財布の小銭に最後に触れたのはいつだったか。
キャッシュレス決済が板について久しい。現金決済に比べ、ポイント付与の機会が多く、会計が遥かにスピーディーである。現金決済のメリットとして、支出の実感を得やすく、浪費防止に繋がるという意見をよく見かけるが、そもそもどこでいくら使ったかを記録する習慣がなければ、その"実感"とやらは得られないのでは──などと思ってしまう。昨今、財布を開けて取り出すのはせいぜいクレジットカードくらいのものだ。
一方で──千円ちょうどを差し出せたときの小さな喜び、切りよく支払えなかったときのちょっとした悔しさ(そして、小銭で肥えた財布の煩わしさ)など、現金決済が主流だった時代、そういった小さな凹凸に一喜一憂していた記憶は確かにある。
この作品の素敵なところは、イチたちがキャッシュレス化の波に抗おうとするのではなく、せめて「誰かの役に立ってから終わりたい」と決意している潔さにあると思ふ。そう、イチたちは電子の時代ではなく、金属くずとして終わる運命に抗うのである。
リレーにおけるバトンパス然り、退職前の引き継ぎ然り、誰しもいつかは他の誰かに役目を託す瞬間がやってくる。
イチたちは新しい世代に託すことで、数字を超えた価値に行きついた。
新たな誰かに役目を託すときは、人にとって転換期と云える。
人生の転換期にある読者には「チャリン」と響く作品なのではなかろうか。