異世界転生~生成AIで無双するはずが、いっしょに死んだ美少女の性格が悪すぎて俺が死にたい~

@mittochi

第1話


「クッソがぁぁぁ!!!」

 死ぬ直前の俺の叫びである。人口よりも熊と猿と鹿のほうが多い、地方の工場へ出稼ぎに行くための送迎バスの中での、叫びである。

 バス、崖から転落。労働時間規制解除の煽りを受け、二十五時間勤務していた運転手が、多分脳梗塞かなんかでカクンと落ちた。運転手が落ちたらバスも崖から落ちた。ファッキン山だらけジャパン。

「うおおぉぉっ!!!」

 バスの中はまるで洗濯機。人間団子になりつつ、乗客乗員全員死亡。

(パソコン、だけは……!)

 俺の命よりも大切な、型落ちのノートパソコンだけは守ろうとしたが、無駄である。普通に壊れた。

(なんだよ、なんなんだよぉぉっ!!)

 絵も描けねえ、音楽も作れねえ小説も書けねえ俺が、これからの時代は生成AIを使って、なんかこう……なんか、こう……??

(神絵師とかに、なれるんじゃねえのかよぉぉぉっ!!)

 あと株。なんか株とかで。億万長者に。

 って夢を見ながら、死んだ。



「ぐっはぁぁぁ!!!」

「やだ、汚い」

 目が覚めて、真っ先に耳に入った言葉がそれ。まあ俺にとっては聞き慣れた罵倒だが、聞いたことのない美声ではあった。なんかこう、声優っぽい?

(声優の声も、生成AIでっ……)

 なんかこう、いい感じに使えないもんだろうか、無料で。

 そう考えながら目を開けると、目の前に輝く美少女の姿があった。髪も目もピンク。なんか声優っぽい美声は、美少女の口から発せられていた。

「大丈夫ですか? はい、これでゲロを拭いて」

 と、真っ白なハンカチを差し出してくれたのは、輝くようなイケメンだ。こっちは、青い髪に青い目。決定的に、違和感があった。

「世界が、アニメ絵になってるぅぅ!?」

「うるさい、声が汚い」

ピンク色の髪をした、神コスプレイヤーみたいな美少女が、俺の叫びに鋭く突っこむ。

「汚くないもんっ! ちゃんとイケメン声優のCVになってるもん!!」

 俺は反発しながら、口の周りのゲロを拭き、改めて『世界』を見渡した。

 辺り一面、野原。遠くには山。でもなんか、ヨーロッパみたいな?? 

 きょとんとしている俺に、ピンク髪の美少女が居丈高に告げた。

「ようこそ、クソみたいな異世界へ」

「は……?」

 草の上にへたりこんだまま、俺は間抜けな声をあげる。青い髪のイケメンが、ピンク髪の美少女よりは丁寧に説明してくれた。

「バス、落ちたでしょ、崖から。それで僕たち三人、異世界に飛ばされたみたいだね」

「だね、って、言われても……」

 そんな、なろう系ですでに1000冊くらい出ている設定を出されても……と戸惑いつつ、俺は自分の身辺を見回す。

「あっ! 俺のパソコンは!?」

「ないわよ、そんなもん。自分の恰好、見てみなさいよ」

 ピンク髪に言われて、俺は自分の手足や服装をまじまじと眺める。なんか、こう、中世ヨーロッパの村人みたいな……?? 

 そして、改めてピンク髪を見ると、服装はとんがり帽子にローブ。なんか、魔法使いみたいな?? そして、青い髪の男は騎士の服装。

「僕は騎士みたいですね」

「俺はっ、俺だけは転生しても村人Aってことかあああああ!?」

「うるさい」

「いや、きみもなかなかの美形だと思う」

 ルサンチマンをぶちまける俺を、美少女は冷たく突き放し、青色イケメンは鑑を差し出してくれた。鑑を見て、俺はまた叫んだ。

「ああっ!? ほんとだ、俺、かわいい!!」

 なんか美少年になってた。髪とかふわふわで目とかきゅるきゅるしてる。金髪で、目も金色。レア感あるぅぅ。

「ノーモアデブ!! ルッキズム万歳!!」

 叫んで俺は鑑を天高く放り投げた。それを青髪の騎士がうまくキャッチする。

「他人の物を投げないでくれ」

「だからあんたはダメなのよ。何をやってもダメなのよ」

「お前が俺の何を知ってるんだよ!?」

 俺とピンク美少女は、どう考えても初対面だ。そう指摘すると、ピンク美少女は「ふん」と鼻を鳴らして横を向く。

(か、可愛くねえっ)

 険悪な空気をなだめるように、青色イケメンが提案した。

「まあまあ、そんなことより、これからどうやって生きていくか考えましょうよ」

「だわね。食べ物も水もないのよ、ここ。ほんとただの野原」

 これにはピンク美少女も俺も異存はない。青色イケメンが続けた。

「とりあえず、水場を探しますか。川を見つけられれば、そこを伝って人里にたどり着ける可能性もありますし」

「お、おう……」

 こうして俺たちはなし崩しに、地平を目指して歩き始めた。

 しかし、行けども行けども川はおろか、水たまりもない。本当にただひたすら、何もない平原が続くのだ。三時間くらい歩き続けて、俺はキレた。

「ちょっとおおおおハムスターくらいいねえのぉぉ!? ジャンガリアンとか平原の出身だろおおおお!?」

「いたところで、あんた食えるの? ハムスター」

 ピンク美少女が無情なことを聞くが、俺の答えは一つだ。

「無理!! 飼う!!」

「我々は今、ペットを飼育できるような状況にはありませんね。我々のほうが異世界で遭難しかけてますからね」

「しかけてるんじゃなくて、遭難してるのよ」

 青色イケメンとピンク美少女の冷静さが憎らしい。

 それからさらに三時間歩いても、状況は同じ。しかも、日も暮れないのだ。ずっと晴天。暑くも寒くもないけれど、ただそれだけだ。いよいよ喉の渇きが、抜き差しならぬところまできた。

「無ー理ーー!! もう死ぬーーー!!」

「六時間歩いたくらいで、大げさな」

 青色イケメン騎士が、肩をすくめる。俺、ムカつく。

「人は三日間水を飲まなかったら死ーぬーー!!」

 死ぬ前に動けなくなって詰む。が、俺にはどうしようもできない。いつもそうだった。

「ああああああ異世界転生したのに美少女どころか水もないいいいい!!!」

 俺が真情をぶちまけると、ピンク美少女が舌打ちをした。

「チッ……本当にうるさい。美少女はいるでしょうが、ここに」

「美少女だけど性格キツいからやーだー!! もっとこう、俺にとって都合のいい美少女がいいー!!!」

 俺がさらに本音をぶちまけると、ピンク美少女は突然魔道士らしい動きを見せた。

「ちょっとどいて、青と黄色い元デブ」

「はいはい」

 地べたに五体投地していた俺を、青色イケメンが引きずってどかすと、ピンク美少女が 何やら呪文を唱え、持っていた杖を空中で振った。ペットボトルの絵を描いているのだ。

 光の軌道で描かれたペットボトルは、なみなみと水を湛えて俺の目の前に落ちてきた。また偉そうに、ピンク美少女が胸を張る。

「おらよ、まずは水だ、元デブ」

「そ、そういうチート能力って、主人公である俺に付与されるもんじゃねえのかよぉぉっ!?」

 水は嬉しいが、俺の心の問題も大切だった。が、ピンク美少女はにべもない。

「お前は主人公じゃないんだよ、きっと。飲むの? 飲まないの?」

「飲む!!」

 ペットボトルの蓋を開け、ごきゅごきゅと喉を鳴らして飲むと、立て続けにピンク美少女が聞いてきた。

「次、食べ物。何が食べたい?」

「肉!!」

 俺、即答。チー牛以外の肉が食べたい、三年ぶりくらいに。ピンク美少女、まだ不機嫌。

「種類とか味付けとか、もっと細かく指定しなさいよ」

「えーとじゃあローストビーフ!! グレービーソースでぇ!」

「貧乏たらしい元デブのくせに、グレービーソースとかどこで覚えてんのよ」

 毒づきつつ、ピンク髪は空中にローストビーフのスラスラと絵を描く。わずか10秒の作画時間で、俺たちの前にドーンと巨大なローストビーフの塊が落ちてきた。

「わあああい肉ぅぅ!!」

 俺は性格が素直なので正直に喜んだが、青騎士はそうでもなさそうだった。

「できれば皿と、カトラリーも描いてほしかったな」

「うるさい、イケメン。作画コストを増やすんじゃないわよ。そこの豚を見習いなさいよ」

 俺は草むらに落ちた塊肉にそのままかぶりついて、ピンク髪の女に褒められた。それを見て、青髪イケメン騎士が苦笑する。

「うわああ、ヨダレがついてる。僕はもうそれは食べられない」

「餓死すればいいわ。どけ、卑しい元デブ」

 ピンク髪の美少女は、俺の食べかけでも平気で食べた。こいつも大概卑しいな。ひとしきり飢えと渇きを癒やすと、おもむろにピンク髪美少女が言った。

「さて、食べたわね? 味も覚えたわね?」

「おう、うまかった!」

 俺、素直。肉に関してはどっかの海賊王志望者なみに素直。そんな可愛い俺に、ピンク髪美少女が冷たく告げた。

「じゃ、再現しなさい」

「は?」

 再現、とは? 

目をしばたたかせる俺に、ピンク髪が追い打ちをかける。

「だから、あんたも水とローストビーフを出せって言ってんの。食い逃げか? まさかあたし一人に食料出させるつもり?」

「そ、そんなことを言われても……!?」

 俺は、魔法なんて使えない、と言いつのると、ピンク髪美少女はさらに絶望的なことを言ってきた。

「あたしのスキルは神絵師。あんたのスキルは、生成AI。あたしが描いたものを学習して、再現するのよ。この世界で、あんたのスキルはそれだけよ」

「は……?」

「ちなみに、神絵師スキルで描いて具現化させた物体は、二度と神絵師本人からは再生されないシステムで~す。あんたが生成AIとして再現しないと、あんたは二度とローストビーフのグレービーソースがけは食べられないし、ペットボトルの水も手に入りませ~ん」

「なん、だとぉぉっ!?」

 俺の叫びが、平原にこだました。ついでに俺は聞いてみた。水のペットボトルが出せなくても……。

「○~いお茶は!?」

「具体的な商品名を出すんじゃないわよ、この生成AI豚が!!」

「そうですね、商標がね、引っかかりますね」

 ピンクとブルーは、どこまでも俺に塩だった。

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