27.まずは工房作り(2)

「よし、資材は全部集まりましたね」


 私はアイテムボックスから資材を次々と取り出し、屋敷の庭の一角へと並べていった。整えられた芝生の上に、乾いた木の匂いと石材のひんやりした気配が広がっていく。


 床材に使う加工済みの角材は、表面が滑らかで木目が美しい。石材は光を反射して淡く輝き、寸分の狂いもないほど綺麗に切り出してある。屋根瓦は赤褐色で、手に取るとずっしりと重みがあり、耐久性の高さを感じさせた。


 さらに、麻袋に詰められた砂と石灰、そして水を加えればすぐに使えるモルタルの材料。それに、建材同士を結合させるための鉄製の留め具や釘。こうして並べると、まるで小さな建築現場のようだ。


「いい資材は集まったか?」


 隣で見ていたシオンさんが、私に視線を寄こす。


「はい、満足のいくものが集まったと思います。これだけ揃えば、理想通りの工房が作れるはずです」


 胸を張って答えると、シオンさんは安堵したように息をついた。


「なら、良かった。早く作らないと、ポーションの提出期限が切れてしまうからな」

「大丈夫です。私の予定ですと、間に合う感じになっています。工房さえ完成すれば、あとは一気に作れますから」


 作業の段取りは頭の中で完璧に整っている。今日ここに積み上げた資材は、ただの材料じゃない。これから形になる私の工房なんだ。


 胸の奥が熱くなる。作るものが大きいと、ワクワク感も強くて楽しい。


「まずは基礎の土台づくりだな。これは、私の魔法で手伝えると思う」

「シオンさんが土魔法を使えて本当に助かりました。これで、大事な基礎の部分がちゃんと作れます」

「少しでもヒナの力になれて嬉しい。さて、期待に答えなくてはな」


 シオンさんが何もない芝生の前に立つと、ふわりと空気が震えた。次の瞬間、地面の下へと沈むように魔力が流れ込んでいくのが、肌で感じ取れた。


 大地が低くうなり、足元が震える。芝生の下から石が押し上げられ、土を押し分けて姿を現していく。土砂がさらさらと崩れ落ちる音に混じって、硬いもの同士が擦れる「ゴリッ」という音が響いた。


 現れたのは、均一な形に整えられた石。まるで誰かが丁寧に削り出したかのように平らな面を持ち、四角く揃っている。


「わぁ……本当に綺麗な形をしてる……!」


 自然の石とは思えないほど、角まできっちりと作られている。石材としてすぐに使える品質だ。


「ヒナが集めてきた石材と合わせても問題ないように、密度は高めにしておいた。強度は普通の建材の三倍はあるはずだ」

「三倍!? すごい……! まるでお城みたいな強度の工房になりますよ!」


 私が目を輝かせると、シオンさんは得意げに尻尾を揺らした。


「土台は建物の命だからな。ここを疎かにはできない。……もう少し広げるぞ」


 シオンさんが魔力を操作すると、地面の魔力がさらに増幅された。押し出されるように石が次々と現れ、列が伸び、幅が広がっていく。


 その光景は、まるで目の前で石の床が自動生成されているようだった。


 大地が盛り上がり、石が形を整えてせり上がり、規則正しい位置へ収まっていく。石の隙間はほとんど無く、職人が一つずつ敷き詰めたように精巧な並びだ。


「……これが、シオンさんの土魔法……」

「ふふ。ヒナが喜んでくれるなら、いくらでもやってやる」


 すべての石が揃い、最後の一つが「コトン」とはまり込むように落ち着いた瞬間――。


「完成だ。工房の基礎は、これで万全だろう」


 目の前には、真新しい石畳のような、ぴんと張りつめた土台が広がっていた。均一で、無駄がなく、強固で、見ているだけで安心感が湧いてくる。


「すごい……! 本当に完璧です。これなら、立てる工房も絶対に崩れません!」

「さて、次は柱だな。ヒナの腕の見せどころだぞ?」

「はい! 基礎が完璧なら、あとは私の出番です!」


 私は嬉しさで胸を膨らませながら、角材の束へと駆け寄った。いよいよ、私の工房作りが始まる。


「しかし、その重たい資材をどう扱うんだ? 身体強化があったから、それを使うのか?」

「いいえ、違います。生活魔法を使うんです」

「生活魔法、だと?」

「見ててください」


 不思議そうにしているシオンさんの前で私は生活魔法の中の一つを発動させた。すると、角材が宙に浮く。


「な、何っ!? 角材が浮いたぞ!?」

「物を浮かせる生活魔法ですね」

「も、物を浮かせる生活魔法っ!?」


 宙に浮かせた角材が、すうっと動き出す。まるで私の手の動きを真似するように滑らかで、そして迷いがない。基礎の上へと運ばれた角材は、図面で示した位置にぴたりと吸い付くように収まり、その瞬間――カチリ、と金属が噛み合うような音が響いた。


「ま、待て……今、勝手に留め具が動いたぞ!?」


 シオンさんが目を見開いたまま固まる。その横で、私は次の角材を浮かべながら、にこにこと頷いた。


「はい。魔力でつまんで動かしてるんです」


 説明する間にも、別の留め具がふわりと宙を舞い、角材の側面に滑り込む。留め具はまるで生きているように正確に位置を合わせ、基礎に打ち付けられるべき位置に規則正しく並んでいく。


 カチッ。カチッ。


 乾いた音が連続し、角材同士がしっかりと繋がっていく。


「ちょ、ちょっと待て……ヒナ。これは本当に生活魔法なのか?」

「そうですよ。日常生活で使う便利魔法の一つです」

「便利過ぎるだろうが!!」


 シオンさんが尻尾の毛を逆立てて叫んだ。その反応があまりにも可愛くて、私はつい笑ってしまう。


「角材だけじゃありませんよ。釘も、金具も、ちゃんと動かせます」


 私が指先を軽く動かすと、箱に入っていた釘がバラバラと宙に浮き上がり、キラキラ光りながら空中で整列した。


「釘が整列したぞ!?」

「えへへ。ちゃんと言うこと聞いてくれるんですよ」


 釘たちは私の魔力に沿って、角材の接合部分へ滑り込み――トンッ。まるで見えない槌が叩いたように、すっと材木の中へと沈み込んだ。


「なっ……! 今、釘を打つ音がしたのに、工具を使っていないぞ……!?」

「生活魔法の『魔法の手』は、実体のない手のような魔法なので、叩いたり押し込んだりもできるんです」

「押し込むだと!? それもう大工技能じゃなくて職人の精霊だろ!」


 シオンさんは驚きすぎて、もはや地面をうろうろ歩き回っていた。それを尻目に、私は手をくるくると動かしながら次の角材へ移る。


 角材が静かに宙へと持ち上がり、まるで風に乗った羽根のようにふわりと移動し、正確な位置へ降りる。そして金具が飛び、釘が舞い、次々と固定されていく。


「私の想像している魔法とは違う。魔法ってこんなに精密なことができるものなのか……?」

「魔法にも個性がありますからね。私の魔法は、こういう細かい作業が得意なんです」


 作業はどんどん進み、角材の枠組みがしっかりと形になっていく。その様子をぽかんとしたまま眺めていたシオンさんは、ついに一言ぼそりと呟いた。


「……ヒナ、お前……魔法使いの域を超えていないか?」

「えっ? 私はクラフターですよ。魔法使いじゃありません」


 もう、シオンさんは何を言っているんだか。ただのクラフターの私は生活魔法が手一杯だよ。

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