17.嬉しい手紙

「えへへ。新しい私だけの机、新しい私だけの椅子」


 出来立ての机に頬ずりして、出来立ての椅子の背もたれに体を預ける。どれも、素材から厳選して作った、私だけの作業場。


「机は木目から厳選したから、見た目が綺麗。表面を何度もやすり掛けして、スベスベになったところで、特別なニスを何層にも重ねて塗った、特別な机。椅子は形から拘って作って、背中にフィットするように。クッション素材をふんだんに使って、座り疲れがないようにした特別な椅子」


 あぁ、作る時は楽しかったなぁ。造形を考えて、木を切り出して、組み立てるための溝をしっかり掘る。その溝と溝をくっ付ける時の快感は堪らなかったなぁ。


 少しずつ組み上がっていく光景はワクワクのテーマパーク! 仕上げに綺麗に整えるのも、やればやるほど良くなるから、どこまでだって夢中になれる。


 そして、完成品に身を委ねる時の達成感。はぁ……何度味わってもいい。


「随分と幸せそうだな」

「自分が納得のいく物を作れましたからね。とても幸せです」

「今にも溶けそうなくらいだぞ」

「そんな、まさかー。えへへー」


 人間が溶ける訳がない。それはそれとして、はー……久しぶりの木工作業、楽しかったなぁ。もっと、材料があれば色々と作れるのに。


「今度は何を作りましょうか。作った物を飾る棚を作るのもいいですね。ベッドも作りたいです。あっ、ダイニングテーブルも作っちゃいましょうか!」

「まだまだ、作れる物はありそうだな」

「はい! でも、そのためには素材から厳選しないと。まず、この世界にどんな木が生えているか調べるところから初めても良さそうです」


 どんな木が生えているのか、考えただけでもワクワクする。異世界だから、変わった木とか生えてないかな? どこを切ってもつるつるすべすべの木とか、温度を感じる木とか。あー、調べたいー。


「ん?」

「どうしたんですか?」

「今、屋敷に手紙が届いたなって思って」

「そうなんですね。取りに行きましょうか?」

「いや、その必要はない」


 席から立ち上がろうとすると、目の前に封筒が現れた。


「わっ! ……あっ、そうか。転移魔法があるんでしたよね」

「そういうことだ。これで一々取りに行かなくても大丈夫だ」

「便利な魔法ですね。シオンさんがいてくれたら、何も困ることがなくなって、とっても過ごしやすいです」

「お気に召したようで何よりだ」


 転移魔法、便利でいいなぁ。私も使えるといいんだけど、必要ないと思って取得してなかったんだよね。これだと、何かあった時に瞬時に移動出来るからとっても便利だ。


「ヒナ、手紙を確認してくれるか?」

「はい。えーっと……あれ? これ、私宛ですね」

「ほう、ヒナ宛だと?」


 まだ、この世界に来て日が経っていないのに、手紙をやり取りする相手なんていないはずなんだけど……。と、思って宛名を見て見ると――。


「あっ! アウリィ商会のリネアさんからでした!」

「なるほど、それなら手紙を寄越してくる理由が分かるな。先日、売った装飾品の事じゃないか?」

「えっ、そうですか? もしかして、売れなかったから、その苦情じゃあ……」

「そんな事はないと思うぞ。開けてみろ」


 うぅ、緊張する。売れなかった連絡だったらどうしよう。そうだったら、自信無くすなぁ。


 おそるおそる、封を切る。中には折りたたまれた手紙が入っていて、震える手でそっと開いてみた。


「うぅ、読むのが辛い……」

「どれどれ……。ほうほう」

「やっぱり、ダメだった連絡でしたか?」

「そんな事はない。いい結果が書いてあるぞ。ヒナも読んでみろ」

「ほ、本当ですか?」


 シオンさんの明るい声を聞くと、私も手紙の内容が気になってきた。おそるおそる、手紙に顔を向けると、手紙にはこう書かれてあった。


『ヒナ様へ


 ご無沙汰しております。アウリィ商会のリネアでございます。


 先日は、素敵な装飾品をお預けくださり、誠にありがとうございました。お預かりした 「牙の飾り」 と 「ウサギの尻尾のアクセサリー」、どちらも予想を遥かに上回る反響をいただきました。


 特に、牙飾りは模様の美しさから「まるで本物の炎のようだ」と評判でして、身に着けた者たちは口々に「体の疲労が恐ろしくない」と語っておりました。


 一方でウサギの尻尾のアクセサリーは、可愛らしい外見ながら、不思議な柔らかさに夢中になる方が多く、その癒しの感覚に魅了された方が後を絶たず、付与した能力の希少性も相まってすぐに完売してしまいました。


 見た目の美しさと機能性がこれほど見事に両立している品は、私の長い商人生活の中でも、なかなかお目にかかれない逸品です。職人としての確かな手と、付与の妙……そのどちらもが際立っておりました。


 つきましては、もしお手元に素材やお時間のご都合がつくようでしたら、同じ品を再度ご用意いただけないでしょうか?


 また、もし新たな作品をお作りになった際には、ぜひ 真っ先にアウリィ商会までお持ち込み くださいませ。今回のご縁をきっかけに、貴方様の作品を当商会の特選品として扱わせていただければと存じます。


 お忙しい中とは思いますが、ご返答を心よりお待ち申し上げております。またお会いできる日を楽しみにしておりますわ。


 ――敬具


 アウリィ商会代表 リネア=アウリィ』


「わぁ! 凄く丁寧な手紙!」


 こ、こんな丁寧な手紙を受け取ったことがない! わぁ、ど、どうしよう! 嬉しいんだけど、申し訳なさがあって、素直に喜べないというか……。いや、嬉しい事は嬉しいんだけど!


「こらこら、ヒナ。そっちに感動している所じゃないだろう。完売という文字を見逃しているぞ」

「あっ!」


 もう一度手紙を読んでみると、そこには完売の文字が! 私が気にしていたことが書かれてあった!


「わ、私の装飾品……完売したんだ」

「凄いじゃないか。まぁ、あれだけの逸品を作ったんだ。こうなることだろうとは思っていたよ」

「シオンさん……私……凄く嬉しいです!」


 この世界でも私の作った物が受け入れられた!


 それを実感すると、胸の奥から嬉しさがこみ上げてくる。物を作るのは好きだけど、それを手に取ってくれる時も好き。コミュ障だからその場面に立ち会えないけれど、売れたことが知れるだけで凄く嬉しくなる。


「同じ商品を作って欲しいのと、新しい商品も期待していると書いてあるな。ヒナは作るのか?」

「はい、もちろんです! 期待には応えたいです!」


 同じ商品を作るのもいいし、新しい物を作るのもいい。一気に忙しくなった気がして、やる気が漲ってきた。


 よし、クラフトをやるぞー!

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