The Hero's Sweet Brides~学園の女子だけ貞操観念が逆転していくサバイバルクラフトゲームで、俺だけ既に神殺しと畏怖された異世界の救世主~

奏月脩/Shuu Souzuki

プロローグ

第1話 歪まされた決意




 俺――――【夜刀神晴翔やとがみはると】は、異世界の救世主である。








 当時中学二年生だった俺は、歴史ある武術を継承する名家の生まれという以外には、容姿が少し良いというくらいで特別な才など何もなく。



 幼稚園のころからの初恋を拗らせ、見目麗しい一人の少女に淡い恋心を抱くだけの、ただのありふれた少年だった。




 そんな俺の日常に突如として終わりを告げたのは、自宅の蔵にあった一つの巻き物。



 それが俺の手に取られた瞬間。


 呼応するようにして、開かれた巻物と俺の心臓の辺りが光りだした。


 青白い光の線が方々に走り、それがやがて魔法陣のようなものを描くと、その完成と共に俺の意識は途絶えた。





 それが異世界転移への片道切符だったと理解した頃には、もう何もかもが手遅れだった。





 こうして俺は、何の因果か地球から異世界へと転移し、新たな人生を歩み始めることとなる。


 しかし、そんな非日常の出来事に胸が踊ったのは、ほんの最初の数週間だけだった。




 時が刻まれていくほどに、己の心身にも無数の傷が刻まれていく日々。


 この世界で子供であれた日など、ほんの刹那の間のこと。


 最初の方こそ、強力な能力に、身に染み付いた武術の薫陶のおかげでうまくやれていたが。


 次第に、経験の少なさに足をすくわれる事が増えた。


 しかも、魔力という埋めようのない理不尽な力の差が顕著になってからは、もう完全に戦力外である。


 絡め手すらも、圧倒的な力さえあれば問題ないとばかりに正面から握り潰されていく。


 それが【個としての力】がものをいう異世界の常識なのだと。


 それを身を持って理解した時、俺はようやく自分が決して特別な存在などではなく、ただの無力な少年でしかなかったのだと痛感した。


 早くも、現実を思い知らされたのだ。



 こうして俺は、過酷な異世界に身を置きながら、やがては地球の平穏へと郷愁の念を募らせていった。







 ――――それから20年。


 ついには地球へと帰還する為に、俺は人の身すらも捨て、悪しき強大な邪神を討つことで【精霊女王】と呼ばれる存在に力を示すまでに至った。



 ――――紅光こっこうの勇者。



 ――――大精霊の代行者。



 ――――赤き神殺し。



 ――――紅蓮の龍帝。



 様々な異名と共にその威光を轟かせ、この頃には、既に世界最強の名を欲しいままにしていた。




 しかし、その頃になって共に戦うようになった者たちは、皆一様に俺に畏怖の目を向ける者ばかり。




 最早、信じられるのは20年の足掻きの果てに手にした今の己の力と、超大自然の現身たる【精霊女王】。


 そして――――今も遠く離れた地球にいる、大切な人達だけ。






 同行していた可憐な聖女が実は魔王だった、とか。


 その魔王も実は邪神に操られていただけだった、とか。



 たった二行の展開と結末だけでも、十分に胸糞が悪いとわかる最悪のテンプレート。


 数多のダークファンタジーも真っ青な俺の異世界転移譚は、ただでさえ強まっていた己の故郷への思いに拍車をかけるには十分すぎた。



 だが、今の自分が地球に帰還したとして、俺は本当にうまく平穏な日常に戻れるのか?



 幸か不幸か、今の俺は老いも若いもある程度は自由に容姿を調整できたし、地球ではまだニ週間ほどしか時間が経ってないという。


 無論、それでも寿命の問題などもあったし、空白の二週間についてなど頭を悩ませる問題もあった。



 しかし、それでもいざ帰還して、初恋の幼馴染と再会できた瞬間は今でも忘れられない。




 ――――もう、絶対に離さない。



 確かな人のぬくもりに決意を新たにした。



 ――――この人と幸せになりたい。


 彼女だけじゃない、俺の心をこんなにも満たしてくれる尊い人たちは、みんなこの手で幸せにしてみせたいと思った。



 そう――――



 今度こそ、絶対に誰にも奪わせやしない。





 ――――俺の大切は、全て自分のものにしなくてはいけない。





 人の大切に手を出す奴は、ただの賊に等しく。



 賊は、見かけ次第その首を跳ね飛ばすべき存在だ。



 何もおかしなことはない。あの異世界では当たり前だったこと。






 ただでさえ深く根付いていた俺の中にある大切な人たちへの想いは、異世界からの帰還によって一層深みにはまったといっていい。


 それは、ただ帰郷への喜びに感動があふれたからか。


 それとも、20年越しに再会した初恋の幼馴染に再び恋に落ちたからか。


 勿論、それらも理由の一端である。



 

 しかし、同時に俺がこれほどまでに傲慢な欲を抱くようになったきっかけは、他に明確に存在していた。



 それは、俺の心に確かな狂気を宿すには、十分すぎるほどの【絶望】だった。




















 ――――地球から帰還した俺を出迎えてくれた人達の中に、俺の両親はいなかった。







 ……確かに、俺の両親は修練の際は鬼のように恐ろしく、厳しかった。



 しかし、それでも普段の両親は自らの子に愛情を注がず、負うべき責任から逃れようとするような白状な大人ではなかった筈だ。


 それどころか、そのような無責任な大人を忌み嫌う、誠実で武道家の鑑のような人達だった。


 そして、俺もまたそんな両親のもとに生まれてきたことを誇りに思っていたのだ。


 いつだって俺の心を温かくしてくれた両親の愛情は、様々な美しい記憶となって今でも鮮明に思い出せるほどである。



 実際に、過酷な異世界にあって俺が挫けずにいられたのは、間違いなく両親に深く愛された記憶が、俺に生きる気力をもたせてくれたからでもあった。



 だから、家に帰ったらまずは心配をかけたことをとにかく謝り倒して、それから沢山二人への感謝の思いを伝えよう。



 そう、思っていたのに――――






 それから少しして目にできた俺の両親は、俺の会いたかったあの頃の二人の姿ではなく。



 あんなにも温かかった二人の手は、残酷なまでに冷たくなっていた。







 それから、俺は知った。



 俺の大好きだった父さんと母さんは――――俺の大切な人は、行方不明になった俺を探していた最中に水難事故に遭い、亡くなったのだと。







 俺は理解した。


 俺は悟った。



 俺は、どうしようもないほどに間違えていたのだと。





 思えば、異世界で生きていた時もそうだった。



 他者が決めた耳障りのよい良心や常識のあり方に呑まれ続け。



 しっかりと自分の意志を貫き通せるようになったのは、本格的に地球への帰還を目指し、【精霊女王】のもとへと馳せ参じてからのこと。






 異世界を救った。


 たくさんの人々を救った。


 多くの人の安寧を守った。


 幸福の種を振りまいた。




 ならば、俺にも。


 当然、俺にも――――




 後には、自分が救った分だけ幸せな未来が待ってるって?






 ――――いいや、違う。




 今も、これからも、大切なものは自分の手で守り抜き。


 欲っする未来は、強引にでも自分の手で掴み取るしかない。





 だから、俺はもう間違えない。


 これから先は、自分と、自分の大切な人達の幸せのためだけに生きる。





 尽くした分だけ、真っ当に幸福を享受し合う。


 それが、俺にとっての正しい在り方なのだから。






 俺の周りには、俺の愛する人たちだけがいればいい。



 たとえ、その最中にいかなる障害が立ち塞がろうとも。




 俺だけの楽園を築くために必要なことなら、なんだってするし、どんな危険ですらも利用してみせる。



 すべてはただ、己の後悔の全てを精算し、次なる未来へと進むために。











 ――――俺の【理想】を挫こうとするものは、すべて潰す。









 誰が敵で、誰が味方か。



 誰を守り、誰を見捨てるか。





 その選択と、それによって生じる責務の果てに、然るべき未来を掴み取るために。











 俺は――――俺が自分で思い描いた、【真の英雄ヒーロー】になってみせよう。










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