十月から

ゆた

第1話

 私は、朝六時半に起き、仕事に行く。今日も他愛ない一日だった。毎日、家に帰って小説を書く。投稿しても、誰にも読まれない。カクヨムに投稿することにしたのは、自分が書いた小説を誰かに読んでもらいたかったからだ。小説を書いても、自分しか読まないのが、寂しくて、せっかく書いたのだから、小説は誰かに読まれないと意味がない、と思った。

 妹の繭子は、大学生だ。県外で、一人暮らしをしている。私は彼女にだけは、自分の書いた小説を見せた。

「お姉ちゃんの書く小説は、いつもなんていうか、のっぺりとしているよね」

 そんな感想をくれる。

「それに、心の中で思っていることが長いっていうか、長々と考える癖って、女性作家に見られがちだよね」

 とも繭子は言う。私が、自分の小説を読んで感じていたことと同じだ。風景が足りないのだろうか?それと、なによりキャラクターを生かすことができていないように感じる。私の書いた小説は物語としてなっていない。私はいろんなことを小説にそのときどきによって、考え、それを実践してみるものの、なかなか、上手くいかない。自分で面白いと思わない小説を他の誰が読んでくれるというのだろうか。

 英人という私の同僚が、私が小説を執筆している、と何かの折に漏らしたときに、「読んでみたい」と言ってくれた。だけど、私は恥ずかしくて、彼に自分の小説を読ませようとは思わない。

「英人君はさ、自分がやりたいことが、思ったより上手くできないなって、なったとき、どうしてる?」

「僕は、そうだな。うぅん。どうしてるんだろう。別に、上手くやろうと思わないかなぁ。下手でいいし、誰に認められなくても、自分が満足してるなら、それでいいから。だけど、他人に認められようと努力することも捨てたもんじゃないな」

 私は、彼に小説を見せようか、と部屋で机に向かって、執筆をしながら考える。彼なら、否定せずに、私の小説を読んでくれそうだ。だけど、きっと私の拙い文章を読んで、彼に面白くないと思わせるのは、私のプライド的に問題がある。私は、どうせなら、素晴らしいものを彼に提供したいし、それは万人向けである必要がある。


 十月三十一日。今日は雨が降っている。夜道を運転して帰っていた。車線が見えづらくて運転しづらい。少し気を抜いただけで、事故を起こすのではないかという不安がある。隣に帰省している妹が乗っている。繭子は、今日、おばあちゃんの家に行ったこと、耳は遠いが、元気そうだということを私に話した。孫が帰ってきてくれて、おばあちゃんも喜んでいたことだろう。目に浮かぶようだ。

「お姉ちゃんは、職場でいい人いないの?そろそろ結婚しないと、行き遅れちゃうね。もう二十五でしょ」

 私は、唸る。英人の顔が浮かぶが、彼に彼女がいるかどうかも知らないのだ。だけど、きっといるに違いない、と私は思っているし、だから、彼にアピールしようとか、そういうことを避けて、自分がもし恋愛に失敗して、傷つく危険性を排除している。

「繭子は?いい人いないの?」

 繭子は、大学で経済学の勉強をしている。私は経済のことに詳しくないが、学校ではそれなりに勉強に力を入れていて、そういう系統の仕事につく予定だと想像している。

「私はねぇ、好きな人はいるんだけど、全然、振り向いてもらえないの」

「なら、私と一緒じゃない」

 私は、幾分、ほっとしたような、家族に早く孫の顔を見せてやれないことを残念がるような、いろんな感情が混ざって、なんとも言えなくなる。

 家にたどり着き、玄関を入ると、母が料理していた。今日は鍋だ。妹が歓声を上げて、母に近寄っていく。私は風呂に入ることにした。

 風呂から上がり、パソコンを開く。どうせ、誰にも読まれないのだから、といくぶんか投げやりで、言いたいことをさらけ出す。

 サイトをしばらく見ているうちに、アイドルのドキュメンタリーを描いた小説を見つけた。新作らしい。私は、それを開いた。

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