第4話 見境なき治癒魔法士団
一台の馬車がキシリカ王国の森を進む。
護衛のために雇われた冒険者たちが馬車を囲み、周囲を警戒していた。
しかし、冒険者たちはすでにボロボロで疲労困憊な様子だった。
「ちくしょう、一度の護衛依頼で四回も魔物に襲われるなんて不運にも程がある!!」
「申し訳ありません、無事に町まで辿り着いたら報酬は弾みますので……」
「あっ、いや、別に雇い主のアンタを責めたわけじゃない。……悪かった」
ギスギスした空気が流れる中、その異質な集団は姿を現した。
道の両脇、草木の茂みからカラスのような仮面を被った集団が飛び出してきたのだ。
「ヒャッハァーッ!!!! そこの商隊ッ!! 止まれぃ!!」
「な、なんだテメーらは!! 盗賊か!?」
「怪我人はいねがァ!? いるよなァ!! いるに決まってるゥ!! 囲めェ!! 一人残らずやっちまいなァ!!」
「「「ヒャッハァーッ!!!!」」」
「う、うわあああああああああああああああああああああああッ!!!!」
冒険者たちに襲いかかる仮面の集団。
咄嗟に迎え撃とうとする冒険者たちだったが、疲労に加えて多勢に無勢。
あっという間に冒険者たちは追い詰められ――
「「「ヒールッ!!」」」
「え?」
仮面の集団は冒険者たちに治癒魔法を施し、テキパキと怪我人の手当てを行った。
「な、なんだ? 何が、起こってんだ?」
「おい、そこのお前!! お前このパーティーのリーダーだな!? 一番重傷だ!! ノーフェイス様!! お願いします!!」
「なっ、ノーフェイス!? それって『黄金姫』と『白銀姫』の病を治して颯爽と立ち去ったという、あの!?」
仮面の集団が道を開くと、その先に一際異質な存在感を放つ仮面の男が立っていた。
仮面の奥で金色の瞳がキラリと光る。
「ヒャッハァーッ!!!! 護衛のお仕事お疲れ様!!」
「え、あ、なんか思ってたんと違う!?」
「ヒャハハハハ!! 緊張しなくて大丈夫!! 何も痛いことはしないとも!! エクストラヒールッ!!」
「か、身体から痛みが消えた!?」
「最近魔物が増えてるから気を付けてね。ちなみにここから半日行った先の街にある名物のミルクプリンが超美味しいからおすすめ」
「あ、ハイ」
「ヒャハハハハッ!!!! これで怪我人はいなくなった!! 撤収!!」
ぞろぞろと撤収の準備を始める仮面の集団を、冒険者の一人が呼び止めた。
「ま、待ってくれ!! アンタたちは何者なんだ!?」
「私たちは『
「ナ、ナイチンゲール……?」
仮面の集団が立ち去り、その場には完全回復した冒険者たちがいた。
その後、冒険者たちは何度か魔物の襲撃を受けるも難なく撃退。
商人から高額の報酬を受け取り、酒場で謎の仮面集団について噂するのであった。
◆ ◇ ◆
「アスク、あれは『怪人ヒール男』と呼ばれても仕方ないわ」
「え?」
「あのヒャッハァーッ!! してる時の貴方よ。アレのどこが紳士的なのか、クリスティーナ王女殿下に聞いてみたいわね」
「いや、最初は紳士的に振る舞えるんだよ。でも人を治療するとなんかテンション上がってああなっちゃうんだよね。不思議」
商人を護衛していた冒険者を治療した後、僕たちは拠点に戻ってきた。
メディクス子爵領内の某所にある森に小さな村を作り、そこを拠点としたのだ。
この拠点では奴隷商人から買い取った奴隷たちが暮らしている。
今日はその拠点の視察にやってきた姉さんが、ついでに『
「それにしても驚いたわ」
「何が?」
「奴隷たちを買って一ヶ月、その半数近くがそこそこの治癒魔法を使えるようになるなんて。一体どんな訓練を施したのかしら?」
たしかに魔法の習得は一朝一夕とはいかない。
魔法には相応の知識と魔力を扱う技術があってこそ発動するもので、貴族に魔法士が多いのはそのノウハウを世代を超えて受け継いできたからだ。
では、元々平民だった奴隷たちがどうやって魔法を使えるようになったのか。
答えは人体改造だ。
これは僕が自らの肉体を改造する中で発見したことだけど、この世界の人間には魔力回路という血管に酷似した器官が備わっている。
魔法士はこの魔力回路を魔力操作によって少しずつ拡張して魔法を使えるようになるんだ。
僕はその魔力回路を無理やり広げることができて、あとは知識だけ詰め込めば治癒魔法くらい使えるようになる。
まあ、無理やり魔力回路を広げたせいか……。
「ヒャッハァー!!」
「ノーフェイス様、次はどこのどいつを治療してやりますか!?」
「いいことするのは気分がいいわねェ!!」
奴隷たちの頭がアレになっちゃった。
魔力回路の異常は治癒魔法じゃ治らないので、彼らは一生人助けしてヒャッハァーッ!! するだけの存在に……。
「『
「『怪人ヒール女』もいるよ」
「もう『怪人ヒール男』は『
「ヒャッハァーッ!! な部下を従えてる設定はちょっと……」
「我慢しなさい。あとは私がそれとなく王女を誘導して『
流石は姉さん。
これで僕もヒーローみたいに顔を隠してカッコよく活動できる。
テンション上がってヒャッハァーッ!! しないように練習しておかないと。
「はあ、やることが多いわね。学園に入学する準備もしなきゃだし」
「学園って?」
「は? 学園は学園よ。王侯貴族の子息子女は十五歳になったら魔法の扱いを学ぶために入学しなきゃいけない魔法学園が王都にあるでしょう?」
へー、そうなんだ。
「でも姉さん、今年で十六歳でしょ?」
「私はメディクス子爵家の跡取りだもの。お父様とお母様が外遊で留守にするなら、子爵代理として領地を収めなきゃいけないから一年だけ通学を免除されてるのよ」
「大変だねー。勉強頑張って」
「別にそうでもないわ。一年生で習うことは十歳までに学んだし。……というか他人事みたいな反応だけど、貴方も通うのよ?」
「え?」
あ。そういえば僕、今年で十五歳だっけ。
学園、学園か。
前世じゃ病気で小学校にも通えなかったし、少し楽しみかも。
友だち百人できるかな。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
作者「ちな見境なき治癒魔法士団が頭アレになっちゃったのは魔力回路を無理やり開いたからではなく、単純に自分たちの救い主であるアスクを真似てのこと。アスクは知るよしもなし」
「盗賊に間違われてるの草」「地味に凄い発見してない?」「ただのやべー奴らやんけ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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