ヴァンパイアハンター

@nrya

第1話 

 洞窟の中、1人の少女と吸血鬼が戦っていた。


 机や棺桶があるのを見るに、吸血鬼が拠点として使っていた様だ。辺りに少女が殺したであろう吸血鬼の死体が二体転がっている。


 「やめてくれ!俺達だって、人を喰いたくて喰った訳じゃ無い!仕方無かったんだ、俺は吸血鬼になりたかった訳じゃ…」


 「黙れ。」


 全身を布で覆った少女が、剣で吸血鬼の頭を斬り落とした。そして、そのまま心臓に剣を刺した。


 「化けも…の…」


 彼女は吸血鬼の息が消えたのを確認して、辺りを見回した。


 「……これで最後かな。」


 少女は殺した吸血鬼の目を抉り取りショルダーポーチに入れ、その場を後にした。


───10年前。


 クロウァーナ国、レサック村。


 田舎にある人口500人程度の村。


 ある日、吸血鬼がその村を襲った。


 「ミリアは此処に隠れてなさい。何があっても、出て来たらダメだ。」


 「お母さんとお父さんの事は心配しなくて良いからね。」


 私はタンスの中に入れられ、戸を閉められた。


 ドアが破壊される音が聞こえて、息を潜めた。


 金髪の吸血鬼が家に入って来たのが戸の隙間から見えた。


 「この家にはお前ら2人だけか?」


 「そうだ…ぐああっ!」


 吸血鬼は爪で父親の肉を抉り取った。


 「ふん、不味い血だな。」


 気分を損ねたのか、父親の頭が捻り潰されたのが見える。


 「はっ、こんな不味い血は飲もうとも思わん。どうせこの女も不味い血だ。折角ならば…少し遊んでやるか。」


 ザシュッ。


 「ああっ!」


 母親の右足が斬られ、その場に倒れ込んだ。


 次は右腕。


 次は左足。


 吸血鬼は母親をひたすらに斬り付け、甚振っている。そして、段々と悲鳴が小さくなって…


───やめろ!


 「ハアッ、ハァ……」


 目が覚めると、拠点にしている廃墟の教会の中だった。


 「痛っ…」


 脇腹の傷が少し痛むな…


 「"融合"。」


 傷が塞がったのを確認して重い身体を起こし、干し肉をそこらの雑草と一緒に口に入れ、水で流し込んだ。


 私は吸血鬼どれだけ殺したのかが簡単に分かる様に目を集めている。目を入れている箱を開けると50個を超える目が入っていた。


 まだまだ先は長いと自分に言い聞かせ、それの蓋を閉め外に出て太陽の位置を見るに、日没まで6時間ぐらいか。


 そろそろ保存食も足さないと…それに吸血鬼を殺す為の聖水も無いし、街に行こう。しかし…金が無い。


 冒険者ギルドで適当な仕事を探そう。吸血鬼の情報も収集したいしね。


 干して置いた服を着て、街へ行く準備を整える。


 あと…冒険者手形。これが無いと冒険者の証明が出来ない。必要な物を全部背負い鞄に入れて、さあ行こう。


 道中は馬車も通るから道はある。魔物も出にくいだろう。


─────


 この世界には魔法がある。呪文や魔法陣で魔力を力に変える事ができる。それともう一つ。スキルと言う一人につき一つは持っている特殊な魔法がある。呪文や魔法陣が不要で、しかも魔力の効率がいい。


 私が持っているスキルは"融合"。自分の身体に他の物体を融合…というか、くっつけられる。しかも生物の一部と融合すれば、ある程度自由に動かせる。


 この右腕は、私のものじゃ無い。死んだ友達の腕をくっつけた物だ。動くかどうか不安だったが、動いてくれたからよかった。傷もくっつけて塞げるから便利だ。


 街に着いた。


 此処はクロウァーナ国、イェール街。かなり栄えている街だ。大きな冒険者ギルドがあり、常に冒険者向けの需要で賑わっている。


 さっさと冒険者ギルドに行こう。


─────


 此処が冒険者ギルドだ。


 依頼を貼る掲示板を見て依頼を吟味する者。依頼を終え入った金で飲む者。それらに自らの商品を売り込む者でごった返している。


 冒険者というのは言わば便利屋。そこから派生して傭兵専門だったり、採取専門だったりに分かれることはあるが、基本的にはただの便利屋だ。


 ……掲示板を見ても特に報酬が大きい依頼は無いな。軽いものを三つぐらいやるか。


─────


 「こちら、合わせて報酬金500Gです。」


 安全な依頼だったからあまり稼げなかったな。こっから宿(食事無し)を一泊で150G引いて、一日の食事で150Gぐらい消えるから、実質200Gか。


 …少ない。吸血鬼を殺すにはもっと無いとダメだ。


 金を小袋に入れ、手で遊びながらギルドを後にした。


 吸血鬼は、人を喰い、時には眷属にし、時には人を甚振り遊ぶ化け物だ。その本質は呪いで、人の魂を取り込みエネルギーとして還元する事で実質的に不老となる。強力な再生力、魔力、身体能力を得た代わりに、日光の元を出歩けず、自身の魂は常人より少ない。


 そんな奴らに勝つためには、準備が肝心だ。聖水だとか、武器だとか。


 …まあ聖水に関しては無くても頭と心臓を再生するまでに両方破壊すれば殺せるが、あった方が良い。だが、ちゃんと効くレベルの物で200Gするからな…


 さて、もう日も沈んでる。宿を取って、吸血鬼が居ないかのパトロールをしないとな。


 ギルドの近くにある冒険者用の宿だ。ベットと窓だけがある質素な部屋が大量にあるのが特徴になっている。


 要らない荷物を置いて、吸血鬼が居ないかのパトロールに行こう。


─────


 「よいしょっと。」


 建物の上に登れば街を見下ろせて探しやすい。


 街に隠れている吸血鬼は主に薬屋だとか酒屋が多い。劣化を防ぐという理由で店内を日光に当たらない様にできるからね。そこの店員と、人を連れて人目につかない路地に入る人に注目しよう。


 早速人を連れて裏路地に入ろうとしている人が居る。上から監視しながら追いに行こう。


 ……普通に通り過ぎていったし、ただのカップルかな。




 あ、あれは…あの女の顔は何かしらの魔法を受けてそうだな。多分吸血鬼。


 やっぱり。路地に連れ込んで吸血しようとしてるから……


 懐からアイスピックを取り出す。


 ちゃんと吸血行為をしようとしてるか見てからにしないと。間違えてたら大変だからね。


 よし、今だ。屋根から飛び降りて背後に着地。そして首から脳みそを破壊して……心臓を貫く!


 よし、一体目。目をくり抜いて屋根に戻ろう。あの女は魔法の効果で意識が朦朧としてるから、あのままでいいや。


 5時間ぐらい回って一体か、まあいつも通りかな。


 暇だな…さっき薬屋の店員がいた様な気がするから、あいつを追うか。


 人目に付かないとこに入ってったな…かなり怪しいけど、人を連れて無いし、吸血してるところを見ないで断定は…


 ん?


 何か呪文を唱えて…


 ヒュォッ!


 「!?」


 口に氷の槍が突き刺さった。

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