僕の軌跡と雪うさぎ

祭煙禍 薬

雪うさぎとずっと待っています。【20251月】



*****


貴方の精神が壊れ眠りについた日から

貴方の大切なものを守り、目覚めを待つ日々に

僕の生きる意味は変わりました。


あの風景は僕が守っています。

雪を支配して掘って水で溶かして、

人を探して弔って。建物を直して。

 今でも貴方の記憶のままです。

命を直す事は出来ませんでした。

でもそれ以外は元通りです。

雪うさぎと共に畑の手入れもしています。


春の芽吹きへの支度も

夏の短い日の盛りも

秋の細やかな実りも

冬の命への冷酷さも


 大変な作業と季節を携えた生活は淡々と

時が経つにつれ単調に無味乾燥なものになっていきます。元々見飽きたもの、思う所はありません。


 唯一の変化は雪うさぎの使役の上達です。

貴方を思い出す雪うさぎだけが癒しです。

 待つ事永い時を生きる事に僕の心は慣れています。

ですが肉体は違います。老い衰え寒さに蝕まれていきます。

寒さは力と対策で何とかなりました。


問題は老いの方です。

いくら誤魔化しても化け物じみてても

生物としての運命さだめに抗うことはできません。

”人”でいる限り…そうです。


*****


ある廃村に人外が訪れた。人外には目的があった。

此処に居ると言う白い悪魔に会う事。


廃村には一人の人間と動く雪うさぎが居た。家畜もいた。

雪うさぎはその人間が魔術で使役しているのだろう。


それにしても不思議だ。

34年前雪崩で村が埋まり廃村となったとの噂を聞いたが雪崩の痕跡が無い。普通の村と何ら変わらない。異常な点はこの村には目の前の人間を除いて誰一人居ない事。

そしてこの廃村を訪れ行方不明になった者の銘が墓に刻まれている事だ。


噂の審議は本当なのだろうか?

なんにせよこの人間が白い悪魔なのだろう。


「…」


「何の用?僕は忙しいんだ。邪魔しないでくれ。」


「いや何年も何年も君の噂を聞いていてね。興味がわいたのだ。」


「君は人間のようで人間ではない。狂いすぎている。ここを訪れた者を殺し墓を作る意味が分からない。」


「あの子が居たら可哀そうだときっと言うからね…。」蚊の鳴くような声で呟いた。


「なぜ殺す。」


「ごちゃごちゃとうるさいなあ」


「どうせ、君もどうせ死ぬんだから、この場所も誰も知らなくていい。」


雪うさぎの目が一斉にこちらに向いた。彼は氷の結晶を生み出した。戦闘態勢だ。そして手に氷の剣を持ち聞いた。


「何か言い残すことはあるか?」


「…」


心を見た。彼はただ変化を望まないだけだった。

…どれだけ忠誠心の高い媒介だよ。


「まあ待てよ。このままだと君の目的は果たせない。」


「私と契約しないか?人外になれば悠久の時を過ごせる。」


「考えさせてくれ。」


*****


もうお分かりだと思います。


約束の時が来たようです。

あの方は100年の時をくれました。

人が生きるのは長くて100年。

100年以内に目覚めなければ望みは薄いだろうと

約束は果たす物,貴方がそう教えてくれました。

そうでなければ…いえ貴方の故郷とお別れの時間です。


*****


沢山の時間が過ぎずいぶんと多くなった墓に一礼をした。皆手入れの甲斐もあって綺麗な姿だ。


「雪うさぎと、貴方達とあの子を待つ予定でした。しかし約束を果たすため我々は旅立ちます。どうかお許しください。あの子に会えない事を、二度と報われない事を、もしあの子が目覚めたならその時は必ず此処に。」

あなたの家族に、友に、仲間に恩人にもう会えるかも分からないから。


「ごめんなさい…」

二度と彼らは日の目を見ることができないかもしれないから。そう謝った。感情も思い入れなどないのになぜか涙が流れた。

貴方と混ざってしまったのか誤ってしまったのか。でも悪い気はしなかった。


その日一つの廃村が再び雪崩に襲われた。

あの日とは違う人工の雪崩に、在りし日の村を残す優しい優しい雪に、時を閉じ込める氷に。

共同墓地に溢れんばかりの花を残して雪うさぎで彩って。


廃村は再び廃村となった。


~何年経てど貴方が目覚める日を待っています~


無謀にも夢見た待つ者は旅立った。

約束を果たすために

時間を遅らせるために

決別覚悟として思い人の最後の置き土産を残して。


ある意味呪いとも言える待つ者の,魔道具の精神体の

待ち人の目覚める時を誰も知らない



残された置き土産は雪と混ざりかつての姿に還っていった。




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2026年1月28日 20:00

僕の軌跡と雪うさぎ 祭煙禍 薬 @banmeshi

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