“起”承転結Ⅱ
呪術師がいると噂の町に降り立つ
十二月二十七日。朝九時。
“サリ王”と名乗る人物からのメールで教えて貰った桜木山がある▲県F市S町にやって来た。
当初は東京駅から新幹線と在来線を乗り継いで行こうとしたのだけど、どんなに頑張っても半日以上かかる事がわかったので、新幹線を使わずに夜行バスで一旦早朝に▲県までやって来て、それから在来線を乗り継いで何とかS町までやって来た。
ここまでやってくるのはしんどい道のりだった。こんなド田舎町に連れてこられて何の成果も無かったらマジでキレるかもしれない。
「それにしても寒すぎだろ」
俺はS町の駅から出てすぐにそう一言だけ呟いた。今日はかなり寒い。早くどこか飲食店か喫茶店にでも入って温まりたい所だけど、駅周辺には何もない。
目の前にはバスとタクシーが停車しているロータリーだけ。駅周辺には休憩出来そうな喫茶店や飲食店は何もない。マジで終わってる過疎町だな。
まぁでもこんな人の少なそうなド田舎町じゃ駅前に喫茶店とか作っても需要なんて無いか。今も電車から降りたの俺だけだったし。
「っち。仕方ねぇ……タバコを一本だけ吸ってから移動する事にするか」
―― シュボッ……
俺は暖を取るのを諦めて、駅前に置かれてた灰皿の前に立ってタバコに火をつけて一服を始めていった。
それにしてもここまで来るだけでそれなりの金額が吹き飛んでしまった。深夜バスだから多少は安くなったけど、それでも高い出費だ。まぁ最近パチンコで爆勝ちしたから別に良いけど。
「ぷはぁ。数時間ぶりのヤニは効く……って、ん?」
【江戸時代から受け継がれる金属工芸の技術、ようこそS町へ!】
「へぇ、この町は金属工芸が名産物なのか」
タバコを吸っている時にふと駅の外観を眺めていると、そんな垂れ幕が飾られている事に気が付いた。でも凄いボロボロな垂れ幕だ。もうずっと替えられてない感じだ。
こういう町のシンボル的な垂れ幕を買い換えられないって事は、この町は相当金が無いんだという事が容易に想像が付く。まぁ今は世知辛い世の中だし仕方ねぇよな。
「それにしてもこんなオンボロの過疎町に呪術師なんて本当にいるのか?」
9ちゃんの安価を受けてこんな過疎町にやって来たけど、でも今回の情報はあまりにも胡散臭かった。メールでのやり取りの途中で連絡不可能になるなんて、どう考えても愉快犯にしか見えないからな。
まぁでも本物じゃなかったとしても、それはそれで9ちゃんの話のタネになるからいいか。それにいつも通り地方の風俗で遊んで帰るだけでも十分楽しいしな。またトロール嬢だったらブチギレるけど。
「ふぅ……よし。それじゃあそろそろ向かうとするか」
俺は吸っていたタバコの火を消して灰皿に捨てて、駅前のロータリーに停車されてるタクシーに近づいていった。そしたらタクシーのドアが開いたので早速乗り込んだ。
「いらっしゃいませ。ようこそS町へ。観光のお客様ですか?」
「まぁそんな感じだ」
「はは、そうですか。こんな小さな町に観光に来ていただけるなんて嬉しいですね」
「ふぅん。ここは普段は全然客なんて来ない町なのか?」
「そうですね。時々特産品である包丁や食器類を買いに来るお客様が来られる程度です。さてと、それではどちらまで行かれますか? やはりお客様も工芸市場に行かれる感じでしょうか?」
「いや、工芸市場は興味ない。そんな所よりも桜木山の入口まで頼む」
「……桜木山?」
行先を伝えると、途端に運転手の顔付きが訝しげな表情に変わった。そして怪訝な顔付きのままこう尋ねてきた。
「……何故桜木山に行かれるのですか? ただの観光客ではないのですか?」
「? いや、俺は観光客だぞ。山を登る観光客なんて珍しくないだろ?」
「桜木山は標高たったの数百メートルしかない山です。山道の補装も全然されてませんし、この▲県にはもっと有名な山が沢山あるんですよ。それなのにどうして桜木山を登りに来たんですか?」
「はぁ? 別に標高の小さい山とかマイナーな山を登りたい人間だっているだろ。だから俺もマイナーな桜木山を登りたいって思ったって構わないだろ?」
「……はい、確かにお客さんの言う通りです。ですが桜木山に入った人間は何人も不幸になったという噂があります。だからお客さんも桜木山には登られない方が良いと思います。身のためですよ」
「はっ。なんだそりゃ。不幸になるなんて怪談話か何かか? そんなの別に構わねぇよ。ってか俺は客なんだ。だから早く桜木山まで連れて行ってくれよ」
「……わかりましたよ。それでは桜木山まで案内させて頂きます」
―― ブルルルッ……
そう言って運転手は俺を目的地である桜木山に向けて運転していった。そしてそれからすぐに桜木山の入口に辿り付いた。
「桜木山の入口前に到着しました。代金は2700円です」
「おうよ。それじゃあちょうど2700円だ」
「ありがとうございます。それと先ほども言いましたが桜木山に入ると不幸になる噂が多数あります。なのであまり詮索せずにさっさと引き返す事をオススメします」
「あぁ、わかったわかった。忠告ありがとな。そんな長居するつもりは無いから安心してくれ」
「……わかりました。それではお気をつけて」
―― ブルルルッ……!
そう言って運転手はさっさとタクシーを運転してこの場から離れていった。こうして桜木山の入口には俺一人だけとなった。
「この山の中に呪術師がいるのか。見たところ普通の小さな山にしか見えねぇけどな……」
そう呟きながら山の外観を見ていった。どうみても普通のそこら辺にある小さな山にしか見えない。そう思いながら辺りをキョロキョロと見渡していってみた。
すると桜木山の入口近くに大きな看板が設置されている事に気が付いた。おそらくこの桜木山の案内板だろう。
「案内板があるのか。それじゃあ桜木山の山頂まではどれくらいかかる……なっ!?」
『引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ引き返せ』
看板には赤い文字でそうビッシリと書かれていた。あまりにも細かい文字でビッシリと書かれていたので、俺は気持ち悪くて鳥肌が立ってしまった。
「は、はは……何だよ? え、映画のセットか何かか?」
俺はそう嘯きながら、すぐに看板を見るのを止めていき、一旦落ち着きを取り戻すためにタバコに火を付けていった。でも先ほどの運転手の言葉も相まって何だか急に気持ち悪い山に思えてきた。
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