転生したら世界で唯一複数の紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~

けん

第1章 覚醒する紋章

第1話 気づいたら二度死んでいたようです

「危ないッ――!!!」


 夏休み。彼女とデートをしていたとき、それは起こった。

 以前から彼女につきまとっていた男が、俺と付き合い始めたことに逆上し、ナイフを手に襲いかかってきたのだ。


 咄嗟に彼女とストーカーの間に体を割り込ませた俺は――

 刺された。

 何度も、何度も……。


 薄れていく意識の中で、最後に見たのは、保護された彼女の姿と――

 俺を幾度も刺したナイフから、ぽたぽたと血が滴り落ちる光景だった。





(……ん? あれだけ刺されたのに、生きてる……?)


 意識が戻った瞬間、強烈な吐き気、倦怠感、耳鳴り、寒気――ありとあらゆる苦痛が全身を襲った。

 あれだけ刺されたのであれば仕方ない。

 むしろ、よく生き延びたものだと思う。


 ゆっくりと目を開ける。

 見えたのは知らない天井。

 ここは……病院か?


 すると、すぐ近くに男女二人の気配があることに気づく。

 なぜなら、すすり泣く声が聞こえたからだ。


 体を動かすと痛みが走るので、目だけをそちらに向ける。

 そこには、鼻筋の通った茶髪の西洋人の男と、透き通るような蒼い髪の女性がいた。

 二人は声を震わせながら抱き合い、涙を流している。


 ……どうして、病室に見知らぬ二人が?


 そう思った瞬間――

 男と、目が合った。


「お、おい――アイシャ! 見ろ! 目を開けたぞ!」


 その声に、女性がぱっと振り向いた。

 き、綺麗だ……彼女のお姉さん……?

 いや、彼女は一人っ子のはずだ。じゃあ誰だ、この人は?

 混乱する俺に、女性が勢いよく抱きついてきた。


「め、メナト! よかった……! あなたが無事で……三日も高熱でうなされて、心音が止まったときには、もうダメかと思ったのよ!」


 ……ちょ、ちょっと待て。

 こんな綺麗な女性に抱きつかれるなんて、まだキスすらしていない俺には刺激が強すぎる。


 そう思った瞬間、ある違和感に気づいた。


 ……俺、体、小さくね?


 確かめるように、痛みに耐えながら右手を上げる。

 やっぱり小さい。子どもの手だ。


「痛っ……!」


 突然、右手の甲に鋭い痛みが走った。


「メ、メナト! ごめんなさい! 強く抱きしめすぎたのね……!」


 女性が慌てて離れる。

 しかし、その視線は、俺と同じく右手の甲で止まった。


「て、手が……光ってる……」


 俺は思わず声を上げた。

 その声にも違和感を覚える。

 高い……まるで子どもの声だ。


 呼応するように女性が震える声で叫んだ。


「ホーク……見て! メナトの右手が、光って……!」


「なっ……!? 本当だ……にしても、なんだこれは……こんな紋章、見たことがない……!」


 右手を掲げ、じっと見つめる。

 すると、光り輝く線が肌の上を走り出した。

 まるで、見えざる筆が内側から模様を描いているかのように。


 円形の中心に、一筋の涙のような雫紋が刻まれる。

 雫は左右に分かれ、ひとつは輝く白、もうひとつは漆黒。

 その二つが交わる部分に、細い螺旋が浮かび上がった。


 続けて空中に剣のような紋様が描かれた。

 さらには、紫黒色の液体のような紋様が浮かび上がる。


 剣……? いや、間違いない。

 あれは俺を刺した、あのナイフだ!


 次の瞬間、二つの紋様がまばゆい光を放つ。

 それらはゆっくりと右手の甲へと、刻まれた紋章に溶け込むように吸い込まれていく。


「……紋様が……消えた……? いや、紋章が吸収したのか……?」


 ホークの声が遠ざかる。

 同時に、頭の奥に何かが流れ込んできた。


 ――記憶だ。

 誰かの……いや、メナトの記憶。


 メナトは傭兵団【曙光の鷹】を率いる団長ホークと、その妻アイシャの息子で今年六歳。

 一つ年下の妹――ステラがいる。


 家族仲はとても良く、いつも笑いの絶えない家庭だった。

 断片的な記憶が次々と溢れ、頭の中に溶けていく。

 まるで、自分がメナトという存在そのものへと変わっていくかのように――。


 ――そうか。

 夢なんかじゃない。

 俺は……本当に、転生したんだ。



-----あとがき-----


おもしろいです!


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-----あとがき-----

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