異世界BANKERパウエル 金貨を廃止したら、最強の金融チートになりました。元FRB議長、中央銀行総裁となり、異世界の王権と戦争を経済理論で叩き潰す

あたしちゃんと俺君執筆委員会

第0話 歯牙ない銀行家?

意識が浮上する。激務の末の任期満了。新任の議長のほうがクローズアップされた、静かな最期。


だが今、彼――パウエルを包んでいるのは、ハイヤーのエアコンと花束の香気ではなく、嗅いだことのない甘い香と、石の冷気だった。


目を開けると、そこは眩い光に満ちた石造りの広間だった。

床には、理解を超えた複雑な幾何学模様が、それ自体淡い光を放っている。

周囲には、豪華なローブをまとった老人たちが、驚きと期待の入り混じった目で自分を見つめていた。


「おお…! 成功だ!」


「なんと若々しいお姿だ!」


その声に、パウエルは自らの手を見た。 かつてはシミとシワに覆われていたはずの手が、信じられないほど張りを取り戻している。

顔に手をやれば、深いほうれい線も、目の下のたるみも消えていた。

魔法とやらで、意図せず「若返っている」らしい。


(どういうことだ? 死後の世界か? にしては、この床の魔方陣は趣味が悪い)


混乱する頭で状況を分析しようとした瞬間、ローブの集団の中心にいた、ひときわ立派な冠を戴いた老人が、震える声で進み出た。


「よくぞお応えくださいました、異界の賢者よ!」


老人は、パウエルの前で深くこうべを垂れた。

「我らは、古(いにしえ)の召喚の儀を用い、この破綻寸前の王国を救う『異能』を持つ御方をお呼びしておりました」


「異能…?」

パウエルは自らの内側を探った。

魔力が湧き上がる感覚も、聖なる光を感じることもない。

ただ、今までに培った知識と、数十年にわたる金融政策の記憶だけが、この若返った肉体の中に、鮮明に存在している。


老国王は、パウエルの沈黙を肯定と受け取ったのか、顔を上げて続けた。


「書によれば、貴方様は『金(きん)の魔術師』。富を自在に操り、無から価値を生み出すと…! どうか、そのお力で我が国をお救いくだされ!」


(金(きん)の魔術師?)

パウエルは、その言葉を反芻(はんすう)した。

「金(Gold)」か、あるいは「金(Money)」か。

どちらにせよ、彼らが期待するような、物理的に黄金を生み出す魔術師ではない。


パウエルは、若返った喉(のど)を確かめるように一つ咳払いをし、幾度となく繰り返した、冷静で、市場を落ち着かせるための、あの静かな口調で答えた。


「恐れながら、陛下。私は魔術師ではございません」


「な、なんと…では、召喚は失敗したと…?」


国王の顔が絶望に染まる。


「いいえ」


パウエルは続けた。

「私は、ご期待の『金(きん)』を物理的に生み出すことはできません。ですが、『価値』を管理することはできます」


彼は、集まった王侯貴族たちを見渡し、自らの「異能」を、ただ一つの言葉で定義した。


「私は、しがない『バンカー』…ただの銀行家です」



・本作は、実在の人物、団体、出来事などに着想を得た パロディ作品 であり、完全なフィクション です。

・登場する人物や団体は、モデルとした実在の人物・団体とは一切関係がなく、その思想、信条、あるいは事実関係を反映するものではありません。

・特定の個人や団体を誹謗中傷する意図は一切ございません。

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