5.今後の予定

「お風呂と服、ありがとうございました」


 シオンさんが貸してくれた大きな白いワイシャツを羽織り、目の前にいる黒猫のシオンさんにお礼をいう。


「私のワイシャツでなんとかなって良かったよ。それにしても、先に服を買いに行くべきだったな」

「クラフトの事で頭が一杯でしたからね。生活の事は二の次になっちゃいました」

「まぁ、料理は美味しかったし、久しぶりに会話がある食事で楽しかった」

「えへへ、私もです」


 泣いちゃって恥ずかしい姿を見せたけれど、その後は心が温かくなるような時間だった。また、あんな風に食事が出来たら嬉しい。


「明日はヒナの必要な物を買いに行くぞ。服や日用品が足りない」

「そ、そうですね……。まだ、素材が無くて自分でクラフト出来ないので、か……買い物に……」


 買い物……。対面して買わないといけないから、今からプレッシャーが強い。商品を見るのは好きだからいいけれど、人と対面すると本当にダメダメなんだよね。


「大丈夫だ。今回も私が付き合う。ヒナは商品だけ見てくれればいい」

「そ、そうしてくれると嬉しいです……。本当にシオンさんに頼りっぱなしでごめんなさい」

「気にしないでくれ。私が好きでやっているんだから」


 この異世界に来てからシオンさんに頼りっぱなしで、申し訳なくなる。だけど、久しぶりに人との温かい交流が出来て、内心は嬉しいと思う気持ちもある。


「クラフトをするのは、まず身の回りの事を片づけてからだな」

「そ、そんなぁ……」

「そうじゃないと、生活が出来ないだろう。だから、ここは頑張って身の回りを整えるんだ」

「は、はーい……」


 クラフトがお預けだなんて、拷問だ……。でも、身の回りの事を整えれば、後は好き勝手にクラフト出来るって事だよね。そのためにも頑張って整えないと。


「そんなに残念そうな顔をするな。じゃあ、身の回りを整えた後の話をしようか」

「クラフトですか!?」

「そのために必要な事だ。素材採取をするために外に出るんだろう? だったら、冒険者登録が必要だ。この異世界の冒険者は外の素材を採取する役割を担っている。だから、ヒナも冒険者になれば素材が採取出来るってことだ」


 素材がないとクラフト出来ない。その素材の入手には冒険者になって、外に出ないといけない。これはクラフトワールド・オンラインと似ている。


「大丈夫です! 冒険者登録をして、外に行って素材採取をしてきます」

「外には魔物もいるが、平気か?」

「戦うのは苦手ですけど、素材のためなら頑張ります」

「なら、冒険者登録をするといい。そうすれば、いつでも素材採取が出来る」

「いつでも……素材採取!」


 一体、どんな素材が眠っているんだろう!? 見たこともない薬草や花があって、初めて手に取る鉱石があって、未知の魔物素材もあるに違いない!


 うぅ、早く素材を採取してクラフトしたい!


「明日、身の回りの物を買った後に冒険者登録に行くか?」

「い、良いんですか!?」

「もちろんだ。そしたら、明後日には素材採取に行けるだろう」

「明後日には素材採取……。やります。私、やる事を終わらせます!」

「その意気だ」


 明後日には素材採取……。早く素材採取をしてクラフトをしたいから、明日は頑張ろう。


 ◇


「準備はいいか?」

「はい、いつでも大丈夫です」


 朝食を食べて片づけを終わらせると、身支度を整えて玄関までやってきた。必要な物は持ったし、後は外に出るだけだ。


「じゃあ、出発しよう」


 そう言って、黒猫のシオンさんが魔法で扉を開けて外に出て行った。その後を追うと、眩しい朝日が照らしてくれる。


 気持ちのいい朝。こんな陽気に当てられたら――。


「うぅ、人が……怖い……」


 当てられても、人がいる場所に行くのは怖い。身を縮こませながらゆっくりと歩く。


「まだ、人はいないだろう?」

「これから人がいる場所に行くと思うと、怖くて怖くて……。私みたいなコミュ障なんて、引きこもっている方が建設的……」

「そんな事をいうな。昨日は頑張って食材を買いに行っただろう。だから、頑張るんだ」

「は、はーい……」


 シオンさんの応援のおかげで少しは勇気が出た。恐る恐る、門まで行くと自動的に開く。その外に出て、通りを歩き出す。


 通りには人が多く歩いていて、傍にいるだけで緊張して体が硬直してしまう。それでも必死になって足を動かしていくと、黒猫がピタリと止まった。


「ここだな」


 そう言って、魔法で扉を開けるとスムーズに中に入っていく。私は恐る恐るその後を追い、お店の中に入っていった。


 すると、そこには沢山の服がラックにかけられてあった。どうやら、ここは服屋さんのようだ。


「いっしゃいませー」

「ひっ!」

「ごゆっくり見てくださいねー」


 お店の奥から間延びいた声が聞こえてきて、体がビクッと震える。も、もしかして……店員さん、来ちゃう!?


 ビクビクしながら待っていると、店員が動く気配はなかった。よ、良かった……。本当にご自由にどうぞっていう感じのお店なんだ。


「何をしている、服を選ぶぞ」

「は、はい!」


 シオンさんが急かすと、私はラックにかかった服を一つずつ見ていった。


「普段使いの服、パジャマ、下着類を買った方がいいだろう」

「ですね。服は最初から来ているこの服しかありませんし……」

「気に入った物を探そう」


 そう言って、服を手に取って見る。


「……なるほど、この生地は綿かな。けど、繊維がちょっと太いな」


 指先で布地をつまみ、軽く引っ張ってみる。少しざらついていて、通気性は悪くなさそうだけど、柔らかさは今ひとつ。


「やっぱり織りが甘いんだ。糸の撚りが弱くて、全体的にムラがある。これは……前世で言うなら手織り綿布くらいの技術かな」


 横のラックにあった別の服を取る。こちらはやや光沢があり、表面が滑らかだ。


「おお、これは……麻? でも、触り心地が麻より柔らかい。どうしてだろう? 何か加工をしているのかな?」


 興味がどんどん湧いてくる。服を選ぶというより、生地見本を片っ端から検査している気分だ。


「ヒナ、どうした?」

「この生地の織り方……面白い」

「……ヒナ?」


 気になって仕方ない。どの服を見ても、使われている素材は綿か麻ばかり。染色も天然顔料で、色数が少なく、柄も単調。


「もう少し薄くて柔らかい布があれば、もっと快適な服が作れるのに……。たとえば、獣毛を細かくして紡いだり、蜘蛛の糸みたいな繊維を使ったり……」


 頭の中で、前世の知識とクラフトスキルが勝手に働き出す。


「もし魔力で繊維を作れたら、新しい素材にできるかも。軽くて丈夫で、水にも強い布……」


 思わず口元が緩む。まだこの世界には存在しない素材。もしそれを作れたら、生活もクラフトの幅もぐっと広がる。


「ヒナ、気に入った服は見つかったか?」

「えっと……服というか、素材の研究課題が見つかりました!」

「……買い物の目的を忘れるな」


 シオンさんが小さくため息をつく。しまった、つい素材に目が行ってしまった。明日、素材採取をするためにも、やる事を終わらせないと!

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