28 訃音


 どこか遠くで電話が鳴っている。きっと良くない電話だ、とあなたは思う。ベルがひとしきり鳴り続けた後、はたと止まり、ようやく諦めたかと思ったのもつかの間、すぐにまた鳴り始めたからだ。あなたの経験上、こういう鳴り方をする電話は決まって悪い電話だ。ほんの数秒で掛けなおさなくてはいけないくらい怒っているか、焦っているか、急いでいる。そういう電話は誰も取りたがらない。だから思うに、電話のそばにいるやつは電話を取る暇もないくらい忙しくしているか、鳴っているが無視を決め込んでいるか、そもそも最初から電話のそばにいるやつなんて存在していないというのが落ちで、一番最後が正解であるのをあなたは知っている。もっと言えば、電話のベルそのものが幻聴であると、あなたは疑っている。

 聞こえるはずがないのだ、砂漠の真ん中で、公衆電話のベルなんて。

 あなたは砂漠にいる。ここにはあなたを煩わせる階段はない。扉も壁も回廊もない。ただ砂だけがある。電話などあるはずがない。だがあなたは鳴っているのが公衆電話だとなぜか確信している。その公衆電話は、砂のやわらかさゆえに沈んで傾いた電話ボックスに設置されていて、乾燥した空気の中で何者かを呼び続けている。ここには呼ばれるべき何者かはいない。だからそれはとりもなおさずあなたへの電話で、あなた以外にその電話を取るべき人間はここにいない。

 あなたは無視して歩みを続けた。飢えと渇きはもう百時間以上も続いているようでいて、いっこうにあなたを解放しようとしない。この期に及んでも身体はまだ精神を差し置いて生を望んでいて、身体の願いばかりが優先されている。だから身体が拾う音は偽物で、見せようとするものは幻だ。手にした生首が口をきいているときでさえ、あなたはそれを幻聴だと断じたのだ。砂漠の公衆電話はなおもあなたの気を引きたがっている。だがたとえそれが自分の死を知らせる電話だとしてもあなたは取らない。あなたの意志はあなたを救わないかもしれないが、少なくともあなたは意志をもって、それを貫くことが許されている。

 そのときふと頭上から声がした。あなたは声だと感じ取ったが、一方であなたは雷だと思った。快晴で雲ひとつない上空に、走る稲光は太陽にまじってほとんど見えず、だがそれはたしかにあなたの目の中に存在して、次の瞬間に。

 空から降るたらい一杯分の水があなたを打ち付けた。



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