鍛冶できないなんてゴメンだ
チェンさんは商業都市一番の宿を用意してくれた。高級リゾートホテルみたいな物凄い施設だ。どこもキラキラして金持ちが泊まってそう。
一人一室、広間かよってくらい広い部屋だ。食事はいつでも食べ放題。飲み物も。他にもマッサージとか色々な特典も全て無料で受けられるらしい。
この街における商品全無料の権利はすぐに通達したようだ。とんでもないことになったが、これでいい。
三人で話す時は俺の部屋に集まることにして、早速集まる。
「【防音】」
会話が聞かれないようアマネが音を遮断する。
「貴方に任せようとは思ったけれど、こんなことになるなんてね」
「う、うん。というかシン君肝据わりすぎてない? 私なんてずっと緊張で心臓バクバクだったのに」
自分達だけになってやっと肩の荷が下りた。ソファにだらしなく腰かける。
「ああいう人には、力があって利用価値のあるバカを演じるより、賢くて取引の価値があると思わせた方がいいと思った。二人には悪いが好き勝手させてもらっちゃったけど」
「構わないわ。私なら終始相手のペースで終わるだけだったもの」
「うん。私もそうかな。最初に、英雄って言われて反応しちゃった時点でシン君以外には無理だったよ」
事後承諾にはなってしまったが、二人も文句はないようだ。
「けどよくわかったね、チェンさんのスキル。私なんか、王都から情報が漏れたのかと思って頭真っ白になっちゃったよ」
新垣先生が苦笑する。
「先生が含まれていたのでそれはないと思っていましたが、私はそれよりも情報を王都に流される可能性を考えてどうすべきか考えてしまったわ」
アマネが嘆息する。
「まぁ向き不向きってことで。俺も王都側につかれたら困るから、一目置かれて敵対しない方が得だと思わせる必要があると思って。だから精いっぱい賢いフリしたってわけだ。最後まで誤魔化せて良かった」
俺は本来そこまで賢くない。頭の回転が早いわけでも発想力に秀でたわけでもない。ごく普通なりの工夫である。
「賢いフリ、ね」
含みのある言い方をされたが本当のことだ。
「助かったよ。シン君がいて」
先生の素直な感謝が痛い。
「そんなことより、次の動きだ。まず、先生には全部じゃなくていいので貰った本を読んでこの世界を旅する上で必要な情報をまとめてもらいたいです。日本語で紙に書いていってください」
「紙に書いて? あぁ、もしかして後続の英雄に渡したいモノってそれ?」
「はい。先生が生きてることは伝えたつもりですが、証拠として先生の筆跡で、クラスメイトにしか読めないモノで渡せば確信に変わります。離反して行動するなら、近くこの街へ情報を集めに来るでしょう。それを手助けする情報を先に用意しておく、と」
「なるほど。任せて、すぐ始めるよ」
「それが用意できたら出発します。その間俺とアマネは物資補充とレベル上げ。冒険者として活動するのもいい。俺は『鍛冶』を学びたいから鍛冶屋に行くつもりだけど」
「わかったわ。ドラゴンへの対処を考えながら『感知』で歩いてみるわ」
「助かる」
効果は曖昧だが使えるスキルだからな。
というわけで行動開始。
俺は先生の部屋に『収納』へ入れた全ての本を積んでいく。
宿を出て街を回る。
全てチェンさんが立て替えてくれる情報は伝わっているようで、積極的なオススメを受けた。買われたら買われただけ利益になるからだろう。なんなら財布の紐がないのでチャンスと思ったのかもしれない。
ただいらないモノはいらないし、俺の『収納』にも限界はある。ある程度精査しつつ買っていった。
スキルの関係上、俺が物資補充とか管理を任されている。個人的に買いたいモノは各々で買うが、全員の分は俺が準備する。
『収納』持ちであることの情報規制も出してくれると思うので、思う存分使い倒して買い回った。
その道中で見つけていた鍛冶屋に立ち寄る。
鍛冶屋ガンドラム。
この街で一番大きい鍛冶屋、ではない。どちらかと言えば小さな鍛冶屋。大通りにはなく小さな通りにあった。店構えは無骨で派手な装飾はない。煙突のついた煉瓦の家に看板が一つあるだけだ。
「すみません」
扉のない店の入り口から覗き込んで声をかける。
中にいた店員さんがこちらを向いた。愛想はなく睨まれているようにも感じる。
店員は毛量の多い小柄な男性だ。髪の毛も髭も多い。耳は少し尖っていて人族でないことがわかる。
ドワーフ族だったかな。力持ちで鍛冶が得意な種族だそうな。首輪がついていないので市民権を得ている。
「お前さんは……買い物なら好きに持っていけ」
彼も無料どうこうについては知っているようだ。
「いえ、買い物より先にお願いしたことがあります」
無愛想な顔が一層歪んだ。
俺は深く頭を下げる。
「俺に『鍛冶』を教えてください」
無理だと思うが頼み込む。やらなければ可能性すらない。
「……他を当たれ」
「この街の鍛冶屋は全て回りました。この店の品が、最も質のいい装備でした。『鍛冶』を教わるならここがいいと思ったんです」
『鑑定』で見たが、同じ名前の武器なのに攻撃力の数値が違っていた。この店の装備が一番高かったのだ。
「『鑑定』持ちか」
彼は驚かなかった。
「はい」
素直に頷く。できる限り誠意を持って接していきたい。
「俺はドワーフだ」
「はい、見ればわかります」
「……人族の国家にいる他種族は訳あって他種族の国家にいられなくなった厄介者だ」
「深入りするつもりはありません。関わったらーみたいなのはこの街に長居しないので大丈夫です」
「この街にいても厄介者であることに変わりはない」
「品がいいのに客入りが少なそうなのでなんとなくわかってはいます。多忙でない方がお願いしやすいというのが正直なところです」
活気のない小さな路地に店があって、今もお客さんはいない。品は表の大通りにあった一番大きくて盛況な店より質がいいというのに。
彼は面倒な相手に目をつけられたとでも言いたげな顔をしていた。実際相手にとっては飛び入りの弟子なんて迷惑なモノだろう。
「少なくとも、他種族に対しての偏見はないようだ」
「はい。どちらかと言えば、自分が他種族に恨まれる立場ですけど」
「?」
彼は首を傾げていたのでピンと来なかったのだろう。俺が英雄であることは伏せられているらしい。
「厄介者同士というわけか」
「そんなところです」
俺にも事情があり、相手にも事情がある。
「……いいだろう。どうせ暇だからな」
「ありがとうございます」
俺は目いっぱい頭を下げた。
諦めて折れてくれただけだが、最高の結果だ。
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