栄養失調なんてゴメンだ
新垣先生の救出に成功した俺達は、とりあえず彼に水と食料を渡す。
心を落ち着けてから、事の顛末を話していく。
「ありがとう、錦城さん。それとそちらの方は……」
先生は本当に目が悪いらしい。俺の方を見ても俺だとわかっていない様子だ。
「神坂ですよ」
「あっ、神坂君か。ごめん、眼鏡がないと本当に見えなくて……」
「いいっすよ。仕方ないとはいえ、眼鏡置いてきちゃってるんで」
申し訳なさそうにしているが、こちらにも否はある。もっと早くに助け出すことも、表立って庇うこともできたのだから。
「それで、二人はどうして? ここは……あの城の中じゃないよね?」
「はい。私達はそれぞれこちらの世界に召喚した彼らのことを信用できず、離脱しようと考えて行動を起こしました。穏便な方法で、です。表立って反抗しても力の使い方を知る彼らに容易く制圧されてしまうでしょうし。……そのせいで先生のことを庇えなかったのは申し訳ありません」
「気にしないで。こうして助け出してくれたんだから」
「まぁ、そんなわけで無事離脱したはいいんですけど、殺されそうになったんでどうにか死んだフリをして解決。その後あいつらが先生のことをどうするかの計画を阻止するため、色々動いたってわけです」
「……なんかとんでもないことが聞こえた気がするけど、君達のことは言えない立場か」
「はい。モンスター化の薬を先生に使い、モンスターになった先生を生徒達に訓練として殺させる。惨たらしい計画です。私はその計画を書面で知ったので、どうにか自由に行動できる立場になってから対策をと思っていました」
「ただ俺達がその場に出て行って先生を救出するだけじゃ俺達が生きてることがバレる上に、先生がどこかで生きているから余計なことを漏らされる前に始末しなきゃ、なんて状況にもなりかねない。ってことで先生にも同じように死んだフリをしてもらおうっていう作戦を立てたわけです」
「立てたのはシンで私はなにもしてないけれど。まずシンの『錬金』でモンスター化の薬を作成。その効果をスキルで【反転】させてモンスター化の治療薬を作成。城に戻って先生には薬を打たれた後、誰も見ていない時に捕まえた本物のモンスターと入れ替わってもらう、というのが主な作戦です。治療薬で治してバレずに戻ってこれれば作戦完了というわけです」
「なんて言うか、凄いね二人共」
先生は話の全容を聞いて苦笑しきりだった。
「私だけ冷遇されててもうダメなのかなって思ってたけど、君達みたいな優しい子がクラスにいたことは、唯一の幸運かな」
「安心してください。嫌いな先生なら普通に見捨ててたんで」
「……うん、慰められてると思っておくよ」
先生がいい先生だから助けたかったということを伝えたかったのだが、微妙な顔をされてしまった。言葉の選び方を間違えたらしい。
「それで、これからのことですが」
「うん。君達二人に従うよ。戦う力もないし、一人じゃ行動できないからね」
先生は状況が状況だけに俺達に従ってくれるようだ。
「先生には、元の世界に戻る方法を見つけるまでの間、どこかに定住してもらおうと思います」
「……なるほど。戦力にならない私は足手纏いだし、折角手に入れた自由を私に縛られるようなモノだからね」
やや自嘲気味ではあったが大体読み取っていた。
「ぶっちゃけそんな感じです。というか先生はこっちでも教師なんで、旅とかするよりできることあると思いますよ。教育機関が充実してるか怪しいですし、そういうところで勉強を教えるとかどうかなって思ってるんですけど」
「でもこっちの世界の知識なんて全然ないし……」
「それはこれから勉強すればいいだけですよ。それに、こっちの世界の常識を教えるんじゃなくて、あっちの世界の知識を活かして教えられることの方が多いんじゃないですか? この世界、どうやら奴隷とか他種族差別とか前時代的なんで、それをどうにかしようとしてる人達にあっちの世界でどう改善していったかの知識や考え方を教えるのって大事じゃないですか?」
新垣先生の担当は社会の歴史、それも世界史だ。世界中の前例が頭に入っているだろう。
俺の言葉に先生は目を見開いて驚いていた。
「そうやって世界を変えていくのも面白いと思いません?」
俺にはできないが、教師である彼にならできるかもしれない手段だ。
「ははっ」
新垣先生はおそらくこの世界に来て初めて、朗らかに笑った。
「貴方、人を励ますのが上手いのね」
「ん?」
「いえ、なんでもないわ」
アマネに言われたが、なんのことだかさっぱりだ。
どれだけ詭弁を並べようとも先生という枷をどこかに置いておきたい気持ちに偽りはない。先生は嫌な目に遭ったばかりだし、この世界に留まること自体が苦痛だろう。だから少しでもこの世界で生きていくことに希望を見出して欲しい。
一石二鳥の打算的な考えだ。
「ありがとう、神坂君。もしかしたらそれが、私にとって彼らに対する最大の復讐になるかもしれないね」
そこまでは考えていなかった。精神状態がマシになったなら良かったか。
「あっ。そういえば、多分生徒だと思うんだけど、もう一人協力してくれそうな子がいるんだ」
先生は思い立ったのように言う。おや、ずっとハブられていた先生にそんな心当たりが?
「夜な夜な下着とか食べ物を持ってきてくれた子がいるはずなんだ。どうにか持ち堪えられていたのはそのおかげだし、誰かわかれば協力が……」
……。
眉を顰める。アマネがこちらを見てくる。それに気づいた先生がはっとする。
「もしかして、神坂君が? ……ありがとう。君のおかげでずっと救われていたよ。命の恩人でもあるし、頭が上がらないな。本当に優しいんだね」
新垣先生が心からの感謝を述べた。
「ふふ、なんでお礼を言われてるのに複雑そうな顔してるのよ。素直に受け取っておきなさい」
微妙な顔をしていたらアマネに笑われる。
なんで、正面から感謝されるとこんなに居心地悪いんだろうか。
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