第四話『PM4:30』

 ……そういえば洗濯物は取り込んだったっけか?確かドラム式洗濯機に衣類を入れたのは覚えている。



 この時期のこの国は天候が不安定だからな……確か部屋干しにしていたはずだ。それを乾かすための暖房……。



 ……暖房?



 ……ちゃんと電源切って来たよな……いかんいかん。仕事は早々に片付けたが、デートプランを立てるのに時間を割いたからな……。徹夜も少なくなかった。



 ……何だか無駄に不安になって来たな……そもそも自宅の鍵は掛けたっけか?それすらも分からない。どれだけ周りをおろそかにしているんだ、僕ときたら。



 あ、今日はネットで頼んだPCパーツも届くのか。



 ……。



 家の鍵を掛けていない→宅配便が置き配で届けに来る→鍵が掛かってないことに気付く→宅配便のドライバーが自宅に侵入する→GAME OVER.



 いやいやいやいや。これはあくまでも自宅の鍵を掛け忘れた場合だ。僕はちゃんと施錠したはずだ。がちゃん。がちゃんと。うん。ちゃんと鍵掛けた。そこまで精神、逝ってないはずだ。



 ロレンスよ。お前はやれば出来る男だろう?いかに神経すり減らしていたとはいえ、この程度のマイナス妄想にやられたりはしないよな?



 そうだよそうだよ。ナタリーさんが来るまでの間を持て余しているだけだ。ここはまだ戦場の国境線にすら足をかけていないじゃないか……ナタリーさんが……来るまで……。



 …………………………………………。



 ……ナタリーさん……本当に来るんだよな?



 うわわわわ!!僕の馬鹿!!ちょっとでもナタリーさんを疑うなんて!!女神様に反旗をひるがえすような真似を!!コンニャロ、コンニャロ!!何故、彼女を信じない!!あー、僕としたことが!!



 今日の日を迎える三日前から寝不足だったからな……。世の恋人たちはこんな高難度ミッションをクリアしてきたのか……。ナタリーさん……今日も仕事があるって言ってたな。



 ……だったら僕も手伝えばよかったんじゃないか?



 いやいやいやいや。それではロマンチックな待ち合わせの効果が無くなってしまうな。待つ男は黙って待てばいいのだ。とにかくナタリーさんを信じるんだ。



 でも……手伝わないなんて薄情と思われてるかな。編集部の皆も今頃、頑張ってるだろうし……。



 何だか心配になってきたな……。同じ釜の飯を食う仲とか言って皆、一致団結してその足で飲みに行ったり……。十分あり得るな……。むしろ、そうあるべきか?



 そうなると、その場にいない僕は完全に除け者?



 年明けの編集部では僕だけ壁が出来ていて、要る場所がなくなって……自主退社?



 ……うわわわわ……そうなったらどうしよう……。



「RRRRRRRR……」



 うおぅ!!ビックリしたぁ!!何だスマホか。えーと、エンゲルか。後輩だ。僕は勝手にオドオドしながら電話に出た。



「も、もしもし?」

「あ、ロレンスさん。よかったー、捕まった。あのですね西地区のマップあるじゃないですか」



 どうやら仕事の話のようだ。どうやら資料不備があったらしく確認を取りたいらしい。僕は仕事においてはそこそこ記憶力は良い方で、今回のトラブルも難なく片付けることが出来た。



「さっすが『第二編集部のエース』助かりましたよ」

「あ、あのさ。ナタリーさんどうしてる?いや、深い意味は無いんだけどさ」



 僕は嘘をついた。この質問には深い意味しかない。



「編集は追い込みに入ってます。ナタリーさんもあと少しで仕事上がりますよ。じゃあデート頑張ってくださいね」



 よ、良かったー。何もしてないのにどっと疲れた。ん?



「ちょっと待て。何でデートの事知ってんだ?僕は誰にも言ってないのに……」

「いやいや。みんな知ってますよ。気配駄々洩れだったから。吉報、待ってますね。じゃあ良いお年を!!ははははは」



 エンゲルの野郎……仕事始め覚悟しとけよ、にゃろうめが。

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