集中狙いなんてゴメンだ

 瀕死の重傷は治ったが、追撃は止まらない。


「【転移】!」


 流石に死ぬかと思ったが、攻撃が当たる前に離れていたアマネの方へ転移させられる。


「悪い、助かった」

「心臓に悪いわ」


 俺を掴んで駆ける彼女の手は震えていた。人の死はキツいよな。死にかけただけだけど。


「でも効果はあった。どうにか反撃して隙を作りたいな」

「ええ。でも私でも結構ギリギリよ」

「ああ」


 こうして抱えられながら逃げる様を見ているが、スレスレのところに相手の攻撃が通っている。人ひとりを抱えてでこれならアマネは大丈夫そうだが。

 問題は俺が狙われているということだ。


「『異空間』に入る」

「えっ?」


 アマネが駆けている方向に入口を開いたので二人して『異空間』に入り急停止してつんのめった。


「ちょっと、いきなり使わないでよ」

「悪い。一回体勢を立て直すにはいいかなと思って」


 外がどうなっていようが『異空間』には影響がない。そしてさっきまでならドラゴンのリセットもできていた。今の暴走? 全力? 状態ではどうなるかわからない。


 アマネに下ろしてもらい、『収納』から道具を取り出して注射器に文字を刻む。


「とりあえず、これは渡しておく」

「……」


 アマネは注射器を受け取りつつ、そこに書いてある文字を見て白けた目をした。言いたいことはわかる。だが『刻印』はイメージが大事なのでノリと勢いも必要だ。


「まぁ、いいわ」


 『言霊』で言わなくていいからだろうか。


「魔力を込めれば刻んだ文字の効果が発動するから、隙を見て口の中に放り込んでくれ」

「今の相手にそれは難しいわよ?」

「わかってる。その隙を作る術は、戦いながら考えるしかないな」

「……大丈夫なの?」


 アマネが不安そうに目を細める。


「なんとかする。そのために『異空間』に入ったんだ。強化を色々として逃げ回れるだけの状態になるようにな」

「そう」

「先に出てもらって、俺が逃げ回るのをフォローしてくれると助かる。なんか思いついたら実践していってくれていい。俺も、なんかあったら伝える」

「わかったわ」


 アマネは注射器を片手に『異空間』から出ていく。俺も『刻印』で色々自分に書いて強化を施してから出た。


 外出た瞬間終わりかけた。


 アマネを魔法とブレスで追いかけていたドラゴンが、俺にくるって向きを変えたんだぞ。冷や汗掻くわ。全力で駆け出し、魔方陣から放たれる火炎弾みたいなのを回避する。ドラゴンは口から細かい光弾を放って逃げ道を削ってきた。


「俺への警戒度高すぎだろ!」


 文句を言うだけの余裕はある。さっきみたいに直撃して死にかけることもない。

 注意が俺に移ったので、アマネが隙を窺っているのだが。口からブレスやらなんやらを撃っているので飲ませるのは難しそうだ。

 隕石を落とした時みたいに、首から上を吹っ飛ばして再生直後を狙うしかないか? だが今のドラゴンは魔法を絶え間なく使っている。首から上を吹き飛ばしても攻撃の手が止まない可能性もある。


 考えても仕方がないが、考えるしか手立てがない。

 なにか手を思いつかない限り難しい。


 隕石は結構魔力を使う。俺の万単位MPでも乱発はできない。隕石一つでダメなら流星群で、とも思うがMPが足りない可能性もある。というか今の状態で魔力が切れると逃げられなくて隕石が着弾する前に死ぬな。

 そもそも俺の『刻印』は止まって文字を書かないといけないから今の状況だと【l】か【i】くらいしか使えないぞ。


 となるとアマネになにかやってもらうしかないが。アマネの方がMPの総量が低いから無理に強い攻撃をさせると魔力切れを起こしてしまうかもしれない。ドラゴンに接近して薬を飲ませる一番大事な役目を任せている彼女を危険に晒すわけにもいかないだろう。


 いや、待てよ?


 あるじゃないか、もっといい方法が。


 妙案を思いついた。俺は逃げながら一瞬足を止めて【e】を描き百メートルくらい離れた位置に転移する。移動のイメージを転移にしただけの応用だ。

 俺が離れたことでドラゴンはブレスの体勢に入る。しかも魔方陣からも黒紫色の雷が光へと伸びていき、これまでにないほど巨大化していく。ブレスを強化することもできるらしい。


 だが溜めの時間があるので足を止めることができる。


「アマネ!」


 俺は遠くから呼ぶ。こっちに来てくれることを信じ併行して指を走らせた。


「【転移】」


 アマネはちゃんと俺の方に来てくれる。


「なにか思いついたのね?」

「ああ」


 俺は魔力で文字を書き上げた。俺の残り魔力全てを込めた渾身の『刻印』だ。


「読み上げろ!」


 『魔力眼』を持つアマネになら、俺の書いた文字が読める。

 更に、装備を創っていた時に俺の『刻印』をアマネの『言霊』で強化することができることはわかっていた。


 俺のやりたいことが伝わったのか、アマネははっとした顔をしてから仄かに笑みを浮かべる。


「【ドラゴンブレス】!!」


 俺が空中に書き上げた文字を読み上げた。


 相手のブレスが発射される。橋の上を覆い尽くすほどの巨大なブレスだ。

 こちらのブレスが発射される。負けじと巨大なブレスだ。イメージが相手のドラゴンなので色も一緒である。


 二つのブレスは真ん中でぶつかり、鬩ぎ合う。

 強大な力の激突によって衝撃波が起こり橋が吹き飛んでいく。


 俺のありったけの魔力を込めたのに拮抗している。二人の力を合わせれば上回ると思ったが、そう簡単にはいかないか。


「アマネ。限界まで魔力を込めろ。最後、薬も同じ方法使うからその分は残していいが」


 言うとなぜか薄っすらと頬を染めた。


「……アレを読み上げるのね。いいわ、それしかないならやるわよ」


 どうやら恥ずかしいらしい。確かに俺もノリで書いてしまった感があると思っているが。


「【超越】」


 彼女は覚悟を決めると放たれているブレスに向けて更に『言霊』を使う。言葉からイメージを想像するなら、こっちのブレスが相手のブレスの威力を上回るというモノだろう。


 そして、実際アマネの強化を受けたブレスが一回り大きくなり相手のブレスを押し返していった。


 それと併行してアマネが注射器を手に跳ぶ。ブレスの上を越えるつもりのようだ。


「【飛行】!」


 『言霊』の後押しで飛びドラゴンに近づいていく。

 ブレスがドラゴンへと当たり、巨大な呑まれた。ブレスの通り過ぎた後には足と尻尾しか残っていない。だが身体の大部分を消し飛ばされても再生できるようだ。


 ドラゴンが再生し切るタイミングに合わせて、口の中目がけて注射器を投げた。


「【大増量キャンペーン中】!」


 自棄気味に叫んだ言葉と込めた魔力が、注射器の中の薬に作用する。

 ドラゴンの口の中に入っていくところで注射器を割る勢いで増量された。口の中に入るどころではなく、ドラゴンの身体全てを押し流すほどの量に増える。


 ざばーっと薬が放出されてドラゴンを覆い、橋を伝って川へ流れていく。


 作戦成功、無事生き残ったな。


 アマネが嬉しそうにこちらを振り返ってきたので、気怠さを押して親指を立てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る