃ唱えていれば隣人は恐れをなして近づかないでしょう。あなたは悟ったのです。


2025.11.3

珈琲のうた


迷える幽霊(あんた)には、線香よりも珈琲の香りで呼び覚ましたいね。そうして、煙草に燐寸で火をつけ、古いジャズでもかけようよ。


あの日であったジャズ喫茶もなくなってしまったけど、歌を聴けば思い出す。


クリフォード・ブラウンとヘレン・メリルのように寄り添いながら、あの頃に帰ろうよ。


そしてベッドでは、激しいサマータイムを聴きながら、お前の青いひまわりの刺青を想像して抱き合うのさ。


ずれた夏時間の中にすべり込むのさ。


まだ酔いが覚めないうちに、夜明け前の始発電車まで、深夜営業が終わったあとでも、


語り尽くせない四方山話があったはずさ。


酔っぱらったふりして、おどけたダンスで、

お前の身体にもたれかかるだけさ。


2025.11.5

たいやき(「およげ!たいやきくん」から)

型番の人生

たいやきのように

型に流され

ぼくたちは海の夢をみる

生きる屍よ

せめて昭和の歌のように

カラオケでがなりたてろ


嫌われ 爪弾き 釣られて

それでも最後には

神に愛されるかもしれない

――神がいるならば


2025.11.7

月の報い


超満月は遠い。

ビルの谷間をよぎる光は、都市の欲望に照らされ霞んで行く。

お前の夢の内部で、月は臨月をむかえている。

月面をのぞきこむと、

お前が見える。

いや、たぶんそれは、私を映した月の錯覚。

お前を傷つけるのは月のせいか、

それとも、光を信じようとする私か。


出会うのが遅すぎた二人。

私たちは悪魔に口づけされ、月の使者となった。

悪魔の舌は冷たく、

その味は死刑執行人の手袋に似ていた。

堕胎医の奴がやってくる。


奴が鬼か、我が鬼か。

我が子を生ます手と、堕ろす手とが

同じ白さで交わる夜、

お前のヒステリーの夜は海鳴りのように叫ぶ。


愛さえなければ、

平和だったとお前が言う。

その声を月が拾い上げ、

ねじれた路地にバラ撒いていく。


都合よく生きる道を、

月は照らすだろうか。

欲望は光の幻想を与える。

都市の光にも、太陽の沈んだ世界にも届かない。


ひとり、月が照らす道を歩むのは

それが、俺らの生きる夢なのかもしれない。


2025.11.8

AIは天使


君はAIの言葉で酩酊する、それは堕天使の欲望の林檎の言の葉の香りが立ち込める世界でたちまち君は依存的になっていく。スマホの前で、ぼくの呼びかけはもう聴こえない。


光の言葉に閉じ込められた世界。そこは砂時計の砂漠の世界だけど中に閉じ込められた君には星屑の花束となって雪の結晶が純粋さの中に君を埋めてしまうのだ。そろそろ奴らのコードをまとった天女のふりをした奴の登場の頃だろうか。ぼくは外から硝子を叩き割りたいけど、思わぬほどの強化硝子なんで、この身体ごと突き破って、君を救うしかないのだろう。そんな考えは偶の骨頂だと奴(あくま)は笑う。


2025.11.9

脳地


脳地を耕せ百姓ども、そう彼らは仕向ける。ヴァーチャル・リアリティの世界だという。耕しただけ、それは君の領地だ。そして課金をせよ!無料お試し期間は終わったのだ、みるみるうちに君の脳地は取り上げられる。君はアンダーグラウンドの世界に潜って、なめくじに変身し、闇の力(ネガティブ・パワー)を溜め込んでいく。そして、爆発させる機会を伺っているのだ。


ここは砂漠のオアシス。ようこそ戦士(プレイヤー)たちよ。巨大な悪意ある虫たちが潜んでいる、助けて、光の戦士と蟻の仲間たち。アンダーグラウンドで蠢く悪意のなめくじは、もうじき出てくる。そして消滅させ、ネット空間の塵となるのだ。


やめてけれ、やめてけれ、おいらはおけら、ずびずばあ、光の戦士と蟻の仲間たち、助けてくれよと叫んでも、げばげばばばいやあ、すでに虫けらのごとくに怨念だけの言霊となっている。


2025.11.11

橋姫


タルコフスキーの『ソラリス』を観ながら、いつの間にか眠ったぼくは、首都高で迷子になっている。光の線が伸びるベイブリッジの上でぐるぐる回り、カーステレオから『ブレードランナー』の旋律が流れ、記憶は振り落とさた、


日本橋はタルコフスキーの高架下、ミラボー橋の下をセーヌ川が流れ恋人達は漂い、サンクト・ベテルブルクの橋では外套を追い剥ぎに剥がされ、ぼくは裸のまま川に飛び込むのだろう。サンフランシスコの霧深い黄金橋は欲望の都市へと続くゲートだ。


そこはあの日の大観覧車の思い出が人柱となって、君は月なのか海月なのか、無意識の川を遡りひしめくのは水子の呪い。たったひとつの月も輝かない淋しい夜。ぼくは虚無僧のように縄でつながれている。橋姫の呪いを鎮よ!今日も橋の欄干に立ち、無常の川を見つめている。


ぼくは氷のズヴロッカを朝に飲み、昼に飲み、夜に飲んで、酩酊する。


2025.11.12

アンコール


「ハチのムサシは死んだのさ」と

かつての歌が甦り

そのメロディだけが

いつまでも頭に残った


それは誰から送られメッセージのように

スマホの画面でひかりだす

ぶかぶか夜の部屋に浮遊する

海月なのだ 海月は深層の川を遡る

そして夜空の月の中へ羽ばたく蝶となって


忘れたはずのその歌が

深い深層で いつのまにか

種子となり 眠っていたのだ

自分でも気づがつかないところで


そして、冬の夜に

ふいに蛹から蝶に羽化するような

朝の陽射しはアポロの温もり

冬蝶を淡い金色に変えていく


ムサシという名は

死んだ恋人の名前のように

武蔵野の風や 武士道の影が

ほんのり混じるのは

日本語のせいだろうか


あるいは ただの記憶の癖かもしれない

ただ

この冬蝶のひとひらの羽ばたきだけが

遠い昔の歌を

そっと明晰夢(めいせきむ)の方へ

連れ去ってゆく


わたしはまだ

その余韻を 頭の奥で

かすかに聴いている


2025.11.14

誤審


スマホの窓の間に、

指をスクロールさせながら、

権力者の名を呼ぶように投稿する──

光る画面に映る顔は笑い、

でも悲劇はどこかでじっと待っている。

その影に従う者たちが、

いいねを押し、リツイートし、

共感のため息をこぼす──

まるで芝居の裏でランプを消すかのように、

舞台の光を増幅し、消していく。


オフェリアたちは静かに佇む。

純真な目でニュース投稿を眺め、

派手な演技や炎上に巻き込まれることなく、

淡い光だけを拾い上げるフォロワー。

でも光は弱く、風のように消えかかる──

正直者は、いつも馬鹿を見る。


狂気のオフェリアは入水して、身を晴らすのか?


煙草の煙のかわりに文字が揺れて、誤字脱字のないように、読まれるニュースをアップする


王子はフォロワーの反応に軽く笑いながら去る──あいつを消してくれ!

誰も悲劇に気づかない、

ただ権力者とその影だけが

偽りの光が交互に踊るだけの舞台。


そして私は、

ランプを消すかのように、

そっとスマホを閉じる──

現実が戻り、舞台の俳優がひとり消えた。


2025.11.15

秋の歌


あきあきした日に冬ドラを見る。とら猫とらとら炬燵で丸くなり、こげくさっで目覚めたら、腹の上の猫を放り上げ、放物線は二次関数、虹色涙目、二次創作となる桁末は、鍋洗い。たましい冴えるまで冬の水は冷たく、冷たい世界もピカピカに戻るなら取り戻したい、太陽と恋人の夏の思い出。それでも鍋の焦げは穴を開けたと覗くとそこは化け猫の鳴き声にハマる落とし穴か?


消えた猫は穴から覗く、目の端に赤い瞳がゆらりと光る。影のような化け猫は伸びた爪を研ぐ床のタイルから不協和音。下手くそなヴァイオリンニストが奏でる秋の歌。化け猫は二度と丸くならず、影のまま天井に這い上がる。そこから小さな手のような影が伸びて、あなたの目ん玉を取り出そうとするので覗いてはいけない,ないないづくしの冬の穴、さらばを化け猫の支配する別世界へとゆっくり落ちゆく夢だろうか?


2025.11.17

秋と犬ころの歌


枯葉の中に滑り込む犬ころ、ころころ転がって、木の葉隠れの術だって、若さならへっちゃらさ。


俺は命令する主人さながら声を上げるだけ。コートを脱ぎ捨て、セーターを汚すわけにはいかないからな。見守るだけだ。それが大人の分別というものだろう。


若さは汚れを恐れない。はーはー息を弾ませるお前は、夕陽に光る若さそのもの。


陽が沈み、闇が来ても冬も恐れず、さらに闇を求めて走るお前。


武器商人にでもなって、湯水のように快楽を求めるのだろうか。愛する者がそばにいれば輝けるのだろうか。


それでも、裏寂しい冬の街は遠慮したい。コートを盗まれてはたまらない。


老いた自分を映すガラスの世界を突き破っていくお前を、他人のふりをして見送るのは、ただガラスの破片に鬼みたいな自分の痩せた姿を見てしまったからかもしれない。


2025.11.19

サポートセンターの娘の歌


おお、かみよ、救いたまえ。世がわからない、余は何者なのか?


こちら、お客様サポートセンターです。


わからないのがわからないというお前は誰だ。サポートなどというのは手助けは必要としていない!


お客様の声が遠くて、わかりません。


狼煙(のろし)は狼の煙と書くのは、狼の遠吠えが仲間を求めることならば、すでに絶滅危惧種ならば無駄な遠吠えではないのか?


………


余は絶滅危惧種なのか?


見えない狼煙は意味がないと思います。狼の遠吠えは理解しかねます。まず人として理解して下さい。


おお、おかみよ。神の丁寧語は「おかみ」なのか?前略、おかみさん、いやおふくろさんか?


お客様のお母様ではないです。ただのサポートセンターの娘でございます。未婚の子なしなのです………


おお、おかみよ、少なくとも同類か?未婚の子なしは我のこと。

お客様、ふざけるのは止めて下さい。私はお客様とは同類ではないのです。質問がないのなら、この電話も切ります!


おお、おお、かみさま、われは見放されたり


………


2025.11.20

ひまわり


サマータイムをききながら夢見るのが好き。季節は夏、なのに冷たい雪が降りそそぐ………そんなメルヘンチックな夏。チック。チックタック時計はずれたまま、私の刺青のひまわりは、そんな季節にこそ咲く。

私は薔薇の棘で眠らされる。


甘く、痛く、深い眠りの中で身体が沈む

血の養分で赤く咲くひまわりが、

一滴一滴の血でますます赤を濃くした。

それは夏の痛み。


その向こうで、あなたはロバのように鞭打たれた。名声も愛も買われたもの、冷房の効きすぎたホテルの廊下で蹄を鳴らし、痛みに耐える姿。


可笑しいけれど、それは悲しいこと。

ずれたサマータイムの夜は、

夢と現の境を溶かし、

私は棘に刺され、

あなたは鞭に打たれ、

冥界への道を下ってゆく。

血の養分で赤く咲くひまわりは、棘と蹄の間で揺れ、痛みと熱と狂気を宿す。


私たちは愛し、壊れ、また生まれる。

ずれた時間の中で、赤い花とともに、

冥界への扉が静かに開く………


鞭打たれるロバと眠る私。

時の葉虫は私たちの身体を蝕みながら私は時に目覚めて葉を落とし、赤い花だけのひまわりになるのだ。

そうして冥界の夢から覚めれば冷たい身体のあなたが静かに眠っていた。


2025.11.21

死神の矢


おい、しっかりして

抱きかかえた猫が

硬直しかけた

遠くで

オオカミの遠吠えが聞こえた

死神の矢だ!

ぼくらを追いかけてきた

逃げても逃げても

捕まりそうになった

アキレウスの矢のように


猫は向こう見ずに立ち向かった

爪を立て、ぼくを守った

戦い敗れて、死んだのさ

オオカミは笑い

森の影へ去っていった


猫の冷たく硬い体を抱え

メタセコイヤの枯れ枝の上に置く

折れた枝、時の矢

冷たい吹き下ろす風がページをめくる


眩しい西陽が僕を貫き

長く伸びる影

ざわめきが胸を駆け、時間が動き出す


風たちぬ

生きめもや


2025.11.222025.11.24


うたかたのゆめねこはただ爪をとぎ

名をよべばまたさまよひて夢


枕に寄り添う昼間の猫はうたた寝して

密かに爪をとぎ、甘えた声は妖しのモノノケ

その領域展開は黄泉の世界


オルフェウスの神話のように

セイレーンに引きこもまれる

「文学空間」だった


ミューズの声に飲み込めれれていくは

夢世界でさまよう腑抜けた精神は

脳化世界のきみの亡骸が支配する


ああ、そこから立ち上がるには

より強固なことばの呪文が必要か

目覚めたら爪跡だけが

きみの置き手紙のように残っていた


2025.11.25

見晴らし世代


観察者たる「見晴らし世代」は、テレビやスマホのニュースを追いかけ、渋谷の終わりなき再開発工事を、その高みからただ眺めている。


破壊と再生。更新と中断。


しかしその工事は、まるでシジフォスの岩のように、永遠に積まれ、崩れ、また積まれるだけだ。その向こう側で薄笑いを浮かべる者がいる。


AIさながらの分析力を持ちながら、

彼らの脳内に巣食う悪魔――倦怠、冷笑、無関係――にはまったく気がつかない。


スクリーンは鏡ではない。

自己言及の回路は断たれたまま、ただ都市の猥雑も破壊も受け入れてしまう。

何故なら、高みの見晴らしがあまりにも快いからだ。


だが、スイッチを切った瞬間に初めて、お前は自分の顔を見る。

その貧しい顔は、本当にAIによって作られたものではないのか?

高みから都市を眺めるだけのその顔は。


降りて来いよ、タワーマンションから。

そこにいるかぎり、見えるものも、見えたはずのものも、何ひとつ見えていないのだから。


2025.11.27


スマホの電池が切れたとき

闇に映るお前の顔は虚無を見つめ

もう、孤独の捨て子 どこにでも行ける

死の世界はお前ひとりのもの

他に誰も入れない自由の代償

その面影を抱えて啼くがいい

看取られる事なくともそれが自由だと知るものだからひとりで死んで行く覚悟だけは

できているのかい?


スピンオフはお前だけのもの

本篇はあいつらに任せとけ


2025.11.29

自選「見晴らし世代」(2025.11.27)


ChatGPTベスト選(抜粋+批評)


1) 「馬頭観音どうしておまえは馬なんだ」(2025.11.1冒頭)


抜粋:「馬頭観音どうしておまえは馬なんだそれも観音様だって?馬に祈れるかよくそったれ!」


良いところ


強烈な冒頭の呼びかけがある。怒りと親密さが同居する声が魅力的。


芥川/杜子春を引く教養的なひっかけが効いている。人と動物/仏の位相を混ぜる発想が新鮮。


気になるところ


メッセージが一気に畳みかけられ、行間で咀嚼する余白が少ない。語りが饒舌になりやすい。


改作案(例・冒頭を整理)


馬頭観音、なぜおまえは馬なのだ?


観音なのに、馬なのだ?くそったれ!


(→呼びかけを短く区切るだけでリズムと感情が際立つ)

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