身バレなんてゴメンだ
俺達は商業都市を治める商業ギルドのギルドマスター、チェンさんに連れられて彼の邸宅にやってきた。
流石商人の街の長。イベントホールに使えそうなくらい大きな豪邸だった。
「どうぞ、中へ」
豪邸に招き入れられる。飾ってある装飾品から絨毯からなにまで高級品っぽい。『鑑定』で見ていると獣王毛の玄関マットとか表示された。なんだよ獣王って。
逃げられなさそうなので大人しくついてきたが、果たしてどうなることやら。
そのまま応接室に通されて、奥にチェンさんが座る。メルエリザさんはその後ろに控えた。
新垣先生、俺、アマネの順で対面のソファに座る。ふっかふかすぎて身体がめっちゃ沈んだ。
「さて、早速ですがお三方は――英雄の方々でございますな?」
温和な笑みを変えず、彼は決定的なことを告げる。
アマネと新垣先生は身体がぴくりと反応してしまい、相手にとって確信に変わってしまう。あるいは確信があって問いかけてきたか?
俺はある程度覚悟していたから反応しなかったとはいえ。見つかった時点で詰みな気がする。
「……いえ、私達は」
新垣先生は誤魔化そうとするが、この人相手にそれは悪手な気がする。
ならどうしたら穏便に事を進められるか? 相手に気に入られて敵対しない方が利があると思わせる必要がある。この人は商人だ。彼にとって金、利益になる相手だと思わせなければならない。
賢い人にとってバカは扱いやすいが手を組みたいとは思わないだろう。つまり頭がいいフリをしなければならない。頭がいいと思わせるような発言はなにか。頭の回転が早そう、勘が鋭いなどがある。今この場においては、相手がなぜ俺達のことを英雄だと思ったか、その理由を当てることができればいい。
だがどうやった? 王都から情報が洩れていた、ことはないだろう。俺達は始末された身だ。ステータスを見たのか? いや、それはない。ステータスを見ていれば「英雄のお三方」とは言われない。先生のステータスは英雄とは程遠いだろう。つまりステータスは見ていないが、俺達三人を英雄だと思うようなことがあった。声をかけてきた時、俺達に最初から目をつけていたのではなく一目見て目を丸くしていた。それが演技だったらわからないが、あれは素だったと思う。なら目で見た時に発動するスキル――『鑑定』や『魔力眼』みたいなので俺達を計ったのだろう。
商人、目、ステータス以外。
思考を巡らせていると、一つの可能性に行き着いた。
「商人にとって大事なのは、目利き」
思いついた答えが間違っていたら恥ずかしいが、俺が考えつくのはこれくらいしかない。
突然の言葉に両側の二人が顔を向けてきた。チェンさんは表情を変えないままこちらを見ている。
「……人やモノの価値を視るスキル、ですか?」
俺はそんな彼の目を真っ直ぐに見据えて尋ねた。
思い返せばゴロツキへの賠償金請求時、やけに計算が早いなとは思った。商人だからだろうと思っていたが、商人だからと言って一々棚の値段まで覚えていないだろう。金銭的価値を視ることのできるスキルを使ったなら納得がいく。
「ほう……。ええ、その通りです。ワタシが持つスキル『資金眼』は人やモノの金銭価値を視ることのできるスキルです」
どうやら当たりだったようだ。なかなかやりますね、という雰囲気を感じる。第一印象は上手くいったというところか。高速で思考を回した甲斐があるというモノだ。
「アナタ方は随分と、お高い。国一番の凄腕と比較してもなんら遜色ありません。人族でそこまでの価値をお持ちなのは……この時期ですと英雄方が最も可能性が高いでしょうな」
俺は肯定しなかったのだが、確定したと見て続けている。間違ってはいないので否定はしない。肯定もできないが、それは察してくれるだろう。いや、謎を残すと調査されるか? 裏取りに動かれるのも面倒だが、どっちに転んでもか。
しかし新垣先生まで高値がついているとは。単純なステータスやスキルだけでなく、ステータスに載らない知識なんかも価値として換算されていそうだ。
「なるほど、慧眼です。ですが私達が身元を明かせない都合も汲み取っていただきたい」
英雄がどれほどの数召喚されたのか、おそらく知っているだろう。なら俺達が別行動をしている時点でなにか事情があることは察していたはずだ。
「ええ、ええ。そうでしょうな」
「あなたに国王側につかずにいてもらうためには相応の利益を渡す必要がある……橋の行き来を阻んでいるという問題でしょうか?」
「いやはや、話が早くて助かりますな」
嘗められないようにするにはそう振る舞わないといけない相手だからだよ。
「噂に聞いたのみです。実際にはどのような問題が起きているのですか?」
こちらの弱みを見せてしまった以上、相手の要望を聞き入れるしかない。圧倒的不利な状況だ。エルフ族のメルエリザさんを奴隷にしていないことから他種族共存の可能性も少し考えていたが、ここはダメだな。
相手の思惑から逃れる術を考えるより思惑に乗ってさっさと話を終わらせた方がいい。
「実は、橋を巨大な黒いドラゴンが占拠しておりましてな」
黒いドラゴンと来たか。ドラゴンと言えば最強モンスターであることが多い。
「タイミングと占拠している立地から魔族の手の者と推測されています。ドラゴンほど強力なモンスターが何者かに従うなど考えにくい。おそらく知能が高く魔族と交流があるドラゴンでしょうな。……雇った冒険者の一団が全滅しています」
チェンさんは眉を顰めた。人の死を悼んでいるわけではなく、金銭的損失を惜しんでいる気がするが。
「では私達に頼みたいこととは、そのドラゴンの討伐または撃退ということでしょうか」
「ええ。橋からドラゴンを退かしてさえくだされば」
ですよね。
「とはいえ、英雄の方々を脅迫して無理矢理お願いしようなどとは思っておりません」
チェンさんは温和な笑顔で言った。嘘を吐け~と言いたいが、こちらの利を提示してくれるのなら有り難く受け取るとしよう。
「私達がこの街に来たのは、情報が集まると思ったからです」
「情報、ですか」
「はい。世界情勢や基礎知識、この世界の基盤となる情報が欲しいのです。できれば、偏見のない平らな情報が」
「ほう」
俺の素直な要求に、彼は髭を撫でつけた。
「いいでしょう」
どう出るかと思ったが、彼はあっさりと承諾する。
「あの橋はこの街と前線を繋ぐ魔族との戦争においての生命線。その程度の対価でよろしければいくらでも用意いたしましょう」
俺の要求は基本的にこの世界の人にとっては既知の情報だと思う。貴重な情報じゃないから渡してもなんら損にはならないということか。
だが俺達にこれ以上の要求はない。これからの行動方針を決める上でも情報の入手は最優先だ。
「我々の要求を呑んでいただけるのであれば、橋の問題解決に臨むのも構いません」
「ふふ、こちらとしても良い商談となりました」
良い商談、ね。終始相手の思う壺だった気もするが。
まぁ全部してやられるよりはマシと思っておくか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます