3016
縞間かおる
前編①
このお話のヒロイン 鈴木栞さん(30歳)のイラストです。
https://kakuyomu.jp/users/kurosirokaede/news/822139838536140472
では、始まります!
◇◇◇◇◇◇
雨のにおいのする明け方に夢を見た。
真鍮ブラスのハンドルを回して重い扉を開けると家の中はシン! としていて……
グレーのトーンに染まった冷たい廊下に“ゆっくん”がテン! と座っている。
この子は……ずっとこうやって、私の帰りを待っていたのか?
私は自分の浅はかさを心から恥じ、後悔した。
今、この子の“母親”は私なのに!!
“幼いお洒落心”に負けて、お昼寝をしていたこの子を独り残し外出してしまった。
雑誌を見て一目ぼれしたワンピが入荷したとショップから連絡をもらって……待ちきれなくて……店へ取りに行ってしまったのだ。
場面が変わって……
ゆっくんは
「あなたのゆっくんへの愛情はよく分かっています。弟の事は……本当に申し訳なく、償いきれるものでは無いと私は思っています」
「だったら!!」と私は義姉様に縋る。
「私は天海家から、離縁に際し、それ相応のお金をいただきました。幸い働き口もございます。決してゆっくんに不自由な思いはさせません!! どうか私からゆっくんを奪わないで下さい!!」
義姉様は口をぎゅっと結んで涙をハラハラと落としながらも頑なに首を振った。
「あなたは成人式の時も、“お振袖”を着なかったわよね」
「それはそうです。あの時は既婚者でしたから」
「でも、私はあなたに“お振袖”を着て欲しいのです。“時”を戻す事はできないけれど……あなたにはこんな“天海の血”に関わる事無く……もっと素敵な方と恋に落ちて、その結晶として産まれる“本当の子供”をその手に抱いて欲しいのです!!」
「イヤです!! ゆっくんは私の子供です!!」
気が付くと、私はベッドの中で……
天井に向かって叫んでいた。
カーテンに写る外の明るさが……夜明けと雨あがりを教えてくれた。
私はゆっくりと身を起こし、頬のあちこちにある涙の跡を拭った。
10年前のちょうど今頃……私は
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