35.魔物討伐のお手伝い(1)

「えへへ、今回も沢山出来ました」


 机の上には出来上がったばかりの牙飾り、ウサギの尻尾、ゴブリンのナイフが並べられている。その仕上がりを見ていると、自然と頬が緩んでいく。


「今回も上手に出来たな。どれも一級品だ」

「ありがとうございます。私も上手に出来たと思います」

「それにしても、この三つは人気商品になってしまったな。作成依頼が止まらないではないか」

「きっと、売り方が上手なんですよ。だから、私の作った商品が売れるんだと思います」

「全く……そんなに謙虚にならなくてもいいんだぞ」


 謙虚になったつもりはない。だって、どんなに良い物を作っていても、売り方が雑だと商品は売れないのだ。私一人頑張ったところで、商品はお客さんには届かない。


「作成が終わりましたし、あとは納品ですね。……納品」


 納品のことを考えると気が重い。また、あの対面をしないといけないと思うと、さっきまでの良い気分がなくなってしまう。


「そんなに落ち込むな。多分、前回よりはスムーズだと思うぞ」

「そ、そうだといいんですが……」

「さっ、嫌なことは早く済ませてしまおう。ヒナ、出かけるぞ」

「……はい」


 作成したものをアイテムボックスに入れると、重い腰を上げた。これから、また……対面……。どうか、スムーズに終わりますように。


 ◇


「はぁぁぁっ、つ、疲れました……」

「よく頑張ったな、ヒナ」


 ぐったりとソファーに横たわると、シオンさんが私の頭を猫手で撫でてくれる。それだけで癒されて、少しだけ気分が上昇した。


「今回は沢山納品しましたし、しばらくは大丈夫だと言っていたのが救いです。これで、頻繁に通わなくて済みますから」

「そうだな。しばらくは、自分のことに集中できそうだ」

「はい。また、新しい物を作りたいです。次はどんなものを作ろうかな……」


 時間が出来るということは、自分のクラフトの時間が出来るということ。何をするのも自由だから、考えるのが楽しい。


「……ん?」

「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと本体のほうで問題が……」

「えっ!? だ、大丈夫なんですか? 今は確か、魔物掃討戦をしているんじゃ……」

「あぁ。その魔物のことで、ちょっと厄介なことになってしまったんだ」


 魔物のことで厄介なこと? それは大変だ!


「一体、何があったんですか?」

「騎士団と魔導士団の目をかいくぐり、抜け出した魔物の一団がいるんだ。その魔物の一団が向かう先に王都があるんだ」

「王都ってここですよね? ということは、王都に魔物の一団が迫っているということですか?」

「そのようだ。我々は他の魔物のことで手一杯……。この魔物の一団は王都にいる冒険者にどうにかしてもらうしかないか……」


 困ったようにそう言った。いつも私に協力をしてくれるシオンさん。ここは、私がお手伝いをして助ける場面じゃないだろうか?


「シオンさん、だったら私も手伝います」

「ヒナが? でも、戦うのは苦手なはずじゃ……」

「苦手ですけれど、シオンさんが困っているなら手を貸したいです。どうか、私の力を使ってください」

「……そうか、助かる」


 真剣な表情で訴えると、気持ちがシオンさんに通じた。シオンさんはお辞儀をすると、凛々しく立ち上がる。


「だが、ヒナだけでは無理だ。冒険者ギルドに行って、協力を募るぞ」

「はい!」


 ◇


「うぅ……。人はイモ、人はイモ……」

「ほら、もう少しだ。頑張れ」

「は、はいぃ……」


 人が沢山いる通りを抜けて、冒険者ギルドを目指す。人目を出来るだけ避け、なんとか通りを進んでいくと、ようやく冒険者ギルドが見えてきた。


「つ、着きました……」

「じゃあ、これからヒナにはちょっと辛い目にあってしまうから、覚悟をしておいて」

「辛い目?」


 不思議に思っていると、黒猫の形が変わっていく。それはぐんぐん大きくなって、あの日見た、美女のシオンさんを形どった。


「えっ、あっ、うぅ……」

「流石に冒険者ギルドでの交渉を猫の姿でするのは無理なのでな。しばらく、ヒナには苦労をかける」


 長身のシオンさんがこちらを見下ろし、申し訳なさそうに顔を歪めた。急に人型になったから、圧が凄い。体が一気に緊張して、固まってしまう。だけど、いつもよりは緩やかだ。


 きっと、今まで沢山言葉を積み重ねてきたお陰だろう。シオンさんなら、少しは普通に話せそうだった。


「だ、大丈夫、です。その……今まで交流、してましたから」

「おぉ、そうか? なら、このままこの姿でずっといても?」

「それは、まだ、ちょっと……」

「ふむ、そうか。まだ無理のようだな。まぁ、その辺は急いでいないし、ゆっくりでいいか」


 少し寂しそうに笑うシオンさん。悪い気もするけれど、無理やり距離を詰めてこないからとても居心地がいい。私もこのままゆっくりと距離を詰めて、仲良くしてくれると嬉しい。


「じゃあ、中に入るぞ」

「はは、はいっ」


 シオンさんが扉を開けて中に入ると、私は身を縮こませて続いていく。颯爽と歩いていくシオンさんはまっすぐ空いているカウンターに行った。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。今日は何の御用ですか?」

「国家魔術師だ」


 そう言って、シオンさんは一つの勲章を見せた。すると、受付のお姉さんの態度が変わる。


「国家魔術師様でしたか! 何かありましたか?」

「今、行っている魔物掃討戦で不測の事態が起こった。一部の魔物の一団が王都に向かっている。即刻、冒険者を集めて討伐を行ってほしい」

「それは緊急の案件ですね。分かりました、すぐに対応させていただきます」


 それから、シオンさんと受付のお姉さんは具体的な話を進めていった。

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