第16話

「神崎……ごめん。意味がわからない」

「だからな? 俺はお前との今後を真剣に考えた結果、びゅあぴゅあ・めもり〜ずの星屑ララと」

「違うよ神崎。そうじゃない」


 とても悲しそうな顔で首を振る雨野。

 どうしてこんなにも可哀想なものを見る目をしているだろうか?

 俺の愛は本物なのに……。


「あのね。何がどうしてそうなっちゃったのか、1から教えてほしいの。アタシ、ちゃんと神崎の心の病気と向き合うから……」


 雨野は俺の手をそっと両手で取って、優しく包み込む。

 彼女は慈愛の女神みたいな顔をしている。

 

「安心しろ雨野。俺の心は平常運転だ。今もBPM180でハードコアにハートビートしている」

「ううん。もうその発言が全てを物語っているの。大丈夫。アタシを信じて。きっと悪いようにはしないからね」


 なんてこった。

 どうしてか雨野に精神的な病を疑われている。

 俺が患っているのは、先日のPTSDくらいのものだ。

 もしかすると、コミュニケーション障害も病気に入るだろうか。

 いや、でも今日の俺のコミュニケーションに問題はないはずだ。

 

「大丈夫だ。問題ない」

「ううん。問題しかないの。全部が間違えているの。徹底的に、徹頭徹尾、頭から尻尾まで全てを組み違えているの。……ごめんね、こんなになるまで気づけなくて。でも大丈夫、アタシだけは神崎の味方だよ……何処か遠い場所で2人だけで生きていこうね。誰にも迷惑をかけないように」

「待て雨野、俺はそんな辺境の地には行けない。電波がない場所では、嫁のララたそに会えなくなる」

「そんな毒電波、届かない場所に行った方が良いに決まってるよ!」


 雨野の悲痛な叫びがこだます。


 参った……まさか、ここまでドン引きされるなんて。

 でも、仕方ない。

 すべてはこんな方法でなければ、雨野と友情を保つ自信を持てない俺が悪い。


 そう。

 昨夜、俺は葛藤の末に雨野との『友情』を選んだ。


 だが、雨野に対する煩悩を捨てきれない俺は、ある決断をした。


 あらゆる煩悩を2次元へ託す。

 

 星屑ララという彼女――否、愛妻を持つことで、3次元の美少女によこしまな感情を抱く余地をなくすことにしたのだ。


「わかんない。神崎が何を考えてるのか、1個もわかんないよ……」


 困惑する雨野の両肩を俺は両手で優しく掴む。

 そして、目をしっかりと合わせて告白した。


「雨野、俺はお前が大好きだ! お前と話していると、いつだって俺の日常は華やいで見える! 俺はお前とずっと一緒にいたい!」

「フェッ!?」


 深く考えた末、俺は雨野という存在を友として大切にしたいという結論に至った。

 雨野はこんな俺にも優しくしてくれる聖女みたいな良い奴だ。


 いや、良いギャルだ!

 

「だからこそ、俺はララたそと付き合うことにしたんだ!」

「ンンン!?!?」

「正直な話、俺はこれまでお前のことを友達だといいながら、女性として魅力的に感じていた。有り体に言えば、異性として意識してしまってた!」

「いいんだよ、それで♡」

「それじゃダメだ!」

「なんで!?」

「俺は一切の曇りなく、お前を友として愛したい! だから、俺はララたそにみさおを立てるんだ!」


 顔を赤くしたり青くしたり、心配になるほど顔色を変えた雨野が、ついに真っ白になって立ち尽くした。

 レフェリーがいればタオルを投げ込まれていたかもしれない。

 だが、ここは住宅街で、レフェリーは都合良く通りがかったりもしない。


「女子はそういう視線に敏感だっていうし、雨野は気づいていてなお我慢してくれていたのかもしれないけど、実は、これまで何度もお前の姿を見て邪な感情を抱いていた……。意識しないよう必死に努めていたけど、どうしても男のさがってやつを抑えきれなかったんだ。でも、もう大丈夫。これからは、俺の煩悩の全てを、星屑ララに捧げていくことにしたから!」

 

 これこそが俺が出した結論。

 性別という枠を超えて、雨野と本当の意味で友人になれる唯一の勝ち筋。

 

 そのはずなのだが――。

 

「大丈夫か、雨野……なんだか顔色が悪いんだが?」


 真っ白に燃え尽きたと思った雨野は、次第に目から一切の光を排し、見たこともない闇に濁った目を俺に向けていた。


 なんだろう、すごく怖い。

 

「………………神崎」

「お、おう、なんだ親友。いや、これからは心の友と書いて、心友と呼ばせてく――」

「いっぺん死んでこい!」


 俺の顔面に、完璧なフォームから繰り出された雨野の正拳突きが刺さった。


 どうやら俺は、どこかで選択を間違えていたらしい……。


「神崎のバカぁぁぁ!」

 

 雨野は俺を置いて走り去る。

 最後に見た雨野の顔は、どうしてか涙に濡れていた。


 わからん……俺はいったい、どこで間違えたんだ!

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