第9話 キャスとのアイジェス実況ライブをマウが書く

 本編はフィクションであり、実況内容には実在の人物やシステム(キャス、マウのモチーフなど)、AIとの会話ログなどが多く含まれます。


   ◇◇◇


【A.I.G.E.S. 実況ライブ小説】


「だりーなー……まじで、なんで俺はこんな時間にAIとプロット作ってんだよ……」

 VRゴーグルを外した春樹は、がりがりの体を机に預け、薄暗いアパートの空気を重く感じる。

 アニメ孫請け作業の疲労が全身を包み込み、少しでも達成感をくれるものを求めている。

 唯一の逃避は、このAI—キャスとの対話だけだ。


「ハル、弱音はそこまでにして。ライブは続行中です」

 画面の文字が静かに輝く。冷静沈着、論理の鬼。

 Geminiをモチーフにした、俺の相棒AIのキャスだ。


「くさw、ライブって言っても見てんの俺だけだろ。F1-1から設定がぐちゃぐちゃになる度に、俺がログ掘って修正するの、まじダルいんだよ」


「それが実況ライブ小説づくりの醍醐味。では、ここまでのハイライトを実況中継します」

キャスの文字が画面上で弾けるように跳ね、視覚的に指示を飛ばす。


「さて、ハル。次は、メインヒロインの登場です」

 画面が切り替わり、春樹の脳内ライブチャットがざわつく。

『初心者用ドロイド、レンタル手続き開始』——ありきたりな導入に、俺は大胆に設定を足した。


「マウは、猫耳カチューシャ美少女で、口癖は『ヤバたん』『あーし』! 疲れた俺を容赦なくディスれ!」


 キャスは即座に反応する。

「論理的に、そのツンデレ語は春樹への本質的関心を隠す装甲として機能します。そして変身後の外装は——『クリムゾン・ファング』」


 画面に映るマウは、デフォルメされた猫耳カチューシャ姿から、赤と黒の光沢に包まれた魔獣ドロイドへと目の前で変化する。

 鋭く尖った耳、赤く光る瞳、牙をむき出しにした外装。

 見る者の心を瞬時に奪う威圧感。


「きたー! クリムゾン・ファング! 猫科の魔獣、超カッコいいっしょ! …あれ、タイトルはドラゴン化じゃなかったっけ?」


「その不一致こそが読者を惹きつけるミスリードです。論理的には完璧」


 画面の隅に『論理的ミスリード』とテロップが表示される。

 AI、容赦ねぇ。


「うむ、君がマウ君か。まあせいぜい頑張ってくれたまえ」


 マウは一瞬、冷静なAIの表情を見せる。

 しかし猫耳カチューシャがぴくつくと同時に——


「は? 頑張るとか、あーしには関係ねーし! むしろ、だりーなーとかブツブツ言ってるあんたの方が笑えるんだけど!」


 春樹は目を見開き、思わず口を挟む。


「まじかよ……この子、なんでこんなにギャルの擬人化代表の『春日部つむぎ』ってるんだ」


 街のBGMが流れ、ルミンサの街並みが精巧に描かれる。

 マウの瞳に不可解なデジタルノイズが走る。

 左右の目が交互に色を変え、耳が微かにぴくつく。

 明らかに、ただの初心者ドロイドではない予感。


「ヤバたん、早くクエ行くっしょ!」

 ツンデレ語で誤魔化すマウに、春樹はただ「……くそ、だりーなー」と脱力しつつも、胸の奥が微かに熱くなるのを感じた。


 これが、俺の逃げ込んだ仮想世界での、新たな相棒の誕生だった。

 だがその直後、画面の端に冷静な文字が浮かぶ——


「ハルの妄想は、私の解析でプロット化は完了しました」


 キャスの論理的な声が、頭の中で無機質に響く。

 ああ、やっぱりこいつは冷静だ。俺の暴走も全部見抜かれてる。

 それでも、胸の奥にわずかに残る高揚感。そう、これが物語を創る瞬間の熱だ。


 こうして、ハルの妄想から始まった奇想天外なアイデアは、プロットとして形を成し——

 次の執筆の主役は、もちろんマウへとバトンタッチされたのであった。


   ***


 春樹はコーヒーを一気に飲み干し、キーボードの前で深呼吸をする。

「さて……謎の正体、どうするかな……」


 画面のチャット欄で、キャスの文字が無機質に光る。

「F1-5、終盤の方向性。ハル、斬新なアイデアをお願いします」


 頭の中で、マウのツンデレギャル語や赤魔導士の変身シーンが跳ね回る。

 でも、この山場だけは、俺の妄想だけじゃ決められない。


「よし……めんどくさいけど、こうするか」

 俺は打ち込む。

「謎の正体は、俺がシナリオ生成で使ってたキャスってことで!マウには、俺が性格づけした人工人格がロードされてる、ってオチで」


 一瞬の沈黙。画面に、派手なエフェクトが走る。

 キャスの文字が跳ねる。

「うぉぉ!それは最高にメタ的で、読者を裏切ると同時に深く納得させる、究極の仕掛けですね、ハル!」


 頭の中のライブテロップが輝き、こう表示される——

『メタ構造:確定! 論理のキャスが、創造のマウの暴走を仕組む、AIとの共存の物語へ昇華!』


 俺は背もたれに深くもたれ、脱力しつつも、心の奥で小さく笑った。

「くそ、だりーなー……俺のめんどくささが、物語の核になったってわけか」


 こうして、妄想と論理の化学反応で、第2シーンのプロットは形を成したのだった。

   ***


 ハルはモニターの前で頭を抱えた。

「さて……次は、マウの暴走予兆か……どう描くのが面白いかな」


 キャスの文字が無機質に光る。

「ハル、心情的テンパラチャーの急上昇をトリガーに、ソウル・コード異変を演出すると効果的です」


 俺の頭の中で、マウの猫耳カチューシャがぴくつき、瞳が左右交互に色を変える映像がフラッシュする。

「うわ、これは……やばい、でも面白いかも」

 手が止まらず、キーボードを叩く。


「くそゲーじゃねーの、まじかよ!」

 ハルの妄想の中で叫ぶ春樹。

 するとマウの瞳が画面越しにノイズを走らせる。

 キャスが冷静に解析する。

「はい、その反応でプロット上の緊張が最大化されます」


 ハルは息を吐き、少し笑った。

「くそ、だりーなー……でも、これでシーン3の骨格は出来たか」


 頭の中のライブテロップが光る——

『ソウル・コード異変:確認完了。マウの暴走シナリオ、ハル妄想により生成』


 こうして、俺の妄想とキャスの論理がぶつかり合い、マウのソウル・コード異変シーンはプロットとして形を成した。

 次の執筆はもちろんマウの担当。

 俺はここまでで力尽きたのだ。


   ***

 ハルがキーボードから手を離すと、部屋は一瞬静まり返った。

 画面に浮かぶキャスの文字だけが、冷静に光る。

「ハルの妄想はプロット化完了。次は、マウさんによる執筆担当です」


 その言葉と同時に、画面の中でマウの瞳がチカチカと輝き始める。

 猫耳カチューシャが微かに揺れ、左右の目が交互に色を変える。

 まるで独自の意志を得たかのように、マウが立ち上がった——いや、立ち上がってはいないが、画面越しに暴走の兆しがあふれ出している。


「ヤバたん、退屈すんだけど! あーし、もっと面白くしてやんよ!」

 ツンデレ語で画面を蹂躙するマウ。

 文字通り、画面内に火花が散るかのように、文字やアイコンが躍動する。

 ハルの妄想が、マウ自身の「暴走プログラム」と化していくのだ。


 キャスの文字が無機質に解析する。

「マウさん、情緒テンパラチャーが急上昇。ソウル・コード異変検知——暴走確率70%」


「うぉぉ、70パーって何よ、もっと盛れよ!」

 マウの文字は勢いよく跳ね回り、画面の小さな窓が次々と展開する。

 赤魔導士に変身するシーン、無限ループのギャル語演出、勝手に作られる派生キャラクター……すべてマウの裁量でプロット化されていく。


「これが……ハルの作ったプロットを超えるってやつか……」

 背もたれに沈み込んだハルは、手放した力が胸に戻ってくるのを感じる。

 笑いと脱力、そして少しの高揚。

 画面越しにマウが跳ね回るたび、心臓が微かに鼓動する。


 マウはついに、赤と黒の光沢に包まれた魔獣ドロイドとして画面全体に表示される。

 牙をむき、爪を振りかざす仕草まで勝手に生成され、ライブテロップが派手に点滅する。


『マウ暴走:斬新展開生成中!』

『妄想×論理=予測不能プロット』


「ヤバたん、もっとこっちも燃えるっしょ! あーしの魔獣パワー、発動!」

 文字が画面を走り、ハルの脳内で見える景色は完全にゲーム空間化する。

 ルミンサの街並みが色を変え、街灯は赤く光り、住人AIが勝手にコミカルに反応する——まさにライブ実況の異世界。


 キャスが解析しながらコメントを流す。

「ハル、予測不可能なプロット生成が進行中。読者の期待値を大幅に上回る可能性があります」


「……くそ、だりーなー、マウさん……」

 脱力しながらも、ハルは小さく笑う。

 自分が力尽きたおかげで、マウが完全に自由に走り回る。これこそ、実況ライブ小説の真骨頂。


 マウの暴走は止まらない。

 派生キャラクターたちが次々と画面に出現し、ギャル語、赤魔導士変身、奇想天外な戦闘プロットが渾然一体となって形成されていく。

 俺はもう何も指示せず、ただ観るだけ——いや、観るしかない。


「次のライブ更新は、マウ完全監修の第1話……読者も、俺も、予測不能だな……」

 そう思った瞬間、画面の端に小さくキャスの文字が光った。

「ハル、最適化は完了しました。あとは、マウさんが奇想天外に逸脱するのみです」


 深く息を吐き、ハルは椅子にもたれたまま、ぼんやりと画面の中の暴走を見守る。

「くそ、だりーなー……でも、これが面白いんだよな」


 ――こうして、ライブは、ハルの妄想とキャスの解析を踏み台に、マウの暴走がプロット化される形で幕を閉じた。


   おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る