伝説のサラマンダーを召喚しました。

とうふパパ

第1話

「・・・に集いし、われの命に従え、召喚!」


「・・・・・・・・」


 僕が手にしたスクロールに描かれている魔法陣はなにも反応がなかった。


「まただめだ・・・!どうして何も召喚できなんだ!」


 僕の名はソウマ、王立ライオット学園で唯一何も召喚できない召喚士としてなにかと話題の1年生だ。

 今日も一人裏山にある古びた石碑の前で召喚を行っていた。

 今召喚で使用したスクロールは最低ランクの“G”

 入学して最初にもらう誰にでも使えるはずのスクロールだ。

 その誰でも使えるスクロールを入学して3ヶ月も経つのにまだ使えないでいる。


「絶対に伝説の召喚士「リュウソウ」みたいな人々を守れる召喚士になるって母さんと約束したのに・・・」


 召喚士リュウソウは2000年前に伝説の召喚獣サラマンダーを操り魔王軍と戦って勝利した英雄だ。

 今練習している場所もリュウソウを祭った石碑だ。


『絶対リュウソウのような人々を守れる、母さんが誇れる生き方をするよ。』


 だんだんと弱弱しくなる母さんの手を握りながら最後の日に約束した言葉・・・

 僕は母さんが病気と分かりもう助からないとわかると、無力感と絶望に襲われた。

 僕にできることは母さんが安心して天国で暮らせるように強く正しく生きることだ。


「なのに・・・ちくしょう・・・」


 空に上げた握りこぶしがゆがむ・・・

 自分の力のなさに口惜しさが増す。


「絶対に召喚してやる・・・」


 振り上げたこぶしを下ろしタオルで顔を拭きまた特訓に戻ろうとしたその時、


「おいおい、こんなところで何してるんだぁ?無能のソウマ君はぁ?」

「もちかちてお遊戯の練習でもちてるのでちゅかぁ~~?」


 嫌な声が聞こえてきた。

 その声の主はアクヤーク、同じクラスでいつも僕のことを馬鹿にしていじめてくる嫌な奴だ。


「くっ!違うよ!召喚の練習をしているだけだよ。」


「おーーー!さすがだねー!練習熱心なソウマくんは俺たちとは違うねー。」

「今日はどんな召喚獣を召喚しているんだい?E級かい?それとももしかしてD級かい?」


「・・・ぃ級だよ・・」


「えっ!!なんだって?」


「Gぃ級だよ!」


「えーーー!うそだー!!もう入学して3ヶ月も経つんだよ。G級なんてそこいらの5歳児でも召喚できるぜ!まさか学園でG級のスクロールも使えない無能がいるとはねー。そんなに練習しても召喚できないんじゃあ、やっても無駄じゃないかなぁ?さっさとお家へ帰ってママに甘えて慰めてもらったらどうだい?あっ!ごめんごめん、ママはもういないんだったね。忘れてたよ!ごめんねー、思いださせて。」


「くっ!・・・」


 いつもの煽り文句を受けても僕は無視して練習を始めた。


「おいおい!無視かよ!無能のくせに生意気な!」

「そうだ!おい無能!おれが練習相手になってやるよ。学年順位1位のこの俺様が直々に相手するんだぜ!ありがたくて涙が出てくるよなぁ!召喚!バスターホーン!」


 僕の返事も待たずにアクヤークはバスターホーンを召喚した。



 ☆バスターホーン E級

  牡牛型召喚獣

  ハンマーカウF級が進化した召喚獣 両角がバスターソードのように鋭くなっている。


「ぶももももももうううううううぅぅぅ!!!!」


「ほらほら!早く召喚しないとバスターホーンの突進がお前に突き刺さるぜー!!!」


「くっ!!大いなる大空より我のもとに集いし、われの命に従え、召喚!サイレントバード!!」


 僕が前へ突き出したスクロールはなにも反応がしなかった。


「召喚!!!召喚!!!召喚!!!・・・しょうかん!!!!」


 何度やっても反応が無い。


「おいおい!いつまでも待てないよー!もういい加減にあきらめろ!バスターホーン!突進だ!」


「ぶもももぅぅ!!」


 バスターホーンは返事をすると僕めがけて突進してきた。

 ドカッッッ!!


「うわぁぁぁ!!」


 僕はバスターホーンの突進を受け吹き飛ばされ、石碑にぶつかった。


「おっとソウマ君大丈夫かい?まだ僕は全然本気を出していないよ!早く召喚しないと死んじゃうよーー!そうだ!ちょうどいい!その君とお似合いの小汚い石碑を君の墓石としてあげようかな?」


(ちくしょう・・・!どうして召喚できない!僕は母さんと約束したのに!強くなるって!母さんが安心して天国で暮らせるように!強くなるって約束したのに!)


「どうして僕に構うんだ・・。君からすれば僕はどうでもいい存在じゃないか・・・」


「もう飽きてきたから終わりにしようぜーー!バスターホーン!ドリルアタックだ!」


 アクヤークの号令とともに、バスターホーンが地面を揺らしながら突進してくる。


「くっ……!」


 体が動かない。恐怖で足がすくんでしまった。目の前に迫る巨大な角。もうダメだ――そう思った、その瞬間。




『――応えよ、我が声に。』




 どこからか、低く響く声が聞こえた。


「え……?」



『――汝我と契約をし、召喚するか?』



 石碑から声が聞こえる



『もう一度問う、汝我と契約をし、召喚するか?』



「する!召喚する!契約でも何でもする!!」






『契約成立だ!!』





 次の瞬間、石碑がまばゆい光を放ち始めた。まるで太陽が地上に降り立ったかのような、灼熱の輝き。


「な、なんだこれは!?目が……!」


 アクヤークが目を覆い、バスターホーンも突進を止めて後ずさる。

 石碑の中心から、水が渦を巻いて立ち上がる。その中から現れたのは――


「うぱっ!」


 全身がピンクでぬめりとした肌に覆われ、つぶらな瞳を持つ小さな生き物。四肢は短く、尾がひらひらと揺れていて顔には赤い奇妙な突起が何本もある生き物だった。


「……え?」


 ソウマは目を疑った。


「なんなんだこの召喚獣は?」

「な、なんだこの魔力……!さっきまでのバスターホーンとは比べ物にならない……!」


 アクヤークは膝をつき、顔を青ざめさせていた。


「まさか……あれが……伝説の召喚獣、サラマンダー……?」

「いや、でも……見た目が……」


 顔つきやしっぽなどはドラゴンと近いがピンクの体でぬめぬめした体、なにより何も考えてなさそうなつぶらな瞳・・・

 その姿は、今まで見たことのない容姿をしていた、だが――

 空気が震えていた。召喚獣の周囲に漂う魔力は濃密で、背面がゆがむほどだった。

 ソウマは困惑していた。それもそのはず、ソウマの世界ではウーパールーパーは存在しない。しかし、この世界ではその姿が「神秘的」「未知の生物」として畏怖されていた。


『うぱっぱ!(我が名はウーパールーパー。汝の命に従おう。)』


 その声は、確かにソウマの心に響いた。


「ウーパールーパー……お願い、バスターホーンを止めて!」


 ソウマの叫びに応じ、ウーパールーパーは尾を揺らしながら宙に浮かび、口を開いた。


『うーーーーーーーーぱー!』

 次の瞬間、空気が爆ぜ、水が地面を走る。バスターホーンはその水流に怯え、突進を止めて逃げ出した。


「くっ……バスターホーン、戻れ!」


 アクヤークは顔を青ざめさせながら、召喚を解除する。


「お、おぼえてろよ……!」


 そう言い残し、アクヤークは逃げるようにその場を去った。



 静寂が戻る裏山。ソウマは膝をつき、震える手でウーパールーパーを見上げた。


「……ありがとう、ウーパールーパー。」



『うぱうぱっ!(礼には及ばぬ。我が主よ。)』




 こうして、落ちこぼれと呼ばれた少年は、見た目は愛嬌たっぷりのウーパールーパー、しかしその力は伝説級――そんな召喚獣と契約を果たした。

 だが、それは新たなる運命の扉の始まりにすぎなかった――

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