英雄として利用されるなんてゴメンだ〜一芝居打って責務から逃げ出したら気の合う仲間が出来ました〜
砂城
第一章 英雄逃避行
異世界召喚なんてゴメンだ
何気ない日常。
ありきたりな学校風景。
休み時間のちょっとした喧騒。
いつもとなにも変わらないはずなのに、一変する。
教室の床に幾何学模様の光が現れた。
円状のそれを見て、どこか呆然と魔方陣みたいだなと思う。
そんな魔方陣みたいな模様から放たれる光によって視界が塗り潰されたかと思うと、一瞬の浮遊感があって立たされる。
戻った視界に映ったのは見慣れた教室ではなく、宮殿じみた大広間だった。学校の体育館の半分くらいの広さがあり、天井には華やかな装飾とシャンデリア。床は白くツルツルで大理石とかそんな感じだと思う。
クラスにいた全員がこの場に自分と同じように突っ立っている。バラバラに固まっていた人もいるのに整列していた。
明らかな異常事態だ。そもそも俺は椅子に座っていた。立ち上がるという意識もなく立っているのはおかしい。
誰も声を上げず呆然としている。
そんな俺達を見ている、高貴な身形の男性が二人と女性が一人。
その内の一人が手に持っていた杖を床に打ちつける。呆けていたクラスメイト達の意識が一斉にそちらを向いた。
杖を持つ男性は老人で髪はなく白い髭を長く蓄えている。鋭い眼光が老いを感じさせなかった。
「傾聴! 王の御前である」
有無を言わせぬ物言いだ。
王、というのは隣の金髪碧眼でカイゼル髭を生やした男性だろうか。冠や豪華な装飾品が位の高さを表しているようだ。
残る一人の女性、王の娘くらいの年齢に見える可憐な少女は姫だろうか? 金髪碧眼は同じだが。あどけなさを残しつつ日本人離れした美貌を兼ね備えている。優雅に微笑んでいて彼女に見惚れているヤツもいそうだった。
「異世界より訪れし英雄方よ。この世界は今、危機に瀕している。魔族と呼ばれる異種族が禁忌の術を用いて我ら人族を襲い脅かしているのだ。この世界において人智を超えた力を得たヤツらに対抗すべく、諸君らの力を借りたい」
ピンチだから助けてちょ、ということらしい。
異世界召喚モノではよくある展開だ。勇者だの魔王だの邪神だのという定番の単語は見当たらないが、言っていることはほぼ一緒だろう。
「ま、待ってください!」
だがそこで口を挟む者がいた。
クラスメイト四十人とは別の存在、クラス担任の新垣先生だ。
丸眼鏡をかけた物腰柔らかな男性で、落ち着いた雰囲気から女子人気も高い。
「彼らは皆子供です! 私達は戦いも知らない平和な国から来ました。あなた方の戦争に参加させるには、心得も覚悟も足りません。マゾクがどんな姿をしているかわかりませんが、私達は人を殺すことを法律で禁止された国から来たんですよ」
至極真っ当な意見だ。
こちら側にいる唯一の大人として、生徒達の身の安全を確保しようという気概が感じられる。
いいぞ、もっとやれ。
「あなたの言うことは理解できる。だが我々もこの世界の中で解決できないほど困窮した事態であることを理解いただきたい。なによりあなた方を呼び込んだ後魔族による妨害で異世界との繋がりが切れてしまった。これを解き帰るためには戦っていただく他ない」
老人が淡々と説明する。さっきの今で対応してくるか? とも思ったがそうでもしないと異世界から無限に人を召喚できる可能性が出てきてしまう。戦っている側からすればいい迷惑だ。
戦争で補給源から潰すのは最も合理的な戦略だしな。
「……帰れず、戦わなければ殺されるだけだから戦うしかないと……?」
「そうなる」
顔面蒼白な新垣先生の疑問に悪びれず頷く老人。
少なくとも相手に元の世界へ帰る方法を教える気がないので死にたくなかったら戦えるようになるしかないわけだ。
「なぜ諸君らが選ばれたのかについて伝えよう。諸君らは皆一騎当千の英雄となる素質を持っているのだ。そのように召喚条件を定めている。ステータスと念じてみるといい。諸君らの身体能力が数値化され所持している技能が確認できる。世界を跨いだ時素質に見合ったステータスになっているはずだ。この世界の人族はレベル五十で平均値が五十。今の魔族は千以上と言ったところか。諸君らであれば、そうだな。レベル一で百ほどになるだろうか」
老人の言葉を聞いて早速念じた人もちらほら。
目の前に半透明なウインドウが表示されていた。ステータスと言いレベルと言いゲームみたいな世界だな。
書いてある内容もざっくり読めるので他人にも見えてしまうらしい。
「加えて異世界から訪れた者は、子供から大人になる過程で成長補正がかかる。成長補正込みで一、二年を見込んだ場合諸君らほどの年齢が最も強くなりやすいのだ」
補正マシマシ油カラメだな。
言葉が通じるのも補正の一つなんだろう。
英雄。強くなりやすい。ゲーム感覚になりやすい世界観。
混乱と困惑と不安の中にいたクラスメイト達が、次第に高揚していくのが見て取れた。
異世界召喚モノのネット小説をよく読むが、まぁ大抵の場合碌なことにならない。
だから異世界召喚モノを読む時は他人事として読む。もし現実にあったら、なんて想像したことはなかった。平和にのんびり暮らしたい。
だから異世界召喚なんてゴメンだが、召喚されてしまったモノは仕方がない。
しかし戦争なんてゴメンだ。
しかもなーんかきな臭いんだよな。
子供達を召喚しておいて、一人だけ召喚条件にそぐわない先生が混じっているのが特に。
ってことでまぁ、一芝居打って英雄集団から脱退するとしますかね。
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