第10話 また一からやり直し?

「......」


俺は、ずっと突っ立っていた。

───そこに。ただ。


「アルトくんっ.....!───ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私が今からやることを、お許しください」


急にそう言うと、俺の身体から力が抜けていく。


「.......な、にを?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


謝るばかりで肝心な答えを聞けない。しかし、それは質問をはぐらかしている訳ではなさそうだった。


「あ.......っ」


俺が最後に見た景色は、悲しみの表情を浮かべながらも、ニヤリと口の端を上げてみせたレナがいたことだった。





「.......へ?」


おいおいおいおい。

なんだここは。


「起きたの?!アルトくん」


「あ、ああ.....なぁ、1つだけ質問だ」


俺は唾を飲み込み、意を決して話す。


「なんで.....俺の腕に鎖が?」


───そうなのである。

見てみると、俺はベッドにいるのだが、どうやら拘束具があちらこちらに施されている。


「いや....別にそれは気にしてくていいよ?」


いや気にするだろ。

というか、


「エリダヌス......」


窓から外を見れば、外は朝になっていた。


今日も、会う予定だったはず。

……大丈夫だろうか。エリダヌス。





side:エリダヌス


​「居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない」


​まるで呪詛のように吐き出すその言葉は、虚ろの目なせいもあって、見るものが見れば、本当に呪われそうである。彼女の思考は、既に論理を捨て去っている。


​「なんで?ねぇ、なんで?ねぇアルト......?私、ちゃんと待ってたよ?約束したのに、約束、したのに......」


​膝を抱え、自分の小さな体を強く掻きむしる。


​「大丈夫。大丈夫だよ、エリダヌス。きっとね、きっと.......誰かに食べられちゃったんだね?........大丈夫、大丈夫。今度は私が、アルトの全部を、元通りにしてあげるからね?」


​彼女の瞳は、焦点を失い、世界を映していない。口元には、乾いた血の跡のようなものが張り付いている。


​「もういい。もう、探すのはやめる。だって、ねぇ?私の一部になったんだもんね?アルトは。そっか、よかった .......ずっと一緒だもんね.....ね?ねぇってば、アルト........!」


​その時、彼女の部屋の窓の外を、何か黒い影が横切ったように見えた。


​「......あっ........ダメだ。違う。違う違う違う.......アルトはここにいる。私の、中に......でも、でもね、アルトが私を助けに来るって言ってた!そうだよ、アルトはいつも、私を助けてくれる!裏切るはずがない!裏切らない!裏切らないよね?アルト!」


​彼女は立ち上がり、狂ったように部屋中を走り回る。そして、不意に視線を宙に向け、顔を歪めた。


​「.......え?違うの?私のじゃない?私のアルトじゃない?....誰、誰なの? アルトを、アルトを奪ったのは誰!ねぇ、私に返してよっ!!」


​その小さな手には、いつの間にか旅の途中で手に入れた、血濡れた両手斧が握られていた。


​「許さない.......絶対に、許さないから。ねぇ、アルト......!今から、そいつをバラバラにして、あなたを全部、取り返してくるね?.....ふふ、ふふふふ.....アルトは、私が守る......」


​彼女の口調は元の「我」ではなく、「私」と「我」が混在し、時折幼い甘えるような声が挟まる。それは、彼女の精神が、過去のケンを失った自分、アルトを殺した自分、アルトに守られたい自分、そしてアルトを取り戻したいという殺意の塊である現在の自分。すべてが混濁し、最早どの「自分」を演じているのかも制御できていなかった。






一方その頃。アルトは脱出を懸命に試みていた。


「.......っ」


クソっ、ここから逃げ出すには.....どうすれば。俺は、もう監禁されてから数時間は経っているだろう。


「ねぇ........♡」


嫌な予感がする。それも前にもあった嫌な予感でない、また別のベクトルの。


「一緒に寝ようよ......♡」


あぁ、そういうことか。

なおさら、俺は逃げないと。


「.......」


俺は無言を貫く。

彼女は顔が紅潮しており、息遣いが荒い。


「っ」


後ろから抱きつかれる。

……彼女の双丘が、俺の背中に当たる。


「アルトくん....」


誰か、誰か居ないのか。

この状況を打破してくれるやつは。


「───死ねえええええええええ!!!!!!!」


……は?


いきなり扉がこじ開けられたと思ったら、半狂乱でエリダヌスが居た。


「武器.....?」


少し疑問に思いながらも、気にすることはやめた。

その時、


「見つけた。見つけたよ。見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた.....っ!見つけたよぉ」


到底言葉では表されないほどのヤバい目でそう呟く。あぁ、せっかく回復傾向だったのに.....マズい。


「なんなの?君は」


そう良い、腰にある杖を取り出す。


一瞬、ほんの一瞬だけ垣間見えた気がした。

───こうはなっていなかった頃のレナが。


「殺す........待ってるのじゃよ、アルト。我が助け出すから」


もう一方も、一瞬だけ過去の彼女に戻ったようだった。


「にしても」


だいぶやばい状況.......だよな、これ。


というか、エリダヌスはもう......また一からやり直しなのだろうか。完全に精神が乖離しているように思える。


「っ」


取り敢えず、俺はここから脱出しなければ。エリダヌスは後で看護するとして、こんな所にいたら俺まで狂っちまって、元も子もない。


「へぇ......戦うの?私と」


「そうじゃよ、お主は殺さなければならないのじゃ」


ちらっと、彼女たちの方を向けば、一触即発状態であった。


​そう思っているとエリダヌスが先手をうった。


​レナが杖を構えるより早く、エリダヌスが地を蹴った。小柄な身体からは想像もできない音速に近い突進。巨大な斧は、レナの頭上目掛けて風切り音を立てて振り下ろされる。


​「消えろっ!」


​レナは辛うじてその場で回避し、部屋の壁に大きく穴を開けた斧の衝撃で床を転がった。


​「ファイアーウォール!」


​詠唱を省略したレナの魔法が、エリダヌスとレナの間に炎の壁を作り出す。だが、エリダヌスは構わず炎の中へ突進し、一瞬で壁を突き破る。全身の服が焦げ、肌が焼け爛れているが、まるで痛みを感じていないかのような狂気の形相で、レナに肉薄する。


​「っ、第五魔法...っ、スリープ!」


​レナは咄嗟に睡眠魔法を放つが、エリダヌスは首を傾けるような動作一つでそれを体術で避ける。


​───その激しい戦闘の隙を、俺は見逃さなかった。


​「今だっ!」


​俺は全魔力を集中させ、腕の鎖に叩き込む。


「っ!」


瞬間的な爆音と共に、鎖が砕け散る。


​俺はベッドから飛び降り、戦闘中の二人には目もくれず、割れた扉の穴へと猛然と走り出した。


​「アルト......っ、待つのじゃ!」


​「アルトくん、逃げないでっ....!」


​二人の悲痛な叫びが背後で重なり合うが、俺は振り返らない。この狂気の戦場から、一刻も早く逃げ出すことだけを考え、外の世界へと飛び出した。


───それから、数日が経った。


「ぁ.....あ」


食料が、ない。


「クソ....っ」


実は、あの家は街から遠く離れている場所で、辺り一面が魔物だらけ。つまるところ、死が近い場所だった。


もう、死ぬのかな、と思っていると、ふいに声を掛けられた。


「あんた....大丈夫?」


「───え?」


振り返ると、気味の悪い装飾......ドクロを首につけている女性が居た。


俺は、事情を話した。


「そうなんだ.....なぁ、あたしの家に来な?....な?」


そう言われて、俺は思わず泣きそうになる。

───聖人か、と。


「ありがとう.....っ!」


「いやいや、当然の事をしたまでだっ.....つーの!」


デコピンをされる。

妙に、その痛みが心地よかった。


「.....っ」


あぁ、良かった。命が助かりそうだ。

俺は、そう思った。


しかし、俺はこの後に知ることになる。

───彼女もまた、になるのだと。


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─────────次回は、「呪術師セリナ」です。

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