👻伊達正義とチーズバーガー武彦の 三途の川までレッツゴー!
@Poyomizawa
〜死の淵からの脱出編〜
序章:ネタ切れの断崖
「ダメだ……完全に、手詰まりだ」
深夜のバラエティ番組『ギリギリ☆レボリューション』の企画会議室。
天井の蛍光灯が、チープなソファーに座るプロデューサー、そしてその前に立つ二人の芸人——伊達正義(だて まさよし)
と、相方のチーズバーガー武彦(たけひこ)の顔を青白く照らしていた。
伊達正義、通称「マサさん」は、ベテランの域に入りながらも常に体を張る、この番組の象徴的存在だ。
一方、武彦は、その名の通りのビッグな体と、どんな状況でも楽しむ楽天的なノリが持ち味だった。
「視聴率も、SNSのトレンドも、もう何やってもビクともしませんね……」プロデューサーが、疲労から来るため息とともに言う。
沈黙の中、伊達正義が、ぽつりと口を開いた。
「……人間、誰しもが、最も怖がる場所」
「え?」武彦が、口にしていた菓子パンを止める。
「視聴者も芸人もスタッフも、絶対目をそらす、究極のタブー。それを、笑いに変えられたら、どうだ?」
伊達正義が提案したのは、誰もが恐れる「死の淵に近づく」という、文字通り命がけの企画だった。
第一章:ノリノリの武彦
「死の淵、ですか……具体的には?」プロデューサーが、恐る恐る尋ねた。
伊達正義は、自作のフリップを取り出した。そこには『三途の川までレッツゴー!』と大書されている。
「視聴者に『俺たちの体当たりは、もはや死まで到達する』と思わせる。安全な範囲で、極限の体験を積み重ねて、最終的に『死の淵』に一番近づけた奴が勝者だ」
プロデューサーは顔面蒼白だったが、武彦は目を輝かせた。
「おっ!それ、いいっすね、マサさん!」
「お前、怖くないのか」
「怖いのを、徐々に、ですよ!段階を踏んで、刺激の強さを徐々にあげていったら、俺たちもリアクション取りやすいやん!最初は、激辛のお風呂とか、二日酔いの二日目とか。最終回で『魂抜けそう』ってなったら、超ビッグなリアクションですよ!」
武彦は、刺激のコントロールさえできれば、最高のリアクションが撮れると確信していた。二人の熱意に押され、プロデューサーは渋々、この「死の淵」企画を承諾した。ただし、「安全第一」という誓約書を何枚も交わさせて。
第二章:生放送の事故
そして、迎えた生放送当日。
最終回として企画されたのは、山奥の古寺に伝わるという「極限の瞑想」を応用したものだった。科学的には解明されていないが、「極度の集中と恐怖によって、一時的に意識を別次元に飛ばす」という触れ込みだ。もちろん、寺側も番組側も、安全のため「効果はほとんどないだろう」と高を括っていた。
スタジオには、伊達正義とチーズバーガー武彦の二人が、白い道着姿で座禅を組んでいる。周囲には、怪しい霧と、緊張した面持ちのゲスト、そして視聴者が見守る。
「さあ、伊達さん、武彦!いよいよ三途の川、ゴールです!死の淵まで、レッツゴー!」司会者の声が響く。
伊達正義は、プロの顔で、真剣に呼吸を整えていく。
そして、その隣で。
武彦は、普段のノリで、むしろ楽しんでいた。
「うおおお!気持ちを、気持ちを無にする!えーと、晩飯に何食うかな?あ!いかんいかん!」
しかし、その瞬間だった。
武彦が、急に「ア、アァ……」と呻き声を上げた。ただのリアクションではない。顔から血の気が失せ、目が大きく見開かれる。
「あれ……?体が……軽い……」
次の瞬間、武彦の体が、ガクンと前に倒れた。同時に、武彦の頭上から、白い、ぼんやりとした霧のようなものが、まるでシャボン玉が弾けるように、スッと肉体から分離した。
スタジオが、静まり返る。生放送の画面には、倒れた武彦の姿と、宙に漂う白い光(武彦の魂)が、はっきりと映し出されていた。
「や、やったぞ武彦!すごいリアクションだ!」伊達正義は、最初、そう思った。
だが、違う。武彦の魂は、困惑したように宙を漂い、肉体から遠ざかろうとしている。そして、伊達正義の体からも、同じように白い魂が、武彦の魂に引きずられるように、ふわりと抜け出したのだ。
「え、俺まで!?ちょっと待て!これは台本にないぞ!」伊達正義の魂が、慌てて叫ぶ。
武彦の魂が、焦りながら返事をする。
「マサさん!俺、言いましたよね!**刺激の強さを徐々にあげたらリアクションも取れるやん!**って!俺、一気に限界を突破しちまったみたいです!」
プロデューサーの叫び声が、遠く、ノイズのように聞こえる。
「事故だ!緊急事態!生放送を、止めろォォォ!」
第三章:無限の死の淵
魂となった二人が見たものは、あまりにも巨大だった。
そこは、音も光もない、静寂の空間。まるで宇宙のようであり、深い海の底のようでもある。全てが、限りなく薄い灰色で満たされ、広大すぎて終わりが見えない。ここが、**無限の広さの「死の淵」**だった。
二人の肉体は、スタジオに倒れたままだ。このままでは、魂が肉体に戻る前に、肉体は「死」を迎えてしまう。
武彦の魂が、泣きそうになる。
「やばいっすよ、マサさん!ここは、三途の川の、その手前のドでかい待合室ですよ!チケットもなしに、一発でぶっ飛んじまった!」
伊達正義の魂は、動揺を抑え、プロデューサーとしての本能を奮い立たせる。
「武彦、落ち着け!俺たちは、まだ生きてる。魂が肉体から離れかけてるだけだ!戻ればいい。ここが無限の広さなら、無限に探せば、脱出ルートがあるはずだ!」
「脱出ルート?どこにっすか!」
その時、伊達正義の魂の前に、淡く光る一本の線が現れた。それは、まるで魂と肉体を繋ぐ、細いゴムのようなものだった。
「これだ!魂の、命綱!この線が、俺たちの肉体に繋がってる!この線が消える前に、線伝いに戻るぞ!」
「でも、これ、めっちゃ細いですよ!すぐ切れちゃうんじゃないですか?」
「切れるかどうかは、戻ってみてから考える!行くぞ、武彦!三途の川までレッツゴー、じゃなくて、肉体までカムバックだ!」
伊達正義の魂は、真っ先に、命綱を掴んだ。魂だから、感触はない。だが、進むべき方向は示している。
武彦の魂も、その後に続く。
広大で、全てが同じ灰色の空間。少しでも気を抜けば、方向感覚を失い、永遠に迷い込んでしまいそうな場所だ。
しかし、伊達正義は、決して諦めなかった。
「武彦!お前は、どんな状況でもノリノリで楽しむのが特技だろう!この真っ暗な中を、どう笑いに変えるか考えろ!」
「笑い!?この状況で!?えーと、じゃあ、この命綱は、『生還!チーズバーガー武彦伝』ってことで!」
武彦は、恐怖をノリに変えようと、必死に笑いを作り出した。
二人の魂は、細い命綱を頼りに、無限の「死の淵」を逆走し始めた。その先に、倒れた二人の肉体と、生還という名の「最高のリアクション」が待っていると信じて。
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