第24話 父なるダゴン、母なるヒュドラの威圧
・血路を開く者たち
エルダ・アリスがゲートを抑える中、
理人たちは裏世界の湖畔へと駆け込んだ。
月なき空の下、
百体を超える『深きものども』が不気味な合唱を響かせる。
「先生! 今が突破の好機っす!」
「行くぞ、みんな! 教師として、
生徒を守り抜く!」理人は星辰の剣を抜き放ち、光の軌跡を描いた。
「九条くん、見せてやれ! 機能美の真髄を!」
「承知。――秩序ある破壊、開始します」
次の瞬間、九条響は青い閃光となり、群れへと突撃した。
バールが唸り、光刃の軌道が幾何学的に走る。
シュン、ザシュ、カキィン!
「見てよ先生! 九条さん、
戦闘中なのに髪一筋乱れてないね!」
「それが彼女の『秩序』だ。美の暴力だな」
理人が笑うと、九条は淡々と応じた。
「教師殿、冗談を言う余裕がおありとは――評価に値します」
赤城圭吾がタブレットを操作し、魔力を絞り出す。
「防壁展開! 《旧神防護陣・改》、転送完了!」
「助かる、赤城先生!」
理人は剣を掲げ、光を放つ。
「――退けっ、エルダーサインの光よ!」
光の奔流が闇を裂き、敵を焼く。
だが深きものどもは次々と蘇り、押し寄せてくる。
ノア=エルとアイオネが後方でチャージを続けていた。
「先生のために、制御された愛のエネルギーをフルチャージです♡」
「教師殿の指導下、無駄を排し、秩序的に充填を完了させるわ」
「もぉ、秩序ばっか言ってると恋が枯れますよ!」
「愛はともかく、魔力が枯渇する前に急げ!」
湖畔は緑の血飛沫と絶叫で満たされ、
戦場は地獄のように輝いていた。
・父なるダゴン、九条を弾き飛ばす
「くそっ、数が減らねえ!」理人が歯を食いしばる。
九条も息を荒げ、装甲に深い傷を刻まれていた。
「群れの動きが統制されている……
上位個体の指揮です!」
湖面が、不自然なほど静まった。
その瞬間――
ドォンッ!
湖面が爆発。黒い水柱を裂いて、
六メートルを超える巨体が現れる。
筋肉の鎧、腐魚の顔。
それは――父なるダゴン。
「グォオオオオ!」
咆哮が空を割り、九条が目を細める。
「美しくない……が、強度だけは一級です」
「下がれ、九条!」
理人の叫びも虚しく、ダゴンの拳が叩きつけられた。
ガァンッ!
金属音とともに衝撃波。
九条はバールで受け止めるが、岩壁まで弾き飛ばされた。
「くっ……っ!」
装甲が砕け、血が滴る。だが、彼女の瞳はまだ冷静だった。
砕けた装甲の隙間から、青白い光が滲む。
「……教師殿、破壊力――芸術的です……」
>>>【ALERT: 旧支配者眷属・王】
>>>対象:父なるダゴン (Father Dagon)
>>>危険度:S+ (暗殺者)
>>>【九条響:戦闘継続不能/損傷率89%】
>>>HPゲージ:重大な損傷/
戦闘続行/極めて困難
「九条!」理人の怒声が響く。
ダゴンが嘲笑を浮かべた。
「人間の子よ。貴様の美も、ここで朽ちる」
赤城が吼える。
「舐めるなっ! 《反転符・救護陣》!」
魔法陣が九条を包み、ダゴンの爪を一瞬弾いた。
「神原! 救出だ、今すぐ!」
「ひぃぃぃ! SAN値がゼロ突破してるっす!
でも先生の指導は絶対っすー!」涙目の神原が九条を抱えて後退する。
・母なるヒュドラの威圧と理人の絶望
理人と赤城が背中合わせで立つ。
深きものどもが円陣を組み、包囲を狭める。
「赤城先生、魔力は!?」
「ゼロです……もう、『教師の根性』で補ってください!」
「根性は得意分野だ!」
そこへ――静寂が訪れた。
湖の奥。腐海の香が漂い、水面が泡立った。
巨大な女性の影が、胎動のように揺れる。
艶めく触手髪、暗き母性の微笑。
母なるヒュドラが、ゆっくりと姿を現した。
理人のUIが赤く点滅する。
>>>【ALERT: 旧支配者眷属・女王】
>>>対象:母なるヒュドラ (Mother Hydra)
>>>危険度:S+ (殲滅者)
「……ダゴンとヒュドラ、同時かよ……悪夢だな」
「ようこそ、我が胎へ――」
ヒュドラの声は甘く、しかし絶対的支配を孕んでいた。
「愛すべき人間の子よ。
あなたの魂を、我が子宮に宿そう」
「黙れ! 教師に出産計画を語るな!」理人は叫び、星辰の剣を構えた。
「お前らの『愛』も『母性』も、
教育指導外だッ!」
光の一閃。
だがヒュドラは微笑みながら、次元を裂く触手を振るう。
ズドォンッ!
理人は衝撃波を受けながらも、神原を庇うように前へ出た。
「神原、逃げろ!」
「先生ぇぇ! 無理っす、こんなんラスボスですよぉぉ!」
ヒュドラの触手が迫る。その瞬間、
理人の脳裏に走馬灯のように仲間たちの姿が浮かんだ。
ノア=エルの微笑、アイオネの厳格な視線、
九条の静寂の美、神原の悲鳴、赤城の決意、
そしてエルダの鋭い瞳。
(……これが俺の「日常」だったんだな。なら、
最後まで――教師であるべきだ)
理人の手の甲に刻まれたエルダーサインが、
心臓の鼓動のように脈打ち、灼熱の光を放った。
「教師として、最後の指導だ……!」
理人は己の体を盾にし、ヒュドラの触手へと飛び込んだ。
ドォン――!
光と闇が交錯し、世界が軋んだ。
【第25話へ続く】
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