本の物語

@871967

本を焼く者は、やがて人をも焼く。

日本語訳(文学調)

海のような後悔に身を投じ、果てしない孤独に沈んでいく――それが、運命の過ちだった。

どうして、こんなにも盲目だったのだろう。

泳げないことなど、ずっと前から分かっていたのに。

それでも飛び込んでしまった。自らを悲しみの水底に沈めながら。

手の中には一冊の本。

表紙はまばゆく光り、目を細めるほど輝いている。

整った背表紙に、ゆっくりと指を這わせる。

その指は青白く、細く、本の美しさとは正反対だ。

ページの香りは、どこか温かく、懐かしい。

心臓が早鐘のように鳴り、指先が震え出す。

本を見るのは、いったい何年ぶりだろう――。


「なんでそんなに本を読むの? 今どき読む人なんている? 退屈すぎて死んじゃうよ!」

姉がうるさそうに笑いながら、私の頭上に立っている。

「退屈なんかじゃない! だって、読まない人は一つの人生しか生きられないけど、読む人は――何百もの人生を生きられるんだ!」

私は眉をひそめ、本に視線を戻す。

姉は本をひったくり、雑にページをめくる(しおりまで落ちてしまった)。

どうやら私の真似をしているつもりらしい。

「お〜ほほ、私はとっても賢いのよ〜! 本なんか読んじゃって! あなたたちは愚かね〜!」

得意げな顔で言い放つ。

「そんな言い方してない! それに、本を返して! 今、いちばん面白いところなんだから!」

思わず声を荒げる。読書を邪魔されるのが、何より嫌いだった。


孤独。

昼も夜も、絶え間なく私を飲み込む無限の孤独。

それを振り払おうとすらしなかった。

孤独は体に染み込み、壊れやすい心の一部になっていった。

読書に夢中になったのは、まだ幼いころ。

世界が色鮮やかに輝いていた時代。

本の表紙を撫で、棚に並べるのが好きだった。

悲しいときには、他人の幻想が詰まった魔法の世界へ沈み込んだ。

それはなんて素晴らしい時間だっただろう。

だから、誰も私と話したがらなかったのかもしれない。

でも、私はそれでよかった。

本の厚いページの中に慰めを見出していたから。

窓辺でお茶を飲みながら過ごす夕暮れの匂いが、そこにはあった。

友人たちは、すぐにうんざりしてしまった。

私がいつも本の話ばかりするからだ。

「もういい加減にして! 本の話しかできないの? 飽きた!」

サーシャが眉をしかめ、怒鳴った。

「ごめん……そんなに興味ないとは思わなかった。じゃあ、何を話そうか?」

おそるおそる問いかける。

「話すことなんてないよ! 本のこと以外、何も知らないじゃないか!」

そう叫ぶと、サーシャは私を突き飛ばし、何事もなかったように走り去った。臆病者。

そのとき、気づき始めた。

私の情熱を共有してくれる人はいないのだと。

本の話をすれば怒られる――なら、もう話さないようにしよう。

そう思っていた。だが、だめだった。

読書は、私の生きる意味そのものだったから。

それを隠して生きることなど、できなかった。

だから、新しい人間関係を築く努力も、やめた。

子供の頃、夢見ていた。

たくさんの本が眠る大きな城に住みたいと。

どんな本でも、全部! 何日も何日も読んでいたい。

退屈なんて感じない。

読書さえあれば、私は自由でいられた。

誰にも邪魔されず、「退屈だ」なんて言われることもなく。

けれど、その城の鍵だけは、手に入らなかった。

孤独。

悲しみは体に張りつき、傷だらけの心の一部となった。

救ってくれたのは――ただ、本だけだった。


本を焼くところでは、やがて人も焼かれる。

あの頃のことを、私はよく覚えていない。

記憶の中にあるのは、誰かの笑顔の断片と、自分の苦い涙の海。

まさか人類が、本という最も尊く確かなものを破壊する日を迎えるとは。

数年前までは、どの教科書にも「本は人の親友」と書かれていた。

それなのに今、鮮やかな紙が炎に飲まれていく。

人々は自らの信念を裏切ったのだ。

なぜ、こうなってしまったのか。

人々は怠惰になり、読書は「当然のこと」ではなく、「誇るべき特別な行為」になった。

「俺は本を読むんだ、すごいだろ?」――そんな時代になってしまった。

ドラマを見たり、映画を観たり、短い動画を延々と流す方が楽だったのだ。

本を読むことは、もう「意味のないこと」になってしまった。

周りが誰も読まなくなったとき、私はいつも怒りを感じていた。

誰かと語り合いたかった。

読んだばかりの物語を共有したかった。

けれど、皆にとってそれは「退屈」で「面倒」なことだった。

本が燃えていた。

どうして、いつから、なぜ――何も覚えていない。

ただ、あの炎を見て、人々が笑っていたことだけは覚えている。

泣いていたのは、私ひとりだけだった。

出版社は次々に閉鎖され、本は棚から完全に消えた。

私の人生は、根本から変わってしまった。

以前は――本だけが、私を恐怖の泥沼から救ってくれたのに。

今はもう、それすらない。

そして、もう二度と戻らない。


信じられない……本だ。本だ、本だ! 本物の本だ!

本当に、実在している!

顔に笑みがあふれる。

こんな喜びを感じたのは、いつ以来だろう。

表紙に額を押し当て、涙があふれる。

止まらない涙。唇を噛みしめながら、現実を疑う。

頬を伝う雫の温かさに、ただ泣いた。

永遠にここにいたい――この本とともに。

もう昔の私ではない。

孤独はいまだ胸を蝕むが、生きることは、少しだけ楽になった。

泣くことはやめた。でも、笑うこともなくなった。

それでも――それでも、こんなにも愛しいものを目にして、私は再び泣いた。

本。本。本。

――これこそが、私の幸せ。

もう二度と、取り戻せない幸福。




この短い物語を読んでくださり、ありがとうございます!まもなく新しい作品を公開します。最新情報は私のインスタグラムアカウントでご覧いただけます。@honey_lecksor.

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