第9話 収納
どつき殺してやる。そんな思いを胸に秘めているような怒りの形相を浮かべ、
その様子をしっかりと伺い、鈴鹿は軽く横に跳んで回避する。1回目は思わず転がってしまったが、7回戦目ともなれば余裕が出てくる。
だが、横に跳ぶことを読んでいたかのように、
「オラッ!!」
突進のタイミングに合わせ、バットを酩酊羊の顔めがけて横に振りぬく。
ガイィンと甲高い音が響いた。鈴鹿の攻撃は酩酊羊の横顔を護る角に防がれてしまった様だ。しかし、防いだからといっても威力は殺しきれない。酩酊羊は横からの攻撃にバランスを崩し、鈴鹿の横を盛大に転がってゆく。
チャンスとばかりに転がった酩酊羊にとどめを刺しに行きたいが、1匹目の酩酊羊が反転し襲い掛かってくるのが見えた。とどめを刺したいものの二匹目はすぐに復帰してこれないため、先にこちらを倒すことに集中する。鈴鹿は突進攻撃をバックステップで避け、通り過ぎる酩酊羊に全力でケツバットをお見舞いした。
レベルが2に上がったことで攻撃の値が2倍以上に上がったからか、バットで殴られた箇所の肉は潰れ骨まで折ることができた。酩酊羊は方向転換しようにもうまくいかず、生まれたての小鹿のように後ろ足をビクつかせうまく歩けていない。その背に向かって、鈴鹿はバットを振り下ろす。今度は背骨を砕いた手ごたえを感じた直後、酩酊羊は黒い煙となって鈴鹿へ吸い込まれていった。
しかし、今度は大ぶりの攻撃を放った鈴鹿が無防備な背中をさらしてしまう。起き上がった二匹目の酩酊羊が、敵討ちだと言わんばかりに荒ぶりながら突っ込んできた。
「くそっ!!」
背中からの攻撃に上手く対処できないと判断し、鈴鹿は横に転がることで何とか攻撃を回避することに成功した。しかし、酩酊羊もそのチャンスを見逃さない。転んだままの鈴鹿の顔に向かって再度突撃を繰り出す。
鈴鹿は立ち上がることはできなかったが、何とか上半身を起こし膝立ちの状態まで持って行けた。慌てながらも、バットを横に構え、酩酊羊の突撃を真っ向から受け止める。
「くっ!」
酩酊羊も十分に助走ができていない攻撃のため、ぶつかった衝撃は何とか抑えることができた。横に長い瞳孔を持つ酩酊羊と、至近距離で睨みあう。モンスターとしての能力値と、レベルアップによるステータス上昇の恩恵を受けた鈴鹿。力の強さは鈴鹿に軍配が上がった。
「うぉぉぉおおお!!!」
膂力を振り絞り、酩酊羊を横に押しつぶすように横転させる。酩酊羊が立ち上がるよりも、鈴鹿が立ち上がるほうが早かった。
起き上がり様の顔めがけ、バットを振り下ろす。脳天をかち割るその攻撃は、酩酊羊の体力を吹き飛ばすには十分な威力であったことを、黒い煙となった姿が教えてくれた。その煙が鈴鹿の身体に吸い込まれると、ステータスが上昇した感覚を受ける。
「やっとレベル上がったか!」
レベル2になってから、合計7体目の酩酊羊を討伐して、ようやくレベルが上がったようだ。レベル2になったことと初戦を切り抜けたことで、1対1はかなり余裕をもって戦うことができるようになった。最初は2匹以上酩酊羊がいたら避けていたのだが、今回2匹で群れていた酩酊羊に挑み何とか倒すことができた。危ない場面が多々あったため、2匹の相手は繰り返し練習する必要があるだろう。
「さっそく、ステータスオープン!」
そう告げれば半透明なウィンドウが表示される。
名前:
レベル:3
体力:23
魔力:22
攻撃:27
防御:22
敏捷:28
器用:26
知力:24
収納:10
能力:-
ステータス上昇値は、理論値のほぼMAX。体力と知力以外の5項目が10の上昇。体力と知力も9とめちゃくちゃよい。
「もうかなり強くないか? 育成所上がりだとステータスの平均23って言うし、最低ラインには立てたって感じかな」
世間ではレベル10、正確に言えば育成所卒業と同レベルのステータスは必須と言われている。最低ラインと言われているのは、健康や美容としてではなく自己防衛という意味でだ。
周りはみんなレベルを上げているのに、自分だけ低いというのでは何かあったときに身を守ることができなくなってしまう。日本は治安がいいとはいえ、頭のおかしい人間だっている。自分の身は自分である程度守れる力は必要だ。
「それに収納もレベル3で10は多いよな」
収納の数の目安は、レベルの2倍の数と言われている。鈴鹿の場合3倍だ。ステータスの盛り方と言い上々の滑り出し。もちろん、これを維持するのが重要であり大変なのだが。
この収納とは、いわゆるアイテムボックスである。ただし、ダンジョン産に限るという但し書きが付くが。
探索者は収納の数だけダンジョン産のアイテムを収納することができる。モンスターを倒すと黒い煙となって探索者に吸収されるが、その煙は経験値とドロップアイテムを探索者にもたらしてくれるのだ。といっても、モンスターを倒してもドロップアイテムが出るかどうかは運任せだが。
低レベル時の収納の数は少ないが、たった一つでも荷物が減るのはありがたい。
先にも述べたが、この収納機能はダンジョンから得られる物限定の機能だ。そのため、鈴鹿がいちいち戦闘の度に置いているリュックなどは収納することができない。そういったダンジョン産以外の道具を収納することができるアイテムもあるようだが、中学生の鈴鹿ではとても購入できる値段ではない。
「何かドロップしてるかなぁ~」
収納の中身を念じれば、現在の収納の一覧が表示された。
収納(3/10)
酩酊羊のマトン肉、酩酊羊の毛、酩酊羊のマトン肉
「おお、3つあるな。そこそこ運いいんじゃないか?」
酩酊羊から得られるアイテムは、酩酊羊のマトン肉と毛、それから極小魔石だ。肉と毛はアイテムが得られる期待値が20%と言われている。今回8匹討伐しているため、ドロップ数3つは確率的に良い結果といえる。
一方極小魔石のドロップ率は、酩酊羊の場合3%程度と激渋だ。魔石は今の日本では欠かすことのできないエネルギー源である。そんな魔石が極小でも3%のドロップ率しかないのは、酩酊羊のレベルが低いからであった。
魔石はモンスターのレベルが50上がる毎に大きさが変化し、極小、小、中、大、極大と5種類存在している。そして、ドロップ率はモンスターのレベルを50で割った値である。例えば、レベル1のモンスターならドロップ率は2%、レベル50のモンスターならドロップ率100%となるのだ。ちなみにレベル51ならば、小魔石がドロップする確率が2%。小魔石の抽選に外れた場合、極小魔石が確定ドロップするという仕組みになっている。
つまり、モンスターのレベルが上がれば魔石は確定ドロップするようになるが、低レベルでは渋いドロップアイテムということになるのだ。
今回ゲットしたアイテムの売価は、初心者モンスターの割に悪くない。酩酊羊の毛は売価2,000円。マトン肉は1,500円だ。高くはないのだが、どちらも需要があるため買い取ってくれる。粗悪な武器を落とすモンスターもいるのだが、そういったアイテムは魔鋼の含有量も少なく買取額が雀の涙ほどの物もあるのだ。
「つまり、今回の成果は5,000円ってことになるな。お昼の時間抜けば5時間は経ってるから、時給1,000円か……しょっぱいな」
命の危険があるアルバイトが時給1,000円は割に合わない。探索者は稼げるまではバイト暮らしとも言われていた。探索者としてやっていくのなら楽してモンスターを倒すこともできず、今回のように全力で戦いボロボロになって成長するしかないのだ。
それでも、中堅の探索者にもなれれば年収数千万も夢ではない。夢はあるが、序盤で辞める人も多いのが探索者という職業だ。
「もういい時間だし、帰るか。帰るまでにあと一回くらい2匹と戦えるといいけど」
そう言って、鈴鹿はボコボコに
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