アラン・フィンリー外伝　～小さなエスコート～　（女×男女不問）

アラン・フィンリー外伝

～小さなエスコート～

エミリア：

私はエミリア、

エミリア・アシュフォードよ。

よろしくね、アラン。

アラン：モノローグ

僕はその日、一人の少女と出会った。

（少しの間）

アラン：

はぁ・・・まったく退屈だ。

アラン：モノローグ

僕はその日、ビクトリア・モントローズの依頼を受けて、アシュフォード家の屋敷に来ていた。

この屋敷の当主、ヘンリー・アシュフォード氏が前月８９歳にしてこの世を去り、今日はこの屋敷で遺産相続の手続きが行われるという。

ビクトリアの依頼は、その遺産相続の立ち合い人の一人として、僕に参加して欲しいということだった。

弁護士でもない僕が、どうして遺産相続の立会人なんて・・・

そう思ったのだが、どうもこの遺産相続には何やらキナ臭い思惑が入り乱れているようだと彼女はいう。

大金持ちの遺産相続なんて、そんなものなのかもしれないな。

しかし、僕がそこに居たところで、何の役に立つ訳でもないだろうに。

はぁ～あ・・・

貴族の考えることは、どうも理解できないな。

僕が退屈を紛らわせようと廊下を歩いていると、窓辺に佇（たたず）み、淋しそうに外を眺める少女の姿が目に留まった。

アラン：

こんにちは。

アラン：モノローグ

僕はその時、ただの退屈しのぎに声をかけただけだった。

エミリア：

え？

アラン：モノローグ

少し驚いたように振り向く少女。

アラン：

こんな所で何をしているのですか？

エミリア：

あなたは・・・だれ？

アラン：モノローグ

戸惑いがちな表情を浮かべながらも、少女はどことなく淋しそうだった。

アラン：

あぁ失礼しました。

僕の名前はアラン・フィンリー、

探偵です。

エミリア：

探偵さん？

探偵さんがどうしてここに？

アラン：

知り合いに、ここに来るように言われて来たんです。

今日、ヘンリー氏の遺言状の公開があるそうなので、そこに立ち会って欲しいと・・・

エミリア：

そう・・・

アラン：

でも僕は弁護士ではないので、ただいるだけなんですけどね。

どうして僕がここにいるのか・・・自分でもよくわかりません。

どうやら、あっちの部屋では何やら相談やら駆け引きやらをしているようですけど、僕には興味がなくて・・・

エミリア：

あら、じゃぁあなたは退屈なのね。

アラン：

まぁ、言ってしまえば。

エミリア：

そう・・・私も同じよ。

みんな遺産のことばっかりで、私のことなんて誰も構ってくれないの。

ここに来てからずっと放っておかれてるのよ。

アラン：

そうですか・・・

エミリア：

でも、その方がまだましなのかもしれないわね。

アラン：

どういうことですか？

エミリア：

だって、お祖父様（じいさま）が亡くなられたのよ、それなのに・・・みんな遺産のことばかり。

あれじゃ、お祖父様が可哀想よ。

もう、こんな所になんて居たくないわ。

アラン：

そうですか・・・

エミリア：

とはいっても、他に居場所なんてないし、ここでぼんやりお庭を眺めていたの。

アラン：

・・・・

だったら、今から僕と外にでも出かけませんか？

エミリア：

え？

アラン：

遺言状の公開までにはまだ時間もあるし、一緒にお茶でもどうでしょう。

エミリア：

あらいいわね。

じゃぁ付いてってあげるわ。

私はエミリア、

エミリア・アシュフォードよ。

よろしくね、アラン。

アラン：

よろしく、エミリアお嬢様。

アラン：モノローグ

こうして僕はエミリアを連れて散歩に出かける事にした。

（少しの間）

アラン：

ちょっと、エミリア。

エミリア：

何かしら？

アラン：

僕が誘ったとはいえ、みんなに黙って出てきてしまいましたけど、大丈夫ですか？

せめて、誰かに一声かけてからの方が・・・

エミリア：

大丈夫よ、どうせパパ達は遺産のことで頭が一杯でしょうから、

気にしないで行きましょ。

アラン：

・・・

アラン：モノローグ

そして僕たちは屋敷の門を出た。

（少しの間）

アラン：

さて、どこに行きましょうか。

この辺りで美味しい紅茶の店といえば・・・確かウィローズ・レストが近くにあったかな。

エミリア：

アラン、お茶もいいけど、私は何か食べたい気分だわ。

アラン：

そうですか、それじゃアフタヌーンティーにしましょう。

ウィローズのサンドイッチはとっても美味しいですよ。

エミリア：

うーん、サンドイッチも魅力的だけど、私にはもっと食べたいものがあるの。

アラン：

食べたいもの・・・ですか？

エミリア：

ええ・・・

アランはそれでもいいかしら？

アラン：

ええ勿論いいですよ。

で、エミリアは何が食べたいのですか？

エミリア：

ハンバーガーよ。

アラン：

ハンバーガー・・・ですか？

エミリア：

ええ、そうなの。

私はまだ食べた事がないけど、お祖父様が大好きだったのよ。

美味しいんですってね。

アラン：

まさか、あのヘンリー・アシュフォードがハンバーガーを・・・

エミリア：

いつも内緒で食べていたんですって。

私はお祖父様からその話を聞くたびに、いつも「いつか私もハンバーガーを食べてみたい！」って思っていたのよ。

アラン：

そうだったんですか。

エミリア：

・・・でも、やっぱりダメかしら？

アラン：

とんでもない、勿論大丈夫ですよ。

それに、ハンバーガーなら、僕はとっておきのお店を知っていますよ。

エミリア：

ホント！

アラン：

ええ、

じゃぁ、今からそこへ行ってみましょうか。

エミリア：

ええ、お願いするわアラン。

アラン：モノローグ

そして僕はエミリアを連れて、久しぶりにあの店にいく事にした。

（少しの間）

エミリア：

アラン？

ひょっとして・・・この店・・・ですの？

アラン：

そうですよ。

エミリア：

確かに看板には「ハンバーガー＆チップス」と書いてあるけど・・・

その看板もペンキがところどころ?げ落ちてるし、窓枠もなんだか埃（ほこり）がいっぱい付いている気がするし・・・

建物も今にも壊れそうな・・・

アラン：

まぁまぁ、見た目はちょっとアレですが、味は保証しますよ。

エミリア：

そう？

アラン：

ええ、じゃぁ中に入りましょうか。

エミリア：

ええ、わかったわ。

アラン：モノローグ

僕は久しぶりにこの店のドアを開けた。

「サミーズ・グリル」、ここは老夫婦が二人で切り盛りする店で、昔から美味い肉を食わせる事で常連客には人気の店だ。

そして店の外観的に常連客くらいしか来ない、いわば隠れ家的な店。

小さな店内には、カウンターと古びた木のテーブルが三つ。

壁には色あせた写真、中には若い頃の店主夫婦の写真もある。

揚げた油の香りと、焼けたパンと芋の匂いが混ざり合い、どこかなつかしさを感じさせる。

僕たちは、一番奥のテーブルに座った。

アラン：

さぁエミリア、メニューをどうぞ

エミリア：

ありがとう。

このお店のハンバーガーがお薦（すす）めなの？

アラン：

この店はハンバーガー以外にもお薦めはありますが、ここのハンバーガーはなかなかですよ。

エミリア：

そう

（メニューを眺めるエミリア）

エミリア：

あら、メニューにはハンバーガーが何種類も載ってるわね。

どれがいいのかしら、

アラン：

そうですね、ここのハンバーガーはどれも美味しいですが、中でもこのお店の名前がついた「サミーズ・バーガー」が僕のお薦めです。

それも、チーズを多めに注文するのが特にお薦めです。

エミリア：

それは美味しそうね、じゃぁ、そうしようかしら。

アラン：

では、サミーズ・バーガーのセットにしましょう。

セットのドリンクは何にしますか？

エミリア：

こういう時は、何がいいのかしら？

アラン：

そうですね、紅茶でも、レモネードでも、オレンジジュースでも、エミリアの好きな飲み物なら何でもいいと思いますよ。

で・す・が、

ハンバーガーを食べるならドリンクはコーラをお薦めしますよ、ビール以外ならね。

エミリア：

まぁ、アランはお祖父様と同じ事をいうのね。

アラン：

ヘンリー氏がそんな事を・・・

エミリア：

アランもとんだアメリカかぶれね。

アラン：

いえいえ、僕はこの国の文化や伝統をこよなく愛する人間ですよ。

でも、たまにはこういうのも、いいものですよ。

エミリア：

まぁ、何から何までお祖父様そっくり。

アラン：

ははは

じゃぁ、注文しましょうか。

エミリア：

ええ、お願いするわ。

アラン：モノローグ

そして僕たちは、サミーズ・バーガーとコーラのセットを注文した、勿論、チーズを多めにして。

（少しの間）

アラン：モノローグ

暫くすると、僕たちのテーブルにハンバーガーが運ばれてきた。

艶（つや）のある焼きたてのバンズに挟まれた肉厚の２枚のパティ、

溶けたたっぷりのチーズと、しっとりと焼かれた、はみ出たベーコン、

みずみずしいレタスとオニオン、そしてこの店オリジナルのソースが彩（いろどり）をそえ、

肉の焼けた匂いとバンズの香りが何とも食欲をそそる。

形が崩れないようにピンが刺されたハンバーガーは、丸い厚めの木目プレートに乗せられ、

香ばしく黄金色（こがねいろ）に揚がり、熱気を帯びたチップスが添えられている。

いつ来ても変わらないこの店の名物料理だ。

エミリア：

わぁ、おいしそうね。

アラン：モノローグ

プレートの横にコーラが置かれ、エミリアの所にだけナイフとフォークが置かれた。

この店は、初めてハンバーガーを食べる人のところにはナイフとフォークが置かれる。

暫くここには来ていなかったが、店主は僕の事を覚えていてくれたみたいだ。

エミリア：

アラン、さっそく頂きましょうよ。

アラン：モノローグ

待ちきれないようにナイフとフォークを持つエミリア。

アラン：

エミリア、ハンバーガーを食べるのにナイフとフォークは使わないんですよ。

エミリア：

え？

でもだって、ほら、ちゃんとナイフとフォークが用意されているじゃない。

アラン：

それは、「そういう食べ方も出来ますよ」というだけです。

エミリア：

じゃぁどうやって食べるの？

アラン：

手で食べるんですよ。

エミリア：

そんな、まさか。

アラン：

まぁ、見ててください。

まず、こうやってハンバーガーを軽く潰（つぶ）します。

（少しの間）

エミリア：

そんな・・・折角綺麗に積まれているのに潰しちゃ失礼じゃない？

アラン：

いいんですよ、この方が食べやすいから。

エミリア：

食べやすいからって・・・

アラン：

そしてこれを手でこういう感じに持って、噛（かぶ）り付く・・・あむ・・ん・・ん・・・

（美味しそうにハンバーガーを頬張るアラン）

（ハンバーガーを飲み込んで）

アラン：

そして、続けてコーラをグッと飲む・・・ん・・ん・・

（コーラを飲んで）

アラン：

んー、たっぷりの肉汁とチーズの相性は抜群、そして野菜とソースのバランスが絶妙です。

それを喉の奥に押し流すコーラの甘みと炭酸の刺激がたまりません。

エミリア：

まぁ、

アラン：

さぁ、エミリアも。

エミリア：

私に出来るかしら・・・でも、折角だからやってみるわ。

まず、軽く潰すのね・・・・

これくらいでいいかしら？

アラン：

もう少し潰した方が食べやすいですよ。

エミリア：

そう？・・・これくらいかしら、

それで手に持つ・・・っと・・

ハンバーガーって意外と重いものなのね。

アラン：

軽いハンバーガーはいくらもありますが、それは美味しさの重さですよ。

エミリア：

そうね。

それでこれに噛（かぶ）り付くのね。

アラン：

ええ

エミリア：

でも、こんな大きな口、開けられないわ。

アラン：

頑張って出来るだけ大きく口を開けるんですよ。

レディーには難しいですか？

エミリア：

そんなことないわ、やってみる。

あー・・・（口をあける）

アラン：

それで口に入るだけ頬張（ほおば）る。

エミリア：

あむ・・・ん・・・ん・・・

アラン：

どうです？

（口の中のハンバーガーを飲み込む）

エミリア：

とっても美味しいわ、

ねぇアラン、私こんな美味しいもの初めて食べたわ。

アラン：

そうですか、それはよかった。

エミリア：

でも、口の周りにソースが付いちゃって、なんだか見っともないわね。

アラン：

慣れればもう少し上手に食べられるようになりますよ。

エミリア：

お祖父様が内緒で食べてたのも分かる気がするわ。

アラン：

はは、そしてそこでコーラです。

（コーラを飲むエミリア）

エミリア：

わかったわ。

ん・・・

ハンバーガーとコーラってとっても美味しい組み合わせね。

アラン：

でしょ？

エミリア：

アラン、ありがとう。

あなたとここに来れてよかったわ。

アラン：

それはよかった。

さぁ冷めないうちに食べちゃいましょう。

そのチップスとコーラの相性も抜群（ばつぐん）ですよ。

エミリア：

それは楽しみね。

アラン：

ははは、あむ・・・ん・・ん・・

エミリア：

あむ・・・ん・・・ん・・・ふふふ

（二人でハンバーガーを食べる）

アラン：モノローグ

そして、この小さなレディーとの楽しい時間は過ぎて行った。

（店をでる二人）

エミリア：

あー、美味しかったわ。

ハンバーガーがあんなに美味しいとは思わなかった。

アラン：

ここは僕のお薦めの店なので、気に入って貰えてよかったです。

エミリア：

何だかお祖父様と同じ時間を一緒に過ごせたみたい。

本当にありがとう、アラン。

アラン：

いえいえ、このお店が気に入ったなら、また来てやってください。

その時はきっとナイフとフォークはもう出てきませんよ。

エミリア：

ふふふ、そうだといいわね。

でも、ここに通ったら私もアランのようにアメリカかぶれになっちゃうかしら。

アラン：

別に僕はアメリカかぶれではありませんよ。

エミリア：

ふふふ、そういうことにしておきましょ、

きっとお祖父様も、そう言うんでしょうね。

アラン：

では、そろそろ戻りましょうか。

エミリア：

ええ

アラン：モノローグ

それから間もなくして僕たちは屋敷に戻った。

そして、ヘンリー氏の遺言状が公開された。

遺言状には、なんとヘンリー氏の財産を全てエミリアに相続させるというものだった。

屋敷中が騒然（そうぜん）となり、エミリアは一族中の人間に囲まれて祝福されていた。

それを見て僕は、立会人の仕事が完了したと判断し、黙ってその場を後にした。

（少しの間）

アラン：モノローグ

屋敷を出て少しした時、後ろから僕を呼び止める声がした。

エミリア：

アラン

アラン：モノローグ

その声で僕は足をとめた。

エミリア：

ありがとう、アラン。

私、今日の事を忘れないわ。

アラン：モノローグ

僕はゆっくりと振り返り、エミリアを見た。

エミリア：

それでね、私、お祖父様の遺産でハンバーガーショップを開くことにするわ。

お祖父様も喜んでくれると思うの。

そうしたらアランも来てくれるかしら。

アラン：

ええ、そのお店が評判になったら、きっとお伺（おうかが）いしますよ。

エミリア：

きっと・・・約束よ。

アラン：モノローグ

僕はその少女に向けて微笑みながら手を振った。

完