寂しがり屋の神様と捨てられた子
暇那
第1話
むかしむかし、この王国にはとても優しいドラゴンがいました。
ドラゴンは人々のためにたくさんのことをしました。
水が干上がれば魔法で雨を降らしました。
人々が外のものから襲われても一人の犠牲も許さず争いを終わらせました。
時々聞かせてくれる歌は人々の心を落ち着かせました。
作物が不作の年は人々のために寝る間を惜しんで解決しようとしました。
ドラゴンは人々に神様だと崇められました。
不思議と、嫌な気持ちはしませんでした。
それほどまでに人々の役に立てたことが嬉しかったのです。
いつしか、人々は環境を自分たちで整えることができるようになりました。
蛇口をひねれば水が出ます、ドラゴンに雨を呼んでもらう必要がなくなってしまいました。
他の国の者たちを対等に関わりを持つようになり、多少の飢餓も人間たちだけで解決できてしまうのです。
人々は次第にドラゴンに感謝しなくなりました。
それどころか、ドラゴンを忘れていったのです。
ドラゴンは悲しくなりました。
人間といっしょに笑顔でいるのが、ドラゴンにとって一番の幸せだったのです。
人々から忘れかけられた頃、一人の人間が言い出しました。
「ドラゴンの肉を食うとどんな病気も治るし不老不死になる」
と。
ドラゴンはどんな形であっても尚人々の役に立てることを喜びました。
自身の肉を人間に与えました。
人間は喜びました。
ドラゴンは嬉しくなりました。
なんどもなんども、なんどでも。ドラゴンは自身の肉を与えました。
人間たちが不老不死になることはありませんでした。
病気は少し緩和されたようにも見えましたが…信じて食べ続けた人間たちは徐々に皮膚に鱗が生えていき、やがて「人間ではないなにか」に変貌し、やがて死んでしまいました。
人間たちはドラゴンを責め立てました。言い出した人間を探して責めようとする人間は、誰ひとりいませんでした。
人間はドラゴンを嘘つきだと罵り、罵倒しました。ドラゴンがなにを言っても人間は逆上してしまうだけ。ドラゴンはこまってしまいました。
さて、ドラゴンは人間が大好きです。
だから人々の役に立ちたいと、みんなに喜ばれると信じて来たのです。魔力を使いすぎて辛くなっても、眠れなくても、自らの尾を切り落とす瞬間でさえ人間を恨んだことなどただの一度もありませんでした。
ここで問題があります。
ドラゴンには、人間の気持ちがわかりませんでした。
人が死ぬと誰かが悲しむので嫌だなーという程度の倫理観しか持ち合わせていなかったドラゴンに、家族を亡くした人間の気持ちはわかりません。
さらに悲しいことにドラゴンは人間よりもずっと上位種であったのです。
人間たちに神様と称されたこともあったほどですから。
優しいドラゴンは、人々の顔が好きだからいままでの行為を行いました。
好意をもって、善意でやっていたのです。
避難される理由がわかりません。
石を投げる人間たちを、呆然と眺めることしかできませんでした。
ドラゴンが動かないのをいいことにどんどんそれらは悪化していきます。ナイフや剣、銃を持ち出した者もいました。
ドラゴンはつよいので攻撃は効きません。
すこしして、誰かが放った銃弾の一発がドラゴンの喉元に触れました。
喉元にある、一枚だけの逆さまの鱗に。
ドラゴンは、初めて人間を襲いました。
ぐらぐら煮えたぎる気持ちのまま、暴れ狂いました。
火を吹き、魔法を放ち、尾を振りかざし、唸り、鋭い爪がたくさんのものを引き裂きました。
暴れて、暴れて、暴れたあと。
壊すものがなくなった、王国がなくなったその場所を見てようやくドラゴンははっと正気に戻りました。
瓦礫と、血と、肉塊、燃え続ける炎。
火薬と、何かが燃える不愉快な匂い。
ドラゴンは驚きました。
そしてそのあと、静かに泣きました。
無くなってしまった王国の跡で、ドラゴンは枯れてしまうほど泣きました。
どんな形であれ、どんな気持ちであれ、どんな存在であったとしても。
ドラゴンはただ、笑顔でみんなと一緒にいたかっただけなのでした。
ドラゴンは、亡き王国の跡にそれはそれは立派なお城を建てました。ここでなら、いなくなってしまった彼らが帰ってきてもみんなで幸せに暮らせるでしょう。
ドラゴンは嬉しくなりました。
自分が入れるほど大きな大きなお城のロビーでドラゴンはみんなにカミサマとお称えられ、楽しく過ごす夢を見ているのです。
いつかきっとまた、あの日のように。
みんなを笑って過ごすことを夢に見てドラゴンは今もただ一人、誰もいないお城で眠るのでした。
寂しがり屋の神様と捨てられた子 暇那 @himana-23
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