気が付けばハーレムを逃した僕は強い力を得たけど、ハーレムもチート無双もせずに現代ダンジョンに引き篭もった

花京院典明(はなけいいつかさどるべい)♀

第1話 後悔先に立たず

 僕は失恋した。


 僕が悪い。全て、何もかも。僕の行い次第では彼女達は僕を選んでくれていたかもしれない。


 ぬるま湯に浸かるような現状に満足せず、意思表示をハッキリとし、彼女達の好意が永遠に続くものだと当然のように受け取らず、倍にして返すくらいの度量があれば。


 そう毎日のように後悔している。幼馴染みも、義妹も、クラスメイトの委員長も、近所のお姉さんも、僕に好意を向けてくれていた誰も彼も、もう僕のことなんて眼中にない。


 でも逆恨みをしたり、復讐してやろうだなんて大それた思いは微塵もない。


 最初は疑問と悲しさで動けなかった。両親も癌で亡くなり、頼れる親戚も友達も居らず、一人になったことも原因だろう。


 けど、生きるのを諦めるほどの絶望じゃなかった。死にたいとは思った。今まで享受していた幸せが失われた深い哀しみはそれ程だった。


 実際に行動に移さなかったのは、僕にそんな覚悟がないことと、死を受け入れるだけの絶望じゃなかったと証明されたからだ。


 だから、ホームセンターで買ってきたはいいものの、使わなかった首吊り用の縄は今も押入れの奥に仕舞ってある。いつか、また悲しいことがあった時に、簡単に死のうだなんて思わないように。


「……やろうか」


 僕は一人、今日もダンジョンと呼ばれる穴蔵でモンスターを狩る。


 凄い話は変わるけど、現代にダンジョンと呼ばれる空間が世界各地に現れた。僕はどういうわけか知らないし、知る意味もないけど、その時に莫大な能力が与えられた。


 魔力。それも底なしの魔力だ。僕だけが使えるらしく、他にダンジョンに来る人達はせっせっと、力をつけて頑張っているのに、僕一人だけが先にゴールしてしまっている。


 だって皆が必死に連携して強いモンスターを倒そうとしている中で、僕だけは腕を振るうだけでも魔力による暴風が起こせるし、モンスターの種類によっては僕の前に立った瞬間に消し飛ぶ。


 正直に言って虚しい。僕の努力の結果によるものでもなければ、僕が望んだことでもない。


 強い力を得て、女の子に囲まれて、幸せに暮らしましたとさなんて駄作小説の主人公になりたいわけじゃない。もう叶わないけれど、あのささやかな暮らしこそが僕にとって幸福な日々だったんだ。


 両親が健在で、僕のことを好いてくれていた皆と仲良くなって、言葉は悪いけど……僕から全部奪い去っていったあの男が居ない毎日が。


 でも、彼が悪いわけじゃない。僕よりも、彼の方が真摯で積極的で魅力的だった。見た目は軽薄そうでも、中身がちゃんとしていた。僕はその逆だった。それだけの話だ。だから恨み言を言うつもりはない。


 ただせめて、彼女達を不幸な目に遭わせないでやってほしい。 


 ……そう願うくらいは許してくれるかな。幸せにできなかった僕が言っていい台詞じゃないかもしれないけど。

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