15.一仕事の後は
「あーーーーー……しんどい」
屋敷に戻ってきた私は自室のソファーにぐったりと横たわった。すると、黒猫のシオンさんがひょいと乗っかってきて、私の顔に頭を摺り寄せた。
「よしよし、偉いぞ。よく頑張ったな」
「うぅっ、シオンさーん」
その優しい言葉に疲れてささくれた私の心が癒された。
「思ったよりも会話が出来てビックリしたぞ」
「まぁ、仕事の関係ですからね、そこは違う頭が働くんですよね」
「なるほど。仕事モードになると、少しは話せるようになると……」
作った物を世に送り出すのは、作り主の義務だ。だから、そこは頑張るようにはしている。
「じゃあ、今度は仕事モードの時に本体でヒナの前に現れてみるかな」
「えっ、いや、その……上手く話せるか分かりませんよ」
「それでいい。最初は話せないかもしれないけれど、ゆくゆくは慣れていけばいい」
どうやらシオンさんは本体のまま、私と会話をしたいらしい。普通なら魔力媒体を使わずに本体で話したいだろう。
私もここまでお世話になっておいて、本体とは話したくありません、とは思わない。というか、出来れば話したいと思えるようになってきた。
「シオンさんなら、直接話してみたいです……」
「それは嬉しいな。なら、いつ話す?」
「落ち着いてからで……。今日はもう疲れて……」
「ふっ、そうか。なら、ヒナが元気な時にしよう」
一歩踏み込んできたと思ったら、半歩引いてくれる。絶妙な距離感が心地よくて、つい頼りがちになってしまう。
「どうしたら、元気になる?」
「クラフト、ですかね。でも、素材は全部使ってしまいましたし……。あっ、料理をしましょう! こういう時は甘い物!」
元気を出すためにデザートを作ろう!
「シオンさんは何か食べたい物とかありますか? 前世にあったものでも構いませんよ」
「そうか? だったら、シフォンケーキが食べたいな」
「いいですね、シフォンケーキ。生クリームも添えましょう」
「いいな、それ」
そうと決まれば、早速台所に! パッと立ち上がった時、景色が一変した。
「あっ、台所!」
「移動は面倒だからな、転移魔法を使ったぞ」
「ふふっ、ありがとうございます」
屋敷の中を転移魔法で移動するなんて、なんて贅沢な使い方なんだろう!
調理台の前に立ち、エプロンを付ける。それから、調理台に材料と器具を用意した。
「じゃあ、作りますよ」
腕まくりをして、シフォンケーキの作成だ。
卵を卵黄と卵白に分けてボウルに入れ、卵白は冷やしておく。卵黄に砂糖を少しいれてかき混ぜると白っぽくなってきた。
油を入れて混ぜ、最後に牛乳を入れてまた混ぜる。すると、先ほどよりも白っぽい生地が出来上がった。
その中にふるいにかけながら薄力粉を入れる。泡立て器でしっかりと混ぜこむと、第一段階の完成だ。
「じゃあ、次は楽しいメレンゲ作りです」
冷やしておいた卵白をハンドミキサーで混ぜ、少し泡立ってから砂糖を入れる。それからふんわりとなるまで泡立てると、最後の砂糖を入れて柔らかくなるように泡立てる。
「つのは……立ったね。うん、良い感じにメレンゲが出来た」
「これだけで美味そうだな」
「分かります、美味しそうですよね。でも、ここからの作業も良いんですよね」
ニコニコしながら、卵黄が入ったボウルに少しのメレンゲを入れる。それから泡立て器でしっかりと混ぜこんだ。
それから、残りのメレンゲを入れてヘラでかき混ぜる。
「あぁ、このかき混ぜる時の感触……堪りません。気泡が潰れる音も耳い心地いいです。あぁ~……」
「ふっ、ヒナの顔が面白い」
「今だけ許してくださいー……」
心地いい混ぜ加減を堪能していると、しっかりと生地が混ぜ合わさった。その生地を型に流し、平らに直す。
「最後は焼きですね」
「今回もスキルとかでなんとかなるのか?」
「はい、なります。まずは新しい空間を生み出して、その中の温度を上げます。これで余熱されたオーブンの空間が出来上がるっていう感じですね」
「おぉ、凄いな! そんな使い方があるのか!」
シオンさんは楽しそうな様子で新しく出来た空間を眺めた。
「この中に型を入れて、三十分待ちます」
「ふぅむ……面白い使い方だ。私の魔法研究もまだまだやれそうな分野がありそうだ」
「何かのヒントになってくれれば嬉しいです。じゃあ、待っている間に生クリームと紅茶の用意をしましょう」
焼いている間、生クリームを作り、紅茶を用意した。調理器具の洗浄はシオンさんが魔法でやってくれたので、とても楽が出来た。
そして、三十分後――。
「出来ました!」
別空間から取り出すと、ふっくらと焼き上がったシフォンケーキが出来ていた。
「熱はスキルで冷ましてっと……。型から外して、お皿に切り分けて。生クリームを添えたら、完成です」
「おぉ! シフォンケーキなんて前世以来だ!」
私達の目の前には美味しそうなシフォンケーキと紅茶が用意された。すると、パッと居場所が私室に変わる。
「あっ、シオンさん、ありがとうございます」
「いや、いい。早く食べたかったからな」
シオンさんの転移魔法だ。私はお礼を言いながら、席に付いた。
「「いただきます」」
お互いの声が重なると、フォークを手に取った。シフォンケーキに差し入れると、ふわっと生地が切れた。一口大にしたシフォンケーキに生クリームを乗せ、口へと運ぶ。
すると、フワフワと生地の食感に生クリームのまろやかな甘味が広がった。
「うん、美味しい」
「んっ、うまい!」
同時に感想が飛び出した。
「こんなにフワフワなものを食べたのは前世以来だ! あぁ、この感触にいつまでも浸っていたい」
「分かります。この感触が病みつきになるんですよね」
「口の中が幸せとはこの事を言うんだな。んー、堪らん!」
シフォンケーキは上出来だった。美味しさで幸せになっているけれど、美味しいを誰かと共有する事の方が私にとっては特別だった。
二人で感想を言いながら食べるシフォンケーキは最高だった。
「ふー、うまかった。ヒナ、作ってくれてありがとう」
「こちらこそ、食べてくれてありがとうございます」
お互いにお礼を言い合うとくすぐったい気持ちになる。この感じ……とても幸せ。
「ヒナもいつの間にか元気を取り戻したみたいだな。良かった……。本当にしんどそうだったから心配していたんだ」
「シオンさん……。今回も色々とありがとうございます」
「いや、いいんだ。ヒナの力になれて良かったよ」
シオンさんが心配してくれたことが、素直に嬉しい。こんなに誰かに頼った事は初めてだから、少し戸惑ったけど、とても心地よかった。
「装飾品、売れるといいですね」
「売れるさ。凄腕の職人が作った物だからな」
「もう……私は普通ですって」
楽しんで作った物が誰かの喜びになってくれると嬉しい。そう思いながら、装飾品に思いを寄せた。
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