第八話 全時空ファミチキ会議と恋のライバル

 時空の外に作ったファミチキ工場が、稼働して1ヶ月。


 順調だと思っていたら、とんでもない問題が発生した。


「翔!大変!」


 鈴音が血相を変えて駆け込んできた。


「どうしたの?」


「ファミチキ工場で革命が起きた!」


「革命?!」


 モニターを見ると、工場で働いている僕たち(全時代から集めた僕のクローン的存在)が、プラカードを持ってデモをしている。


『ファミチキばかりじゃ飽きた!』

『からあげクンも作らせろ!』

『Lチキ派の人権を守れ!』


「これは……予想外」


 老翔が杖をついて現れた。


「緊急会議を開く必要があるね」


 こうして、『第1回全時空ファミチキサミット』が開催されることになった。


 会議室(元コンビニの休憩室を改造)に、各時代の代表が集まった。


 - 原始代表:ウホ翔(言葉は通じないが、情熱は伝わる)

 - 古代代表:哲学翔(やたら理屈っぽい)

 - 中世代表:騎士翔(正義感が強すぎる)

 - 近世代表:商人翔(利益ばかり考える)

 - 近代代表:革命翔(すぐ革命したがる)

 - 現代代表:僕(一応メイン)

 - 未来代表:AI翔(感情がない)


「では、議題はファミチキ以外の商品を作るかどうか」


 僕が議長として進行する。


 革命翔が立ち上がった。


「ファミチキ独裁体制を打倒せよ!全ての揚げ物に平等な権利を!」


「いや、独裁じゃないし」


 商人翔が電卓を叩きながら発言。


「利益率で考えると、ファミチキが最も効率的。他の商品は不要」


 騎士翔が机を叩いた。


「効率だけが全てではない!多様性こそが正義!」


「ウホ!ウホホ!(でも美味しいよ!)」


 ウホ翔が何か言っているが、よく分からない。


 哲学翔が立ち上がった。


「そもそも、『ファミチキとは何か』を定義すべきだ」


「哲学論争はいらない」


 AI翔が無機質な声で言う。


「統計的に、ファミチキの満足度は98.7%。変更の必要性は認められない」


 議論が平行線をたどる中、鈴音が手を挙げた。


「あの、一つ提案があります」


 全員が注目する。


「ファミチキをベースに、各時代の特色を加えた新商品を開発するのはどう?」


「例えば?」


「原始チキン:骨付きワイルド仕様」

「古代チキン:スパイス効かせた地中海風」

「中世チキン:ハーブたっぷり騎士風」

「近世チキン:照り焼き和風」

「近代チキン:カレー味の文明開化風」

「未来チキン:分子ガストロノミー仕様」


 全員の目が輝いた。


「「「「それだ!」」」」


 満場一致で可決。


 これで問題解決かと思ったら、新たな人物が会議室に入ってきた。


「失礼します」


 振り返ると、そこには——


 鈴音にそっくりな女性が立っていた。ただし、髪は銀色で、瞳は金色。


「初めまして。私は鈴音の『対存在』、音鈴(ネリン)です」


「対存在?」


 音鈴が説明する。


「時空には、全ての存在に対して『対』となる存在がいます。光と影、陽と陰のように」


「じゃあ、君は鈴音の影?」


「いいえ。私は『もう一つの可能性』です」


 音鈴が僕を見つめた。その瞳に、見覚えがある感覚が。


「実は、3000年後の未来で、あなたと結婚しているのは私です」


「「「「えええええ?!」」」」


 全員が驚愕した。特に鈴音がショックを受けている。


 老翔が咳払いをした。


「ああ、そういえばそうだった」


「知ってたの?!」


「3000年後は複雑でね。時空が二層化して、表層では鈴音と、深層では音鈴と結ばれている」


 意味が分からない。


 音鈴が続ける。


「つまり、あなたは二人の女性から愛されている。そして、どちらを選ぶかで、未来が決まる」


 鈴音が立ち上がった。


「ちょっと待って!翔は私のものよ!」


「あら、独占欲が強いのね。でも、愛に独占権はないわ」


 火花が散る。文字通り、空間にバチバチと電気が走った。


「落ち着いて!」


 僕が間に入る。


「そもそも、なんで今頃現れたの?」


 音鈴が微笑んだ。


「実は、時空にもう一つの危機が迫っているの」


「もう一つの危機?」


 モニターに映像が映し出された。


 巨大な黒い渦が、時空を飲み込んでいく様子。


「これは『虚無』。全ての時間を無に帰す存在」


「なにそれ怖い」


「この虚無を止めるには、対存在の力を合わせる必要がある」


 音鈴が手を差し出した。


「だから、協力しましょう。鈴音」


 鈴音は渋々手を握った。


「翔のためなら仕方ないわね」


「あら、素直」


 また火花が散る。


 革命翔が興奮している。


「これは、恋の三角関係革命だ!」


 商人翔が計算している。


「二人の女性からモテる確率を計算すると……0.0001%。さすが本体」


 騎士翔が剣を抜いた。


「二人の姫を守るのが騎士の務め!」


「ウホホ!(僕も手伝う!)」


 なんかカオスになってきた。


 AI翔が冷静に分析する。


「虚無の侵攻速度から計算すると、残り時間は72時間」


「3日しかない!」


「どうすればいいの?」


 音鈴と鈴音が同時に答えた。


「「時空の中心で、愛を叫ぶ」」


「……は?」


「文字通りよ」


 音鈴が説明する。


「虚無は、感情のない空白。それに対抗できるのは、最も強い感情——愛」


「でも、誰の愛を?」


 鈴音が僕の手を握った。


「もちろん、私たちの」


 音鈴も反対側の手を握った。


「三人の愛の力で」


「三人って、僕選べないよ?」


「選ばなくていい」


 老翔が杖をついて立ち上がった。


「実は、これも計算のうち。対存在が現れることも、虚無が来ることも、全て時空を完成させるための過程」


「どういうこと?」


「時空は、まだ不完全。それを完成させるには、全ての可能性を統合する必要がある」


 哲学翔が補足する。


「つまり、『鈴音を選ぶ未来』と『音鈴を選ぶ未来』を統合して、『両方を選ぶ未来』を作る」


「それ、倫理的に大丈夫?」


「時空に倫理なんてない」


 AI翔が断言した。


 商人翔が電卓を見せた。


「ちなみに、二人と結婚した場合のファミチキ消費量は3倍になります」


「そこ?!」


 でも、議論している暇はない。


 モニターを見ると、虚無は確実に近づいている。


「よし、やろう」


 僕は決意した。


「時空の中心で、愛を叫ぶ」


 鈴音と音鈴が同時に微笑んだ。


「「それでこそ、私たちの翔」」


 ちょっと照れる。


 全時代の僕たちが集結し始めた。


「総員、配置につけ!」


 騎士翔が号令をかける。


「ウホ!(気合い入れろ!)」


 ウホ翔も吠える。


 こうして、時空最大の危機に立ち向かうことになった。


 でも、一つ気になることが。


「ねえ、時空の中心ってどこ?」


 老翔がニヤリと笑った。


「もちろん、最初のコンビニさ」


 すべては、ファミチキから始まった。


 そして、ファミチキに帰る。


 なんて哲学的な……いや、ただの揚げ物好きか。

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