第35話 これが爆発オチってやつだね






『ああ、王よ。黒き王よ。どうか愚かな我らをお許しください』



 よく分からんけど、ロボットが僕の前で跪いて頭を下げる。


 え、何事?



「ノーフェイスさんのことを誰かと勘違いしてるんですかね?」


「とりあえずぶっ壊していいか?」


「ガムラン様!! 少し空気をお読みになってください!!」


「クリスティーナ様がおっしゃいますか」



 騒ぐクリスティーナたちを横目に、ロボットは言葉を続けた。



『王よ。貴方は常に正しかった。間違っているように見えても、貴方はいつも正しい道を歩み、民を導く偉大な王だった』


「へー」


『それを、我らは裏切った。神こそが我らを救うのだと信じて裏切った』


「そっかー」


『王よ。どうか、王よ。我らを罰してください。正しい貴方を裏切って間違えた愚かな我らを、どうか罰してください』



 罰してって、いきなり言われても困るよ。


 このロボットがさっきから何を言ってるか分かんないし、いっそ無視してしまおうか。


 そう思ったけど。



『王よ。どうか、どうか我らに罰を……』



 いくらロボットでも、今にも泣きそうな相手を無視するのは心が痛む。


 僕はロボットに近づき、その肩に手を置いた。



「許す。今までお疲れ様」



 このロボットが過去に何をしたのか、僕に知る術はない。


 でもその黒き王とかいう中二病が名付けたようなセンスの名前の人も、かなり慕われてたみたいだし。


 ここまで真摯に謝られて許さないような人じゃないでしょ。


 少なくとも僕なら許してしまう。


 幸いというべきか、ロボットは僕のことを黒き王と勘違いしてるみたいだし、代わりに許しちゃおうってね。


 

『王よ。ああ、慈悲深き王よ。愚かな我らをお許しくださるのですね。叶うならば、もし叶うのであれば、我らが再び貴方の旗本へ集うことを……どうか……どうか……お許し……ガガ……』


「あ、止まっちゃった」



 ロボットの目から光が失われ、身体の一部が爆発して砕け散った。


 同時にロボットが守っていた扉が開く。


 その扉の先にあったものを見て、ベルチカは目を輝かせた。



「わ、わわわわ!! な、なんですか、この黄金の山は!? 山分けしても数百億マーニはあるんじゃないですか!?」



 ダンジョン最奥には金銀財宝があった。


 そういえばロボットもこの先は王の宝物庫、みたいなこと言ってたっけ。


 はっ!?


 ここにある金銀財宝を全て持ち帰ったら生涯働かなくて済むのでは!?


 ……いや、やっぱやめとこう。だって――



「あん? 金なんて興味ねーよ。それよりノーフェイス、オレ様と組もうぜ!! お前とならどんな強い奴もぶっ殺せる気がするからなァ!!」


「わたくしは何もしていないので皆さんで山分けしてください。クリスティーナ様は……」


「王女がダンジョンで見つかった財宝の所有権を主張すると面倒なことになりますので……私も遠慮します。どうかノーフェイス様とベルチカ様で分配してください」



 剣聖、メイドール、クリスティーナがお宝のゲットを拒否しちゃったからね。


 何より。



「ならここからここまで全部ボクのものということで!! もう誰にも渡しませんからね!!」



 ベルチカを見てよ。目がお金になってるよ。


 勇者の末裔がよだれ垂らしながら金の延べ棒に頬ずりしてる姿は、あまりにもカッコ悪かった。


 ノーフェイスはカッコイイ存在。


 だからお金にがめつくないし、何よりクリスティーナたちに今のベルチカと同じ生き物を見るような目で見られるのは嫌だ。



「私も遠慮しておこう。金に執着はない」


「じゃあこれ全部ボクのものです!!」



 ベルチカは大量の金貨を手に取り、ポケットに詰め込み始めた。


 ……要らないとは言ったけど。


 僕はふと宝物庫の入り口で停止したロボットの方を見る。



「ベルチカ。金銀財宝は要らないが、あのロボット――ゴーレムをもらっても構わないかね?」


「え? 全然いいですけど……もう完全に壊れてますし、ああいうゴーレムは現代の魔法技術で修復しても元通りの性能は発揮できませんよ?」


「承知の上だ。ただ、ずっと一人でいたのにまた放置し続けるのは気の毒だろう?」


「……ただのゴーレムですよ?」


「分かっているとも」



 ただのゴーレムでも、可哀想だと思っちゃったんだから仕方ない。


 

「ふふ、ノーフェイスさんって意外とロマンチストなんですね」


「ノーフェイス様、素敵です!!」


「……そうですわね、クリスティーナ様」


「なァおい、まじでオレ様と組もうぜェ!! んでもって強い奴をぶっ殺して治してぶっ殺そうぜェ!!」



 とまあ、全員から許可を貰ったのでロボットの残骸は僕がもらうことに。


 宝物庫にあった銀の鎖をロープ代わりにロボットを固定して、いつでも運び出せるようにした、その時。



「ん? なっ、なんですかこれ!?」


「ベルチカ、何かあったのかね?」


「あ、ああああれ!! アーティファクトですよ!!」


「アーティファクト?」



 ベルチカの視線の先にあったのは、一つの大きな鎌だった。


 死神が持ってそうな大鎌だ。



「間違いありません!! あの独特な紋様といい、あの独特な刃の色はオリハルコンとミスリルの合金です!! きっとこのダンジョンよりも古い時代のものですよ!!」


「見て分かるのかね?」


「分かります!! このダンジョンを作った古代魔法文明よりも更に昔、まだ魔法という概念すら存在しなかった先史文明以前のアーティファクト!! ボクの聖剣と同じです!!」



 ベルチカの聖剣って、そんな大昔の時代のものだったんだ?



「こ、これもボクがもらってもいいですか!? というかもらいます!! ――って痛あっ!?」


「大丈夫か?」



 ベルチカが大鎌に触れようとした瞬間、バチッと火花が散った。


 見ればベルチカの手は真っ黒焦げに。


 うわー、痛そう。大鎌の周りには何か目に見えないバリアでも張られてるのかな。


 とりあえずベルチカの手を治療しないと。



「治そう」


「うぅ、ありがとうございます。……どうやら強力な結界が張られているみたいですね」


「……ふむ。私がやってみよう」


「ノーフェイスさん? いくらノーフェイスさんでも触れようがないんじゃ……」


「我慢すれば行けそうだ」


「え、我慢?」



 僕は大鎌に向かって手を伸ばした。


 指先から少しずつ炭化するも、即座に治癒魔法で治す。

 めちゃくちゃ痛いけど、普通に我慢できるくらいの痛みだ。


 よし、掴んだ。


 あとは無理やりバリアの張られている範囲から引っ張り出してしまえば――


 アーティファクト、ゲットだぜ。



「ゴ、ゴリ押しですね……」


「ほら」


「え?」


「……? これが欲しかったのでは?」


「え、いや、も、もらってもいいんですか? 手に入れたのはノーフェイスさんなのに」


「私は構わないが」


「ノ、ノーフェイスさん……ッ!!」



 そもそも大鎌なんて持ってたって使い道がないからね。



「うぅ、敵対してなかったらお嫁さんに立候補したいくらいです。……今からでもボクたちの仲間になりませんか?」


「遠慮しとく」


「……そんなに即答しなくてもいいじゃないですか。ボクだって女の子なんだから、告白を断られたら傷付くんですよ」



 何故か頬を膨らませて凹むベルチカに大鎌を手渡す。


 しかし、大鎌を受け取ってすぐに機嫌を直したベルチカがキラキラした目でそれを眺め、試しにブンブンと振り回した。


 と、その時だった。


 大鎌はベルチカの手から弾けるように離れ、僕の方に回転しながら飛来した。



「危なっ。……何の真似だ?」


「ち、ちが!! なんか勝手に飛んでっちゃったんです!!」


「本当に?」


「本当です!! 見ててください!!」


「ふーん?」



 半信半疑でまたベルチカに大鎌を渡すと、ノーモーションで僕の方に猛回転しながら飛んできた。


 うお、まじか。



「どうなってるんだ……?」


「多分最初に手に持った人を所有者として認識するアーティファクトだったのかも……うぅ、その大鎌はノーフェイスさんにお譲りします」


「そ、そうか」



 ベルチカには申し訳ないけど、そういうことなら貰っておこう。



「ベルチカ様とノーフェイス様、いつの間にあんなに仲良く……羨ましい!! 私ももっとノーフェイス様と親しくなりたいのに!!」


「仲良くしたいならすりゃいいじゃねーか」


「簡単におっしゃらないでください、ガムラン様!! うぅ、なぜノーフェイス様は私を差し置いてベルチカ様と……はっ!! も、もしかしてノーフェイス様は控えめな胸がお好きなのでは!?」


「クリスティーナ様、その発言は一部の女性を敵に回すのでお気を付けくださいまし」



 こうして皆でわいわい宝物庫を漁っていた、その時だった。


 ダンジョン全体にアナウンスが流れる。



『核の喪失を検知しました。規定に従い、機密保持のため、自爆プロトコルを起動します。ただちに転移術式による脱出を行ってください』



 わーお。


 ロボットといい、何かと自爆好きだねこのダンジョン。



「ま、まだ回収してないお宝が!!」


「ベルチカ様、お宝より命を優先してください!! 早く転移魔法陣に!!」


「う、うわあああああああああんっ!!!!」



 最後にベルチカの悲痛な叫びが木霊し、僕たちがダンジョンから脱出した後、爆発音が王都に響き渡るのであった。


 これが爆発オチってやつだね。








―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話


作者「ちなベルチカはどんな堅物でも付き合った相手をゲロ甘やかして駄目人間にするタイプ」


ア「へー」



「黒き王はカッコイイと思う」「最後のベルチカがかわいそう笑」「ベルチカルートは見たい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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